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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜ソフィアの庭〜
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初夏 8

本日2話目の投稿です。

よろしくお願い致します。

 舞踏会に向けての準備は着々と進んでいた。


「スカーレット国の王族や上位貴族の情報は覚えましたから、今度は国外の事や要人達の事を覚えています。」


 ソフィアはそう言って、とても楽しそうにしていた。


「だって、出されるお食事にも意味があるのだとベラから教わっているのですもの。楽しいです。」


 貿易相手の国の特産品を使った料理や飲み物について、なぜそれを使っているのか…国外の要人達と話す時の話題にも使える、とソフィアは一所懸命になって覚えている。

 


 知らなかった事を学んでいく事が楽しくて仕方ないのだ、とばかりに、新しく学んだ事をソフィアはキラキラとした眼で俺に教えてくれる。


「セオドラ様。今度のドレスはカレント国の特産品、光を浴びると色が変わる特別なシルクを使ってもらう事にしました。」


 カレント国は輸入が多く、輸出をもっと増やしたい、と言って力を入れているがなかなか上手くいかない。


 そうか、ソフィアとベラはそこに目をつけたのか…。


 ソフィアが舞踏会にあのシルクを使ったドレスを着れば、一気に需要が高まる。


 出来上がったドレスの試着の時にセオドラ様も来てくださいと呼ばれて、行って見て驚いた。


 動きに合わせてキラキラとしながら色を変える薄い薄いシルクを使ったドレスは、ソフィアがまるで天使にでもなったかのように見えた。


 クルクルと回って見せてくれたソフィアは、ふふ…と笑った。


「まだあるのですけど…。」


 手にした扇子を広げると、甘やかな薫りが漂った。


 これは、確か…。


「扇子の房飾りに、南国ピリューの香木で作ってもらった玉を付けました。小さいのにこんなに香りが漂うのです。素敵でしょう?」


 ニコニコと嬉しそうな顔でソフィアは俺を見た。


 確か…ピリュー国も輸出を増やしたい、とスカーレット国をせっついているはずだ。


 ピリュー国からは舞踏会に王弟殿下夫妻が来る事になっている。きっとソフィアの小さな玉に気がついて、貿易交渉もいい方向に進んで行くだろう。


 すごいな。ソフィア。

 ベラの手助けがあるからだと、分かってはいるけど。

 でも、やはり、すごいよ、ソフィア。

 どんどん王太子妃として成長しているんだね。


 だけど、無理はするな。お願いだから。


 ソフィアの側にいる皆もそれを分かって、ソフィアを助けてくれている。ありがたい事だと、心から感謝する。


 そして、折につけて俺は感謝の言葉を口にする。

 思いは言わなければ伝わらないのだから。




 

 そんな間も、俺は拗れている案件の内の1つ、ローリーとベラをなんとかしたいと考えた。

 2人は相変わらず、すれ違っているままだ。


 ルークは、大人なんですからね、放っておきましょうと冷たい。

 ジェイクは、どうするんですか、と嬉しそうではあるが良い案は浮かばない。


 それでは…とソフィアとマリアンヌ、ジュエルを呼んで相談した。


「ええ〜っ!ベラとローリーが?」

 

 3人は散々騒いだ。


 ソフィアはすごく嬉しそうに、いい案があると言った。


「わたくしが子供の頃に読んだ本の中に、ドラゴンに攫われたお姫様を助けた男が、最後にお姫様と結ばれる、という話があって…。

 ベラが誰かに攫われたら、きっとローリーは助けに行くと思うのです!

