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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜ソフィアの庭〜
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秋 1

 ソフィアの庭は秋になりました。

 庭を愛でながら、皆、苦しみを乗り越えていきます。


 王太子妃として成長するソフィアと、暖かく見守るセオドラを応援していただけたら、幸いです。


 本日は2話投稿です。よろしくお願いいたします。

 ソフィアの庭の木は少しずつ色づき始め、ピンクの秋桜が風に揺れる季節になった。


 その風に乗るかのように、パール国のトルディオン王子とその母親ハンナ妃がスカーレット国にやって来た。パール国からの人質であるが、名目は留学とその付き添いで客人待遇である。


 トルディオン王子がスカーレットに来る事はすんなりと決まったが、ハンナ妃はすんなりとはいかなかった。ハンナ妃を手放す事をパール国王が渋ったからだ。


「散々邪険に扱って、手放すとなると惜しくなったんですよ。あのパール国王は!」


 ルークは心底嫌そうな顔をして俺たちにそう言った。それでもハンナ妃がスカーレット国に来れたのはルークの力だ。


 どうやったんだよ、と聞いてもルークはニタ〜っと笑って、教えませんよ、と言うだけだ。


 自称、腹黒い男、ルークはあちこちの様々な情報を持っている。それをうまく使う術も知っている。

 何かあった時には全ての責任を負うつもりで、俺には何も言わないのだ。




 トルディオン王子が初めてスカーレット国の王城に姿を見せた時、俺はトルディオンが皆から虐められた理由がわかった。


 トルディオンの瞳が燃えるような赤だったからだ。


 トルディオンが俺達に挨拶をしようと目の前に立った時、ソフィアは目をまん丸にして言った。


「まあ!とてもきれいな瞳!

 わたくし、赤い瞳の方に初めてお会いしました。」


 私の瞳が怖くないのですか?とトルディオンが驚いた様に聞いた。


「えっ??…怖い…?

 そんな事ないです。本当にきれいな瞳なんですもの。」


「皆は悪魔の眼だと言って、私の事も母の事も忌み嫌いますけど?」


「悪魔…ですか?

 わたくしは悪魔に会った事がないので、悪魔の瞳がどんな色なのか知らないです。だから、そのきれいな赤い瞳を悪魔の瞳だと思わないです。

 ね?セオドラ様もそうでしょう?」


 そう言って俺の顔を見たソフィアの頭を、俺は思わず撫でてしまった。

 

 その姿を見たトルディオンはくすりと笑った。きっとトルディオンはソフィアが心からそう思っている事を感じたのだろう。


 ルークは、トルディオン王子が精神感能力を持っているかもしれない、と言っていた。今はまだはっきりとは人の心を読めないが、他の人より悪意を感じる力が強いのだろう…と。


「これっ、ソフィア。

 先に名乗らなければ失礼だぞ!」


 あ!とソフィアが慌ててカーテシーをして名乗ると、トルディオンもそれに応えた。


「パール国第3王子、トルディオンと母のハンナでございます。

 今回はセオドラ王太子殿下のご尽力で、私達がこちらに招かれる事になりました。心からお礼申し上げます。」


 10歳とは思えないその堂々とした佇まいに、その場にいた皆が驚いた。


 トルディオン王子の背後にひっそりと立つハンナ妃は硬い顔でソフィアにカーテシーをした。

 ハンナは赤い瞳と黒髪という珍しい組み合わせを持つ女性だった。


 ソフィアは2、3歩前に出てハンナの手を取り、ブンブンと振った。


「ハンナ様、ソフィアです。よろしくお願い致しますね!

この王城の中に、お友達になっていただける方が1人増えて、わたくし、とっても嬉しいです!

 今度、四阿でお茶しましょう。ここのパティシエのお菓子はとっても美味し「こらこら、ソフィア!話し過ぎだ。ハンナ殿が困っておられるぞ。また後で話しなさい。」」


 しゅんとしているソフィアを見て、ハンナは初めて微かな微笑みを浮かべた。

 

 


 2人の到着に合わせて、昔の側妃が使っていたという建物を改装し、ハンナの館と呼ぶ事にした。ソフィアの庭から見ることができる、白い壁と黒い窓枠の館だ。


 2人の自室となる部屋はソフィアの庭が見える明るい部屋で、カーテンやベットカバーなどの小物は好きなものを選んで欲しいので、仮のもので揃えておいた。


 俺が館を案内したのだが、余り感情を出さないハンナ妃も口角が少し上がって頬を緩めていた。気に入ってもらえたようで、少しホッとした。トルディオン王子はお気遣いに感謝いたします、と頭を下げた。


 それから、体が弱いトルディオンのために、マリアンヌの父、王立病院の院長ロクシー バーロンド医師を呼んで診察を願った。俺とルーク、ハンナが立ち会った。


 すると、ロクシー医師は言ったんだ。


「パール国から離れてこちらにいらした事は、トルディオン王子の体のためにも大変よかったと思います。

 言い難いことですが…。恐らくですが…。

 毎日召し上がっていた食事に、何か細工をされていたのだと思います。王子がお元気な事を喜ばない、誰かがいたのでしょうか…。緩やかに体の調子を悪くするモノを使った様です。

