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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜ソフィアの庭〜
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冬 1

ソフィアの庭に冬が訪れました。


セオドラとソフィアの物語、お楽しみください。

 ソフィアの庭にも北風が吹くようになった。


 すっかり葉を落とした木々は鼠色とも焦茶色とも言えるような色になり、あんなに花が咲いていた花壇も今は何の色もなく、薄氷が張ったような土が見えるだけだ。


 ピューピューという風の音が聞こえる夕暮れ時、俺は自室で1人ポツンとしていた。


 ソフィアは実家であるコペル男爵家に帰っている。ソフィアにはジュエルが護衛として付いているから、心配はないんだが…。


 1人でポツン…はなんとも手持ち無沙汰で、余計な事をあれこれと考えてしまう。困ったもんだ、と俺は頬をほりほりと掻いた。




 今、ソフィアの人気は絶大だ。王城の中の者達は無論の事、街での人気も高く、ソフィアの姿絵を皆が欲しがるのだそうだ。


 貴族達もソフィアの事を褒める事はあっても、悪く言う者はもういない。ベラが言っていた通りになった。

 

 ベラはこう言ったんだ。


「王妃のいない今、妃殿下はこの国の社交界のトップ、絶対王者…いえ、絶対女王ですもの…。

 ほんの少しの頑張りがあれば、大丈夫です。」


 そして、ソフィアは本当に頑張ってくれている。



 男爵家の次女で、病気がちだったソフィアを妻にと望んだのは俺自身だ。飲んだくれていた俺に光を与えてくれたのがソフィアで、俺はどうしてもソフィアと一緒に幸せになりたかった。

 

 だが、俺がソフィアと結婚すると発表した時、男爵家の次女ごときと…?と陰口を叩く者もいたし、コペル男爵家に嫌がらせの手紙も届いていた。身分なんか関係ないだろ、と俺は思っているがそうでない者達もいたことは事実だ。



 心無い言葉や態度にコペル男爵家の皆は耐えてくれた。


 ソフィアの父、エイダム コペル男爵は俺に言った。


「私共の事は心配ありません。

 これでも太古の昔から続く男爵家でございます。いざという時には王の元に馳せ参じる、武勇で名を轟かせている一族です。何を言われてもどうという事はありません。

 私共の願いはただ1つ。

 ソフィアの幸せだけでございます。」


 将来の王妃の実家に上位爵位を授けよう、と国王である父上がおっしゃった時もコペル男爵はこう言った。


「分不相応な事は、我身を滅ぼすだけでございます。それにソフィアが王妃と呼ばれる立場になった時、今の私達のままでソフィアに恥ずかしい思いをさせる事はないという矜持は持っております。

 私共は今まで通りの暮らしを続けて参りたいと思います。」



 コペル男爵夫妻は必要がない限り王城に顔を出さない。公の場では自分達のことを、コペル男爵、と呼び捨てにしなければならない娘の立場を慮っているのだ。


 そして、必要がない限り娘のソフィアをコペル家に呼ぶこともない。

 



 そんなコペル家からソフィアに、遊びに来ないか、と控えめな連絡が来たのは5日前だった。


 俺達より先に結婚していたソフィアの姉、フローラからで、子が生まれたから会いに来れないか、という内容だった。


 父上も母上もソフィアに会いたがっています。


 そう書かれた手紙に、ソフィアはぴょんぴょんと飛び跳ねるように喜んだ。


「セオドラ様!フローラお姉様の子に会いに行きたいです。行ってもいいでしょうか?」


 もちろんだよ、とあちこち調整し、お忍びの形でコペル家に行ったのが昨日の夕方だ。


 俺も挨拶がてらに赤子の顔を見たかったので、ソフィアと共に飛んだ。ジェイクはアリスを連れて飛び、ジュエルと新人女性騎士カーラがソフィアの護衛の為に付いて来た。




 フローラの子はカイセルという名の男の子で、まだ産まれて間もないのに、大きな声で泣いては乳を欲しがっていた。


 コットに寝ているカイセルの頭をソフィアはそっと撫でた。カイセルはソフィアをじっと見て、にっこり笑った…ように見えた。


「可愛いわ、お姉様そっくりのおめめ!

 でも口元はダニエルお義兄様に似てる。

 かわいい。すごく可愛い。

 ねぇ。セオドラ様もそう思うでしょう?」


 どれ、と俺が顔を覗き込むと、カイセルはびぇ〜っと泣いた。


「セオドラ様のお顔は、怖いのでしょうか…?

 これこれ、カイセル!

