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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜ソフィアの庭〜
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冬 2

 ソフィアは2泊しても帰って来なかった。


 交代したソフィアの護衛が、また手紙を持って帰って来たんだ。


「セオドラ様。ごめんなさい。

 わたくし、体の調子が良くありません。

 マリアンヌにコペル家に来てもらいたいです。」


 ソフィアの診察を終え王城に戻って来たマリアンヌは、少し微笑んだ。


「ソフィア様は体が怠いのと仰っています。」


「しばらく、様子を見て大丈夫かな?

 そうか、すまないな。」


 マリアンヌは首をゆっくりと左右に振った。


「殿下がそのような事を仰る必要はありません。

 今は少し皆に甘えたいのでしょう。

 ずっと頑張ってこられたのですもの。少しぐらいならよろしいかと…。

 ゆっくりと体を治す様にとソフィア様にお話し致しました。」


 では、と部屋を出ていくマリアンヌの後ろ姿を見ながら、俺は小さく小さくため息をついてしまった。


 こうなるんじゃないかな、と思ってた…。

 



 

 そんな時、タマラ国の情報が思わぬところから情報が舞い込んだ。

 

 タマラ国が金で女騎士を集めて殺人鬼に仕立て上げようとしている、という話をカーラが聞いたという。騙されてタマラ国に連れて行かれ、これはヤバいと必死で逃げ帰ったカーラの友人の話だ。

 カーラはそんな友人がスカーレット国の騎士団に入る事は可能だろうか、とジェイクに相談したのだった。


 俺はルーク、ジェイクと共にカーラを執務室に呼んで話を聞いた。


 集められていた女性騎士は5人ぐらいだった…と友人が言っていたという。


「カーラと友人が騎士として働いていたのはスカーレット国の南端、ナダハナ侯爵の領地だったな?

 パール国とも近い。

 パール国とタマラ国の事で何か変な噂や出来事を聞いた事はあるか?」


 俺の問いにカーラはしばらく考えて答えた。


「私にパール国から引き抜きの話が来ました。給料は今の3倍出すからパールで騎士とならないか、と言われたのですが、胡散臭いので断りました。

 話を持ってきたのは、パール国の事務官だと名乗る男で、父と酒場で知り合ったとか。でも父は、はっきりとは覚えていませんでした。」


 なるほど…。

 

 ルークが、その男の特徴を教えてくれ、と言うとカーラは紙とペンでサラサラと絵を描いた。


「こんな男でした。

 体は細く、手も足も長い。髪は黒髪です。顔の特徴は眼です。大きくて…なんと言いましょうか…ギョロっとしています。」

 

 話してくれてありがとう、参考にするよ、とカーラを下がらせるとルークが唸った。


「女性騎士ばかり集めて何をするのか。

 狙いは見えますね。ソフィア様とハンナ妃…。」


 ソフィアとハンナに近づく為の女性騎士。

 殺害も厭わない…殺人鬼。


 ソフィアを奪って交渉の材料にする。

 ハンナをタマラ国に拐わせ、連れ去られた責任を取れと我が国に詰め寄る。


 パール国の考えそうな事だ。


 ルークがキッパリと言った。


「必ず、このギョロ目の男を捕まえて、吐かせます。お任せください。そして、それを元にパール国をかる〜〜く締め上げておきます。


 今、パールに攻め入っても、パール国民の為にはなりませんからね。トルディオン王子がもう少し大きくなるまで、これ以上は揉めずにいたいです。


 タマラ国には食糧の支援を申し出ておきます。そして、女騎士達を解放せよ、余計な事はするなよ、と優しく優しく言っておきますから、しばらくは大丈夫だと思います。


 ロッシュ宰相と相談しておきます。


 それから、ダニエル殿に体制と軍備強化の件はギョロ目の男を捕まえるまで、もう少しの辛抱をお願いします、とお伝えいたします。そんなにはお待たせしないつもりです。」



 ルークの話が終わったところで、ジェイクが俺を見た。


「じつは、殿下にご相談があるのです。

 トルディオン王子に関する事なんですが…。

 殿下はアレックスの師匠という男をご存知ですか?」


 ん?知らんな、という俺にジェイクは身を乗り出して話し出した。


「アレックスが若い頃に師と仰ぎ、魔力を鍛えてもらった男がいます。アレックスが、自分が最強の魔力を持つ男と言われる様になったのは師匠のお陰だ、と言っていたのです。

 

