秋 2
本日、2話目の投稿です。
ソフィアの幸せを感じるやりたいことはどんどんと膨らんでいきます。
よろしくお願いいたします。
ソフィア達の刺繍の会は週に1回、庭に面した小部屋に集まる事になった。そこからは四阿にも出れるから、お茶の時間をのんびりと過ごす事も出来ると思って俺が手配したんだ。
それで…ソフィアの人気はすごいんだな、と俺は改めて思った。
パティシエにお茶とお菓子の用意を頼んだら、それを聞きつけた厨房のチーフシェフが、すぐさま俺の所にやってきて、刺繍の会に軽食をお出ししたい…と言い出したんだ。
「私達もソフィア妃殿下に楽しんで頂ける様にしたくて、新しい軽食メニューを考えております。妃殿下にぜひ食べていただきたいのです。
お願いです…。許可をください!」
なんだよ!
俺が親衛隊の集まりに軽食を頼むと、いつも定番のモノがガッツリと出てくるだけじゃないか!
確かに、俺達はよく食べるけどさっ!
ぶつぶつと心の中で文句を言いながら、にっこりとする。
「そうだね。よろしく頼む。
きっとソフィアも喜ぶよ。」
その上、週に1回ある親衛隊の会議で、刺繍の会の護衛に就きたい…と俺が頼んでもいないうちに、皆が言い出したんだ。
なんだよ!
俺が出かける時には結構渋って、くじ引きにしようとか言い出すくせに!
俺は仏頂面を隠しもせずに、親衛隊員に言った。
「よかろう!
全員、交代で警護にあたれ。よろしく頼む。
その代わり…護衛が終わったら城の周りを一周走れ!これは決定事項である!」
げっ!という声が聞こえたが、もう遅い。
警護は何名かで交代に担当し、終わったら城の周りを走る事が決まった。
ジェイクは俺の横で腹筋を震わせて笑いを堪えていた。
俺は忙しくなったソフィアの体調が心配だった。
ナハド達との週2回の庭仕事。刺繍の会。ベラとの社交についての勉強。時折ある貴族女性達とのアフタヌーンティー。
「ソフィア、身体は大丈夫かい?」
そう聞くとソフィアは俺の顔を覗き込む様に見て言うんだ。
「セオドラ様、心配してくださってありがとうございます。
でも…セオドラ様は過保護なのです!
わたくしはセオドラ様の妻ですよ。わたくしのできるお仕事をしているだけです。
それに、いつも側にはベラとマリアンヌ、ジュエルにアリスがいてくれますから心配はありません。
少しづつですけれど、わたくしの幸せを感じるやりたいことが叶っているのですもの。毎日、楽しくて幸せです。」
俺の心配を他所に、ソフィア達はランチを挟んで3時間、刺繍の会をする事になった。
最後にはお菓子とお茶も出るので、ほぼ1日楽しく過ごせるに違いない。
ソフィアは、刺繍の会の間だけのルールを決めた、と俺に話してくれた。
刺繍の会の間だけは身分の垣根はなし。だから、様を付けずに、さんをつけて名前を呼ぶ事。
ソフィアさん、エリさん、ジュエルさん…。
なかなか打ち解けてくれないハンナのために、ソフィアが考えたのだろう。
「わたくしがハンナさんとお呼びすると、ハンナさんもソフィアさんと呼んでくれるのです。
わたくし、なんだか、うれしくって!」
だが、一緒に刺繍をしてみたいと言って会に加わったアリスと、先生役のエリは最後まで抵抗したらしい。
滅相もない事でございます…!
そう言い続ける2人にベラがキッパリと言った。
「アリスさん、エリさん。
出来ないなら、参加することは叶いません。」
2人は渋々と 'さん' をつけて皆を呼ぶ事になった。おかげで刺繍の会は穏やかな場となり、ハンナが皆と少しずつ打ち解けていった。
刺繍の会を始めてしばらく経った頃、ソフィアが俺に初めて刺繍を見せてくれた。
「セオドラ様!見てください。わたくしの自信作です。」
それは小さな絹の匂い袋だった。花の刺繍にキラキラと光るビーズが入っていて、甘やかな香りが漂っている。
「扇子の房飾りの玉を作った南国ピリューの香木を使いました。玉を作る時に出来る捨てる部分や削りカスを、少し分けてもらって匂い袋にしてみたのです。
香木はベラが手配してくれて、もちろん代金もお支払いしました。」
そして、ソフィアは嬉しそうに言った。
「こんなに可愛い匂い袋ですもの。きっと皆、欲しいと思うのです!」
だから…。
「いくつかできたら売って、売り上げをどこかに寄付したいとわたくしは思うのですが、どうでしょうか。
そうしたら、わたくしの やりたい事の1つ、'皆の役に立つ何かを探す' という事に繋がっていくと思うのです!
1つ出来上がるのに、わたくし達は時間がかかるので、まだまだ先の話ですけれど…。皆も協力してくれると言ってくれています。
どうでしょう、セオドラ様のご意見をお聞きしたいです。」
うん、うん、なかなかいい考えじゃないか!
「ちょっと侍従長に聞いてみよう。王家から出すのだから、勝手にはできないだろうからね。
でも、大丈夫。きっと許可されるさ。」
それにしても、こんなに綺麗な刺繍は大変なんじゃないか?と聞くと、ソフィアは楽しそうに刺繍の会の話を聞かせてくれた。
エリの教え方が上手いのもあって、皆、すぐに刺せるようになったらしい。
ベラはスイスイと刺していくが、仕上がりはとてもきれいだ。マリアンヌとアリスはゆっくりと丁寧に刺していく。
だが、針を持った事がない、と言っていたジュエルは指を刺してばかりで、布を何枚も血だらけにしてしまったという。そして、とうとう自分で、これは私には無理な気がします、と言い出してしょんぼりとしたのだそうだ。
でも、ハンナがゆっくりと付き合って教えてくれたという。
「ジュエルさん。誰にも得手不得手があります。
でもね、やる気があれば少しずつ前に進めるのよ、と私の母が言いました。
急がなくていいのです。一緒にやりましょうね。」
ジュエルは涙目で頷き、ありがとうございますっ!もう少し頑張ってみます…。やる気はあるのですっ、と言ったそうだ。
そして先日、ジュエルのひとつ目の匂い袋がついに完成したのだという。出来上がった1枚を見て、ジュエルは自分で感動していたらしい。
「我ながら、ほぼ完璧な出来栄えです!
多少の乱れはありますが、それは刺し手の個性でもあり、刺繍の美しさを際立たせる一因となっているように私は思います。
そうだ!いいことを思いつきました!
今度、シュメールに帰った時に我が父と母に見せてあげましょう。
きっと、この匂い袋は我が家の家宝になるでしょう!」
ひとしきりジュエルが自画自賛した所で、ベラがお茶を淹れ始めて、その日の刺繍の会はおわりとなった、という。
なかなか楽しそうな時間を皆と過ごしているではないか。よかったな、ソフィア。
俺はそう思っていたんだが…。
ジュエルの発言でハンナ妃の悲しい過去がわかってしまったんだ。