 セオドラ様は怖くありませんよ。とても優しい方なのですから、泣き止みましょう。ソフィア叔母様が側にいてあげます。」


 ソフィアはそんな事をずっとカイセルに語りかけながらお腹をトントンとしていた。


 別室でお茶にいたしましょうと母モニカに言われても、ソフィアは後から参りますとカイセルの側を離れようとしなかった。


 しばらくエイダムとモニカ夫妻や義姉夫妻に城でのソフィアの様子などを話していると、ソフィアが眉毛を少し下げてやってきた。


「カイセルは乳母に連れ去られてしまいました…」


「ソフィア叔母様、お疲れ様。

 叔母様も少しお茶で休憩いたしましょう。」


 母のモニカが笑いながらそう言うと、ソフィアは口を少し尖らせた。そんな顔も可愛いな、などと俺は思ってソフィアの肩を抱いた。


 フローラがお産の話をし、ソフィアは城での出来事を話し、楽しく時間が過ぎてしまった。


 さてさて、お邪魔いたしました…と言おうとした時、エイダム コペル男爵が笑いながら皆に言った。


「女性の話は私には分からない事ばかりですなぁ。

 殿下、男だけの話でも致しましょうか。実は女性達は興味がなさそうな、面白い話があるのですよ…。シガールームに参りましょう。ダニエルも来るだろう?」


 俺とジェイクをちょっと離れたシガールームと誘ったエイダムは、ドアをさっと閉めて頭を下げた。


「殿下、ジェイク殿。大事な話があるのです。それもあって、フローラがソフィアをここに呼ぶ事を許可しました。殿下も私の孫に、必ず会いにきてくださると思いましたから。

 すみませんが、シールドを張らせていただきます。まだ、誰にも知られたくはない話なのです。」


 4人で椅子に座り、エイダムが水をコップに入れて渡してくれた。まずは、自身が落ち着きたいのだろう。


「殿下は我コペル家の領地がどこにあるか、ご存知ですね。スカーレット国の西の端、カレント国と国境を接しています。

 ダニエルの実家はコペル家と隣り合わせに領地を持つオルトマン子爵家で、国境の半分をカレント国、残りはタマラ国と接しています。ダニエルはオルトマン家の3男で、いずれはコペル男爵家を継ぐ事になっています。


 ダニエルの実家であるオルトマン家から最近、不穏な情報がダニエルの元に来たのです。それを早く殿下にお伝えしたいと思いまして…。」


 エイダムに促されて、ダニエルは話し出した。


 オルトマン家の領地は豊かな農地が広がる所で、カレント国の商人とオルトマン家は昔からの取引があり信頼関係が出来ている。


「商人が何気なくこう言ったそうです。

 タマラ国とパール国は国境も接していないのに、最近、人の往来がかなり多くなっているのです。何があったのですかね。」


 タマラ国は過激な思想を持つ国で、国交のない国が多い。そんなタマラ国との国境警備のため、オルトマン家は軍備を許可されている。


「嫌な感じがするので、兄のオルトマン子爵は密かに調べたそうです。分かった事は、ここ数年タマラ国は、害虫や病気が発生して農作物の収穫高がぐんと落ちているという事と、パール国との人の往来が増えたという事でした。


 パール国はスカーレット国の乗っ取りを諦めていないでしょうし、タマラ国は豊かなスカーレット国の4分の1でも手に入れれば、国民の飢えも解消できる。


 そう考えれば、2つの国は欲に目が眩んで手を組み、なんでもするでしょう。


 兄が殿下に会って話すより、コペル家でご報告した方がいいと私は判断しました。まだ、不確かな事を外に漏らすわけには参りませんから。」


 俺とジェイクの顔を見てダニエルは言った。

 

「殿下、ジェイク殿。どう思われますか?」


 そして、深呼吸を1つして言った。

 

「万が一に備え、我がコペル男爵家とオルトマン子爵家は連携し、演習と称して体制と軍備を強化しておきたい、と思います。

 いかがでしょう。許可を頂けますか?」


 軍備に関する事は国王陛下に報告せねばならないから待っていて欲しい、と告げて、俺はダニエルの顔を見た。


 ダニエル オルトマン…

 やっと思い出した。


 前々から聞いた事がある名前だと思っていた。俺やジェイクより年下だったから記憶が薄かったが、王立学院を主席で卒業した武闘派の男だ。

 

 騎士団に入らなかったのは、フローラと結婚してコペル家を継ぐためだったのか。


 俺は鈍いね。気が付かなかった。


 俺はちょっとダニエルを試してみた。体制と軍備の強化とは具体的に何をするのか、と聞いたんだ。すると、ダニエルはスラスラ、すらすらと深い所まで話し出した。


 すると、話の途中でジェイクが身を乗り出し2人で話し始めたので、エイダムがケラケラと笑った。


「セオドラ殿下。この2人を放っておくと話が終わりませんな。

 ダニエル、それ以上は国王陛下の許可がいる話だと思うぞ。今日はこのくらいにしておきなさい。」


 ダニエルはハッとして、申し訳ありません、と頭を下げた。




 ダニエルを連れて行った方が話は早いと俺は判断して、ジェイクと3人で王城に帰った。

 ソフィアとアリスはコペル家で1泊。護衛の2人もコペル家に残った。


 城では父上、ロッシュ宰相、ルークがダニエルの話を聞いてくれたが、証拠が欲しいと、体制と軍備の強化に対する許可は降りなかった。


 証拠がなければパール国につけ込まれるだけだ、とロッシュ宰相が言ったんだ。


 確かにそうなんだが…後手に回ると取り返しがつかない。


 父上の執務室から出た俺達3人をルークが追いかけて来た。


「証拠は私が近日中に見つけ出します。

 ダニエル コペル殿は今できる範囲でオルトマン子爵と対策を考えてください。」


 パール国に対する怒りでルークは歯軋りをしていた。





 そして、一夜明けた今日の午後。


 忙しく公務をこなしていた俺の元に手紙が届いた。新人騎士のカーラが護衛交代のため、ソフィアからの手紙を持って城に戻って来たんだ。


「セオドラ様、もう1日だけでいいのです。コペル家にいさせてくださいませ。」


 俺はソフィアに甘い。自覚はある。

 ダメって言えなかった。



 そして…。


 仕事に一段落をつけて、俺は自室に戻った。


 ピューピューという風の音が聞こえる夕暮れ時、俺はポツンと1人。なんとも手持ち無沙汰で、余計な事をあれこれと考え、困ったもんだと頬をほりほりと掻いていた。

 

 ソフィアは帰ってこれるかなぁ…


 そんな事を俺は考えていたんだ。

 1人であれこれ考えると、ロクなことがない。

不定期更新です。よろしくお願いいたします。

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