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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜ソフィアの庭〜
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秋 6

 ガーデンパーティーから自室に戻ったソフィアは熱を出した。

 赤い顔をしているのでまだ興奮しているのかと俺は思っていたのだが、結構高い熱が出ていたようだ。

 マリアンヌの出した薬でも熱はなかなか下がらず、何も食べたくありません…と水も飲まないという。

 

 連絡をもらった俺は執務室からソフィアの元へと急いだ。

 

 俺の顔を見たソフィアは泣き出してしまった。


 ぐすん、ぐすん…と鼻の頭を赤くしながらソフィアは泣き続け、セオドラ様、側にいてくださいませ、などと言って俺の手を握って離さない。


 パーティの時はあんなに堂々としていたのに、まるで小さな子供みたいになってしまって…。

 どうしたものか…。

 熱のせいなんだろうけど…。


 などと考えていると、ソフィアが謝り出したんだ。


「セオドラ様…先程は申し訳ありませんでした。

 わたくし、取り乱してしまいました。

 皆様をお招きしたのに…。わたくし…抑えきれませんでした。

 王太子妃、失格です。」


 ソフィアはまた、ぐすんと鼻を鳴らした。


「セオドラ様にご迷惑をかけてしまって、ごめんなさい…。」


 そうか…。

 俺に迷惑がかかったと思ったのか…。


 俺はポロポロと涙を流すソフィアの頬をそっと撫でた。


「ソフィア、偉かったよ。さすがは俺の妻だ、と思った。

 周りの皆も拍手していただろう?


 …ん?

 周りの拍手は聞こえなかったか…。

 皆が拍手していたんだよ。ソフィアと同じ気持ちの者達がたくさんいた、という事だ。

 俺に迷惑などかかっていない。」

 

 本当に?

 セオドラ様は怒っておられないですか?

 皆も同じ気持ちだったのですか?


 ソフィアは小さな声でそう呟いていた。

 俺はソフィアの熱っぽい頭を撫でながら言った。


「ああ、そうだよ。

 勇気が必要だっただろう…。本当に立派だった。

 ソフィアはスカーレット国の素晴らしい王太子妃だ。俺はソフィアの事を誇りに思うよ。」


 俺がソフィアを抱きしめると、ソフィアは熱っぽい顔で微笑んだ。


 やがてソフィアは静かな寝息をたて始めた。


 

 そっと部屋から出た俺に、部屋の外で控えていたマリアンヌが言った。


「妃殿下はお休みになられましたか?」

 

 俺は鼻の横をポリッとした。


「ソフィアはパーティ会場では頭に血が上っていたみたいだ。俺に迷惑をかけたと思ったらしい。今は眠っているよ。」


「そうですか…。

 今日の妃殿下は頑張っておられましたから、発熱は頑張りすぎ…とでも言いましょうか、お疲れが出たのです。心配はいりませんね。明日の朝には普通に戻っておられますよ。今はちょっと殿下に甘えておられるのでしょう。

 

 ベラ様もジュエルさんも心配されて、残ると仰ったのですが、帰っていただきました。


 それにしても…

 今日の妃殿下は素敵でしたね。

 あの令嬢達も少し考えて行動を改めるはずですから、全て良い方向に進んでいくでしょう。

 …そうなる様に、皆で妃殿下をお支え致します。」

 

「すまない。これからも頼むよ。」

 

 そう言って、俺は執務室へと戻った。

 

 翌日、マリアンヌの言ったとおり、ソフィアは元気な様子で目を覚ました。


 そして、恥ずかしそうに言った。


「昨日はご心配をかけました。もう、大丈夫です。


 …笑わずに聞いてくださいますか?

 パーティの時、あんな大きな声を出しましたが、わたくしの脚は震えていました。

 誰にもバレていないといいのですが…。」


 大丈夫、誰も気付かなかったさ、と俺はソフィアの頭を撫でた。




 それからしばらくして、ハンナは館でお茶会を開いた。令嬢達とソフィアとベラ、マリアンヌ、ジュエルも招待され、アリスはエリのお手伝いをしたいと裏方に回る事になった。


 友達を連れてきても構わないと言われた令嬢達は、本当にたくさんの友人を連れてやって来ることになった。


 エリは館の専属シェフとお菓子をいくつか作るつもりでいたようだが、30人以上も令嬢達が来ると知ってパティシエ達に助けを願った。


 パティシエ達は、また張り切った。


「ソフィア妃殿下とハンナ様に食べていただけるのですね?かしこまりました。全力でお手伝いいたします!」


 そして、ものすごく高いタワーのようなケーキを3つも作り、様々なお菓子をずらりとテーブルに並べた。しかも、お菓子の間をチョコレートの川が流れる…という手の込み様で、その光景を見た令嬢達は悲鳴のような歓声を上げた、とソフィアが言っていた。