 その男を招聘してトルディオン王子を鍛えてもらいませんか?王子になるべく早く力を付けてもらうためにはそれが良いと思います。

 ルーク殿と協力して師匠の居場所は突き止めてあります。

 セオドラ殿下、許可を!」


 よし、頼む、と俺が言うが早いか、ルークとジェイクが消えながら言った。


「2人で行って参ります。」


 お前たち、仲良しじゃないか…という言葉は聞こえなかったか。


 


 そして、その夜も俺は、ポツンと1人だった。

 なんとなく窓から赤い月と青い月を見つめて、ため息を吐く。


 月の光だけは変わらない。




 次の日に俺たちの前に現れたのは眼光は鋭いが、爺さん…と言った方が似合う感じの男だった。


 来て頂き感謝している、と俺が言うと、その爺さんはくつくつと笑った。


「抵抗するのも大人気ないのでやって来た。嫌になったら帰るまでの事。礼には及ばぬ。」


 俺が名を尋ねると、リリウと答え、年は忘れた、などと言った。


「招聘の理由は聞いた。

 トルディオン王子を呼んでいただこう。会ってからどうするのかを決めたいのでな。

 言っておくが、わしの実力を試そうなどとは思わぬ事だ。命の保証はしかねるぞ。」


 いい感じの爺さんだ…!


 などと思っている内にトルディオン王子がやって来た。王子はリリウを見ても動じず挨拶をし、リリウを見た。


 リリウが、ほう!という顔をしてトルディオンに聞いた。


「その眼のせいで虐められたか?」


「そんな事はどうでも良い事だと思っています。生まれながらの特徴は変えられません。」


「魔力を鍛えて何をする?」


「狂ったモノを正しい方向に直し、幸せを取り戻す。それだけです。」


 リリウは唇を片方だけ上げた。


「わしについて来れるか?命の保証はないぞ?」


「構いません。私をお導きください。」

 そう言ってトルディオンは片膝をつき、右手を左胸に当て頭を垂れた。


 リリウが俺を見て言った。

 

「トルディオン王子はまだ学院に通っている年であろう?

 学業の妨げになってはならぬからな…。

 …週末、泊まり込みでわしの所で修行する、というのでよいかな?

 まだ子供であるから1人では辛かろう。友を1人連れて来る事を許可する。

 従者は1人のみにしてもらう。なに、家が狭いだけのことよ。」


 そして、トルディオンを見ていった。

 

「では、週末に我が家に参られよ。」


 音もなく、風も巻き起こさず、リリウは消えて行った。


 トルディオン王子は、許可された事にホッとしたようで、俺を見て微かに笑った。

 

 そして、元気よくいった。


「フィル君と行きたいと思います。フィル君なら私と共に修行を楽しんでくれるでしょうから。

 よろしいでしょうか?」


「おお!それがいい。

 修行は辛いだろうが、2人で乗り切ってください。」


 俺のその言葉にトルディオン王子は血のように赤い瞳をキラキラとさせた。そんな所はまだ10歳の少年らしい。リリウと対峙した時の大人びた雰囲気とは別人だ。


「フィル君に話してきます。

 一緒に行くと言ってくれると思います!」


 駆け出していく後ろ姿に、俺は心の中で声を掛けた。


 トルディオン王子、頑張ってください。


 俺は心からそう願った。

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