 小さい頃からずっとその薬が使われていたのもしれません。

 でも、大丈夫です。摂取を止めればお元気になりますよ。少し時間はかかりますけれど。

 念の為、ハンナ妃のお体も調べましょうか?私ではなく、マリアンヌが診てくれますが…いかがされますか?」


 トルディオン王子は間髪を入れずに、お願いします、と答えハンナの顔を見た。ハンナは真っ青な顔で震えていた。

 

 ハンナの館をマリアンヌが訪れてハンナを診察する事になり、ソフィアも心配してついて行った。

 

 ハンナの側には乳母のエリとトルディオン王子が、寄り添うようにして待っていた。


 ハンナを診たマリアンヌは、トルディオン王子と同じ薬を使われていたが心配しなくて大丈夫だ、と診断したとソフィアから聞いた。


「ハンナ様は泣いてしまわれて…。

 わたくし、側にいて辛くなってしまいました。」

 

 トルディオン王子は眉根を寄せて言ったそうだ。

 あいつら…!母上まで!



 その話を聞いて、俺はトルディオン王子、ハンナ妃、ルークの4人で話し合った。


 スカーレット国に来ていただいたからには、安心して暮らしていただきたいと思っている、と俺が言うと、トルディオン王子は唇を噛み締めてから、俺達を見た。


「自国の者達を信じられない事が悔しいです。

 私と母は自分達が人質であるとよく分かっています。私達は政治の道具でしかないと、諦めてここに参りました。

 でも、ここに来て数日しか経っていないのに、皆さんが私達を心から大事にしてくださっているのがわかりました。まるで、本当の客人の様に…。

 私達2人はここに来ることが出来て、本当に運が良かった。


 私はスカーレット国の弱点を探し出すのがお前の仕事だと父、国王から言われています。ですが、私は私達を虐げてきたあんな奴らの力になりたくありません。

 そうですよね、母上。」


 ハンナは涙目で息子を見て頷いた。


 では、側仕えの者達を全員、パール国に帰してもよろしいか、と聞くと、普段は殆ど話さないハンナが小さな声で言った。


「私の乳母のエリだけはここにいさせて欲しいです。エリはトルディオンの乳母でもあります。エリはパール国に帰されると……きっと酷い目にあいますから。」


 そうなれば話は早い。乳母のエリ以外は追い立てるようにパール国に帰した。理由はルークがなんとでもするから心配ないと2人に話すと、ほっとした表情を見せた。


 2人にはガッチリと護衛を付け、館には許可のある者しか入れない様にシールドをかけた。パール国が奪い返しに来たり、暗殺を企てる可能性は捨てきれなかったからだ。



 トルディオンはスカーレット王立学院に通い出した。赤い瞳を最初は珍しがったクラスメイトも、トルディオンといつの間にか仲良くなっていると聞いた。トルディオンの人見知りしない、穏やかで優しい性格は皆に受け入れられたようだ。

 

 暫くして落ち着いた頃、トルディオンは魔力を鍛える訓練を始めた。ルークの甥っ子フィルが王立学院のクラスメイトだというので2人でジェイクの厳しい訓練を受けている。


 トルディオンは激しい運動などはまだ出来ないが、そんな時も2人は仲良く励まし合っていると聞いて安心した。




 しかし、ハンナはなかなか館から出てこなかった。いつもおどおどとして、息子と乳母のエリ以外とは目も合わせない。


 ハンナと仲良くなりたいソフィアは、四阿での午後のお茶会にハンナとエリを招いた。ベラとマリアンヌも一緒で、ジュエルは護衛として参加した。

  

 最初、ハンナはずっとハンカチを握りしめて、俯いてばかりだったらしい。しかし、ソフィアはその握りしめているハンカチに目を奪われてしまったという。


「ハンナ様。そのハンカチの刺繍…見せていただけませんか?とてもきれいなんですもの!」


「これは…大した物では…。私が刺した物なので…。」


 ええっ?

 ハンナ様が…?ご自分で?


「うわぁぁぁ!

 素晴らしいです!とてもきれいです。」


 渡されたハンカチを見てソフィアは思わず声を上げた。その刺繍はとても細やかで、小さな小さなビーズも縫い込まれ、とても美しかったのだ。


「ハンナ様、わたくしにもできるでしょうか?

 やってみたいです!教えてくださいませんか?」


 そうソフィアが言うと、ベラも頷いた。

「ハンナ様、私もぜひ!」

 

「私もやってみたいです。」

 マリアンヌも言った。


 ジュエルは、私は針を持ったことがありませんが、参加出来るでしょうか…?と言った。


 ハンナは少し戸惑った顔をした。


「乳母のエリは本当に上手なのです。私はエリから教わりました。 

 ねえ、エリ…。皆さんに教えて差し上げて。私よりエリの方が教えるのも上手でしょう?」


 ハンナの後ろに控えていたエリは頷いた。


「ハンナ様もご一緒に…ですよ。それでよろしいなら。」

 

 こうして、ソフィア達とハンナは親しくなっていった。だが、ハンナの心の闇は深く、本当に心を開いてくれるまでには時間が必要だった。

この後、もう1話投稿予定です。

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