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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜ソフィアの庭〜
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秋 4

本日、2話目の投稿です。

よろしくお願いいたします。

 ソフィアの庭にはダリアが咲き誇るようになった。黄色に白、橙、赤、桃色…。大きいのやら小さいのやら…。


 ダリアの咲いている所だけ暖かく感じる、少し肌寒い秋の昼下がり。俺はソフィアと四阿で薬草茶を飲む事にしたんだ。

 久しぶりに2人で四阿でお茶を飲みたいです、ってソフィアが俺を誘ったんだ。だから、執務の合間をぬって四阿にやって来た。


 俺が薬草茶の準備をしていると、チーフパティシエがクッキーを山盛りにした大皿を手に現れた。


「新人達が考えて作ったクッキーで、この庭に咲く花を模った様でございます。皆で競い合い、どれが1番美味しいかを王太子殿下ご夫妻に選んでもらうのだ、と本人達は申しておりましたが…。私が、ご夫妻が困るだけだから止めておけ、と言いました。

 ひよっこ達の力作でございます。お召し上がりくださいませ。」


 大皿の上には、色とりどりの花のクッキーが乗せられていた。形も色々で、見ていてとても楽しい。


「まぁぁ!セオドラ様、ダリアです。コスモスと菊に桔梗も…とても、きれいです。

 食べるのが勿体ないくらいですけれど…いただきますね。」


 目線を上にすると、まだ少年少女と呼べる新人達が窓に鼻を擦り付けるようにしてこちらを見つめている。


 そりゃ、気になるよね。王太子夫妻が自分の作ったクッキーを食べるのだから、じっと見ていたいと思うはずだ。

 

 俺は新人達に手を振って、大声で言った。


「俺達のために作ってくれてありがとう。全部いただくよ。これからも頑張れ。応援してるぞ!」


 ソフィアも大きく手を振った。


 新人達は手を振り返して喜んでいたが、パティシエに連れられて、中へと消えていった。


 庭の花を愛でてくれるんですね。嬉しいことです、とソフィアが言った。


「この四阿の庭がパティシエの皆さんの刺激になっているのでしょうか?

 だとしたら、わたくし、とてもうれしくて幸せです。


 わたくしは花殻を積んだり、花の根元の枯葉を取り除いたりくらいしか出来なくて…。落ち葉掃きは見た目以上に力仕事だからと、ナハド親方から止められているのです。

 でも、アリスと2人で丁寧にお仕事をしたおかげで、春に咲いたダリアが秋にもこんなに咲いたのです。ナハド親方からも褒められました。

 だから、セオドラ様にもちょっとでいいから見ていただきたかったのです。」


 ちょっと鼻を上げるような仕草で、自慢げに俺を見つめるソフィアの頬を、俺は手を伸ばしてそっと撫でた。


「ソフィア。とてもきれいに咲かせたね。この庭は気持ちが落ち着くんだ。俺も大好きな庭だよ。」

 

 寒くないかい、と聞くとソフィアはつつつ…と俺のそばに寄って、セオドラ様が側にいてくださるから暖かいです、などと言う。


 思わずソフィアに口付けをしたら、ソフィアはちょっとだけ頬を赤らめて笑った。


 俺はソフィアの足元に置いた手炙りに魔力で火を起こして、暖を取れるようにしながら心の中で思う。


 俺のソフィアは可愛い!

 今すぐ2人でどこかに消えてしまいたいよ。ここの所、2人でこっそり…ができてないからなぁ…。


 俺たちの周りには見えているだけでも6人、見えない護衛はもっといる。必要なのは分かっているんだけどね…。

 ソフィアと2人でこっそり消えたいと思うこの気持ちも仕方ない…だろ?