 ガーデンパーティーでハンナの陰口を言った令嬢達は、皆の前でハンナ妃にきちんと詫びたそうだ。


 これからはソフィア妃殿下、ハンナ様をお手本にいたします。色々と教えてくださいませ、と部屋にいた30人以上の令嬢達が揃って頭を下げた、とソフィアが言っていた。


 余り社交の経験のないソフィアとハンナではあるが、ベラやマリアンヌが付いている。上手くやっていけるだろう。


 ソフィアからの報告をききながら、ソフィアとハンナが嬉しそうな、楽しそうな顔で令嬢達とのおしゃべりを楽しんでいる姿を想像して、俺も明るい気分になった。



 館でのお茶会の後、いつも外に出たがらないハンナが、月祭りに参加したいと自分から俺に許可を求めてきた。令嬢達と打ち解けたハンナは皆から、ご一緒に月祭りに参りましょう、と誘われたらしい。


「私にこんなふうに思える日が来るなど、想像した事もありませんでした。これもソフィア妃殿下のおかげでございます。」


 固く閉ざされていたハンナ妃の心が少しづつ開かれていく。そんな母の様子は、トルディオン王子にも良い影響を与えるだろう。



 大叔父上からせっつかれて開いたガーデンパーティーではあったが、上々の成果を上げた、というわけだ。



 

 ハンナが月祭りに参加したいと言ったと聞いたソフィアは、うれしそうに俺に言ったんだ。


「ハンナ様が月祭りに参加されると聞きました。皆と一緒なら、ハンナ様もきっと楽しく花火を見れますね。わたくしの幸せを感じるやりたい事が、また一つ叶います。」


「ソフィアはハンナ妃が大好きで大切に思っているだろう?その思いが皆にもハンナ妃にも届いたんだ。だからハンナ妃は皆と月祭りに行こう、と思えるようになったんだよ。

 ハンナ妃はソフィアのおかげだと感謝していた。

 よかったな。皆で月祭りの花火を見よう。」


 ソフィアは嬉しそうに笑って、俺に抱きついた。



 

 月祭りの夜。


 打ち上げられた花火をソフィアと見ながら、あれからもう1年も経ったのか…と俺はちょっと思っていた。


 いや、違うな。

 もうあの事は花火を見るまで完全に忘れていたんだ。


 ソフィアは結婚する前のピクニックで俺に言ったじゃないか。


「辛く悲しい思い出は忘れようと思っても、忘れられません。忘れようとすればするほど思い出し、辛くなるのです。」


 ソフィアとする '幸せを感じるやりたい事' がたくさん増えて、俺の頭の中で '辛く悲しかった事' がどんどんと小さくなっているんだ。


 俺は手を繋いで花火を見上げているソフィアの顔をみた。そしてソフィアを心から愛おしいと思った。

 



 月祭りからしばらくしたある日。ソフィアがしょんぼりと窓から庭を眺めていた。


「ナハド親方からお庭の手入れはもうすぐ終わりになると言われました。これからは冬に向けて、樹木の手入れが多くなるのだそうです。力仕事ですからわたくしはお手伝いできなくなります。

 …ちょっとさみしいです。

 でも、わたくしはナハド親方から良いことを教えてもらいました。


  "冬来りなば、春遠からじ"


 冬が来たなら、春はもうすぐだ、という意味だそうです。わたくしはその言葉を聞いて、春に向けてやりたい事を1つ見つけました。


 体の調子を整えておく

 春になったらまた親方達と庭の手入れが出来るように…

 

 わたくしが先日庭に蒔いた花の種は、今、土の中でゆっくりと力を蓄え、春を待っているのだと親方から聞きました。

 ですから、わたくしも力を蓄えてやって来る春を待ちます!」


「勇ましいな、ソフィア。その調子で頑張れ!」


 秋の終わりは冬の始まりだ。でもそれは、その次に来る春が待っている、ということでもある。

 

 俺はソフィアの肩を抱きながら庭を眺めて、花が咲き乱れる春に思いを寄せた。

ソフィアの庭 秋編 は今回で 完 となります。



ソフィアの庭には冬が訪れます。

セオドラとソフィアにも、ほんの少し北風が…。


いいね、とポイントを入れてくださった皆様、ありがとうございます。

これからもセオドラとソフィアの2人を応援していただけたら幸いです。


不定期更新となります。

よろしくお願いいたします。

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