秋 3
本日は2話投稿予定です。
よろしくお願いいたします。
虐待の表現が含まれます。
ご注意ください。
ジュエルの匂い袋が完成して2日後、ベラとマリアンヌが内密に…と俺に会いに来た。ハンナ様の事で話がある、できたらルーク殿にも同席願いたいと。
俺は人払いして、執務室にシールドを張った。
まず、ベラが話を始めた。
「ハンナ様はいつも何かに怯えていらっしゃいます。その怯えの原因がずっとわからなかったのですが…。先日、ようやく見えて参りました。」
ベラはそう言って、マリアンヌを見た。大きく頷いたマリアンヌが話を続けた。
「ジュエルさんが匂い袋を完成させた時の話はソフィア様から聞いておられますか?ジュエルさんはようやく出来上がった匂い袋を実家の父と母に見せたいと言ったのです。」
すると、ハンナが微かに震え出したのだという。ジュエルに母親の言葉を話した時は何も起きなかった事から、間違いなく '父' という言葉にハンナは反応したのだ。
「セオドラ殿下。
ハンナ様はパール国に人質として嫁いでくる前から、自国で父親に虐げられていたのでしょうか?
スカーレット国に来ても、ほとんど感情を外に出さず、いつも俯いているのはそのせいなのではないか…と私達は思うのです。」
ベラとマリアンヌは、そんなハンナ様を支えて差し上げたい、と俺に言った。
「そのために、詳しい事が知りたいのですが、ダメでしょうか?」
俺はルークを見た。ルークは色々な事を調べ上げているはずだから。
だが、ルークは少し渋った。
「…楽しい話ではないですよ。
そして、私の知っている全てを話すことはできません。ですが、パール国の王城の皆が誰でも知っている事なら話せます。それで良いのであれば…。」
ルークは執務室に更にシールドを掛けた。
ハンナはある国の貧しい村に生まれ、王の血は引いていない。赤い瞳に黒髪の可愛らしい女の子は小さな頃から有名だった。そして、いつの日にか隣国の人質として差し出すために王家に養女として迎え入れられた。
父親は今、どこで何をしているのか、わからない。ハンナを王家に売ったと見るのが正しいだろう。金と共に父親は消えたのだから。
王家に迎えられる前のハンナと母親は、ハンナの外見のせいで父親に口汚く罵られ、体中傷だらけだった。
村の皆は、父親が何をしていたのか知っていたが、父親が怖くてハンナに何もしてやれなかったのだと口々に言った。
だが、それは嘘だ。
本当は皆、助ける気など全くなかった。見て見ぬ振りだ。
王家に来てからも、ハンナは赤い瞳のせいで王城の皆から虐められ続けた。身体には傷をつけるな、という国王の命令だったが、心はズタズタに傷つけられたようだ。
パール国に人質に送られる時も国王から、赤い瞳に黒髪の女が珍しいからお前にする、と言われた。
お前なら、パール国王も喜ぶだろう。
パール国に送られたのは、15歳の時だった。
パール王はまだ子供だったハンナを…
そして、ハンナは身籠った。生まれた男の子がトルディオンで、ハンナの赤い瞳を受け継いだ。
パール王は一度だけトルディオンを見に来たが、何も声はかけずに帰って行ったという。
しばらくして、王の代理として宰相が、第3王子として証、王家の紋章の入った指輪を持って来た。そして、住まいとして離宮を与える、暮らせるだけの金は渡す、と言って帰って行ったが、ボロボロの家と最低限の金を渡すだけで、王家は何もしようとはしなかった。
トルディオン王子は身体が弱かった。すぐ倒れるし、寝込む。理由は分からなかったが、王家は気にもしていないようだった。多分、エリが色々な事を未然に防いできたのだろう。
大きくなったトルディオンは王立学院で勉強を始めたが、かなり優秀であるが故に余計にいじめにあった。
ハンナは全てを自分のせいだと思い込み、何度も死を考えたようだが、エリのお陰で思いとどまっている。
ちなみに…これはまだ誰も知らない事だが、2人に毒を与えて緩やかに殺害しようとしたのは、王妃と2人の息子、王太子と第2王子だ。トルディオン王子が赤子の頃から悪巧みを続けている。ハンナの側仕え達を追い返した時、3人が荒れまくったのは確認済みだから、間違いない。
「そして…エリはハンナ殿の実母ですよ。
エリはずっとハンナ殿の側にいて、ハンナ殿とトルディオン王子を支え続けているのです。」
これから先はパール国の者は知らないことだが…。
エリは落ちぶれた神官の家に生まれた。
神託を授ける名家であったのに、何が理由だったのかエリが生まれた頃は困窮していた。
エリを金で買ったと思われる夫は、生まれてくる子供は特別な力を持つ、と信じていたがハンナを見て逆上した。
赤眼の娘に何ができる!
そして、連日の暴力が始まった。
ルークはここで俺を見た。
「殿下、このお二人にトルディオン王子の秘密を話してもいいですね?」
俺は頷いた。
「エリ殿にもハンナ妃にも特別な力はなかったのですが…。トルディオン王子は特別な力を持っているようです。
それは、人の心を読める、精神感能力です。
今はまだ、人の悪意を強く感じる程度ですが…。」
神託を授ける為に使ってきた、恐らく何代も現れなかった特別な力を、トルディオンは持っている可能性が高い。
魔力を鍛える指導をしているジェイクからは、進歩は目覚ましい、と報告を受けている。本格的に目覚める日は遠くないだろう。
この事はパール国には決して知られてはならない。トルディオン王子が成人するまではスカーレット国で護り、助け、育てていくのだから。
「私が話せるのは、これくらいです。
ハンナ殿とトルディオン王子に毒を盛った犯人についてと、トルディオン王子の力については、本当にここだけの話にして下さい。
よろしいですね?」
皆、何も言えずにいた。
しばらくして、大きく息をしたベラが言った。
「ルーク殿、ありがとうございました。
ハンナ様の辛い過去、王子の事、受け止めました。
私とマリアンヌさんの2人で、しっかりと支えて参ります。他言は決していたしません。
ソフィア妃殿下とジュエルさんにも言いません。
あのお二人は今の純真無垢なまま、ハンナ様と王子に接するのがよろしいでしょう?」
マリアンヌも、そうですね、と頷いた。
「ルーク殿に辛い話をさせてしまいました。でも、私もしっかりと受け止めました。
体の傷は消えても、心の傷は消えません。私はこれからも変わらずにハンナ様を支えて参ります。
トルディオン王子の精神面と体調面での管理も私が担当したいと思います。よろしいでしょうか?」
2人のいなくなった俺の執務室は、秋の乾いた空気がひんやりと感じられた。
「なぁ、ルーク…。
あれでハンナ殿の話が全てではないのだろう?ハンナ殿はどんな人生を送ってこられたのかと思うと、胸が痛いな。」
「ええ、パール国王と王妃、2人の王子達は愚鈍なだけでなく、鬼畜なゲス野郎ですよ。
私はハンナ妃をトルディオン王子と共にここに呼ぶように殿下に頼もうと思っていたので、殿下が同じ様に思ってくださった事を感謝しています。
私はいつの日にかトルディオン王子にあの国治めてもらいたいと、心から願っているのです。」
ルークも帰った後の執務室は肌寒く、俺はソフィアの待つ自室へと急いだ。
こんな夜はソフィアの笑顔が見たいと思ったから。
書いていて、少し辛くなりました。
次話は明るくしたいです。