 だけど…ソフィアの行動範囲が広がってきたので、護衛はもっと増やさなければならない、と俺達は考えている。ソフィアとハンナの護衛のために、女性騎士を増やす計画も順調に進んでいる。


 伯爵令嬢のジュエルが王都で騎士となっている事は有名だ。貴族の領地で騎士として働いている女性達の中には、ジュエルの様に王都に来て騎士になりたい、という者が大勢いる。


 今、ジェイクの元では、10人の女性騎士たちが訓練に励んでいて、もう直ぐソフィアとハンナの護衛として配属される事になっている。


 準騎士団にも女性が大勢加わった。

 女性ならではの視点で、下町や地方都市の生活の安全についての提言も多い。


 今となっては、なぜ今まで女性騎士や準騎士がいなかったのか…と不思議に思うほどだ。


 もっと良い方向に進んで行くように、王太子の俺は考えていかねばならないな…。


 …そんな事を思いながら薬草茶とクッキーを楽しんでいると、ハンナの館の中で人影が動いた。


「あ!ハンナ様です!

 ねぇ、セオドラ様。ハンナ様をここにお呼びしてもいいですか?クッキーもたくさんありますし、セオドラ様の薬草茶も美味しいですし…。

 いいでしょう?」


 ああ、もちろんだ、と俺がいうとソフィアは呼んできますねと席を立った。


 とことこ…と歩き出したソフィアの後ろから、ジュエルがついていく。アリスも慌てて追いかける。


 微かにソフィアがハンナを呼ぶ声が聞こえる。


「ハンナさまぁ〜!

 お茶しましょう!エリさんもご一緒に〜。」


 館の中のハンナは、両手を胸の前に置き俯いていた。側にはエリがいて、何かを語りかけているように見えた。そして、エリに頷いたハンナは、ゆっくりと右手を挙げて小さく振った。


 エリに肩を抱かれるようにして館から出てきたハンナの手をソフィアが取って、笑いながら何か言っている。そしてソフィアとハンナはそのまま並んで、四阿に向かってゆっくりと歩いて来た。


 ハンナの護衛は少し離れてついて来ている。

 

「こんにちわ、ハンナ殿。

 俺の薬草茶は美味いんですよ…自慢の薬草茶、今、淹れたから飲んでください。

 ソフィアとアリスが手入れをしたダリアも見頃になっています。ソフィアの庭の手入れの話などを聞いてやってくれませんか?

 残念だけど、俺はもう行かなくては…。

 あとはアリスに任せようか。」


 そう言って、俺はジェイクや親衛隊の隊員をゾロゾロと連れて城の中に戻った。むさい男どもは消えた方がいいだろうから。


 そのむさい男どもは、ソフィアから2枚づつクッキーを渡されて嬉しそうであった。


 ちなみに…

 俺は4枚もらった。




 その日の夜、ソフィアの '幸せを感じるやりたい事' ノートにこんな事が書き加えられたんだ。


 ハンナ様と '月祭り' に参加する。

 ハンナ様が楽しく月祭りの花火が見れるように考える。


「ハンナ様は人混みに出るのが苦手みたいなので、どうすれば楽しく花火が見れるのか、セオドラ様も一緒に考えて下さいませんか?」


 無理強いはしてはいけないよ、と俺は言った。


「はい。わかっています。

 でも…ハンナ様も皆で花火を見たら、きっときっと楽しくて幸せを感じられる…とわたくしは思ったのです。

 だから、今日のお茶の時間に月祭りのお話をしてみたら、花火をまだ見たことがないから見てみたいとおっしゃって…。わたくしも見たことがないのです、って言ったら、なんだか2人で盛り上がってしまいました。」


 ソフィアは昨年の月祭りを見ることが出来なかったから、俺も今年は一緒に見たいと思ってる。

 

 だけど、月祭りの会場は人で溢れかえる。そんな月祭りに、ハンナ妃は参加できるんだろうか…?


「まだ少し先の話だから、ゆっくりとハンナ殿の様子をみていこうか。

 ソフィアも体調を崩さないように、しっかりと体を休めないとな。ここの所、すごく頑張ってるから、少しだけ心配だよ。無理はするな。お願いだからね。」


 はい、と返事をして、ソフィアは俺の胸に顔を埋めた。そして、小さな声で言った。


「セオドラ様。わたくしはこうしていると、気持ちが落ち着くのです。ずっとこうしていたいです。」


 ソフィアの白銀の髪を指で漉きながら、俺はソフィアの額にキスを1つ落とした。

不定期更新となりますがよろしくお願いいたします。

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