 あ!……でも攫われるのは無理、ですね。ベラは公爵ですから護衛がいっぱいですもの。

 ちょっと、残念…!」


 ジュエルは、ベラ殿が攫われたら、私が助け出します、と言ってから、しゅんとした。


「私とベラ殿が結ばれるわけには参りません。私とて、いつの日にか素敵な男性と恋をしたいですから。」


 1番冷静なマリアンヌが言った。

  

「偽手紙で2人を庭の四阿に呼び出しましょう。

 ローリー殿にはベラさんの名前で。

 ベラさんにはローリー殿の名前で。

 2人が人目につかない、薄暗くなり始めた時間帯に四阿に呼び出すのです。

 まぁ、古典的な極めて古臭い手法ではありますが、あの2人ならそれぐらいの方が効くでしょう。

 後は、大人の2人がどうするか…ですね。静かに見守るのが宜しいかと。」


 早速、ベラの筆跡を真似てマリアンヌが手紙を書き、ローリーの筆跡を真似て俺がカードを書いた。


 呼び出したのは、舞踏会の2日前の夕暮時。

 本人達より周りの皆の方がドキドキ、そわそわする、その夕暮れ時がやってきた。



 ソフィアは四阿のテーブルに、真っ赤な薔薇の花を2輪飾って置いた。

 ん?薔薇の花?と聞く俺にソフィアは真剣な眼をした。


「2人がうまく行くように、おまじないです。」




 俺達の自室に、マリアンヌ、ジュエル、ジェイク、あんなに冷たかったルークもやって来た。


 部屋の明かりを消して、皆で成り行きを見守る。


 先にやって来たのはローリーだった。

 ゆっくりと四阿の椅子に腰掛けて赤い月と青い月を見つめるローリーは、ラフな普段着でとてもかっこいい。


 ベラが現れた。

 えっ?と思うほどの質素なドレスで、まっすぐなサラサラの漆黒の髪がかすかに風に揺れていた。


 2人が、二言三言と言葉を交わし、ローリーが何か言って立ち去ろうとした。

 ベラがローリーに駆け寄り、手を伸ばしてローリーの上着を掴んだ。

 ローリーがゆっくりと振り向いた…。


 窓から覗く皆は息を呑んで成り行きを見つめた。


 そこで、俺はさっとカーテンを閉めた。


「…ここまでだ。2人はちゃんと話すだろう。

 あとはそっとしておこうか。」


 集まった皆は手持ち無沙汰になってしまった。

 仕方ないので俺が得意の薬草茶を入れて振る舞い、ソフィアが厨房からパティシエのお菓子を持ってきてもらって、皆でほっこりとした時間を過ごした。



 翌日、2人は何も言わなかった。

 2人とも忙しくて、それどころではなかったのだ。

 …恥ずかしかっただけなのかもしれないけど。



 舞踏会の日。

 グレーのドレスを纏ったベラの髪には、一輪の赤い薔薇が。そして…ローリーの準騎士の正装の胸にも赤い薔薇が一輪。


 2人はそれぞれに幸せそうな顔をしていた。

 俺達には2人の幸せそうな顔だけで充分だった。




 舞踏会は今回も大成功だった。


 ソフィアの周りには人が集まり、話が弾んでいた。堂々と微笑みながら話すソフィアは本当に立派な王太子妃だった。ベラやマリアンヌ、ジュエルが後ろに控えてくれるから安心していられるのだろう。


 友好国の客人達や我が国の要人達も楽しんでくれているのが分かった。

 シンプルなドレスに身を包んだ女性達は、楽しげに微笑みながらダンスを楽しんでいた。

 

 ソフィアのドレスや扇子の房飾りは皆の話題になり、きっと貿易の良い材料となっていく。そしてそれは、スカーレット国の繁栄をもたらしていく。


 もう、本当に誰もソフィアをお飾りの正妃などと言わないだろう。

 

 本当に頑張ったな、ソフィア。


 皆が幸せそうな笑顔で踊るのを見て安心した俺達は、前回同様、早目にパーティーを切り上げて自室に戻った。

 

 するとベラが、一昨日はありがとうございました、とお礼の言葉を口にした。


 俺達が仕組んだとわかったのか、と俺が聞くとベラは、はいと答えてくすりと笑った。


「あんな事を考えてくださるのは、セオドラ王太子殿下とソフィア妃殿下しかおりませんもの。マリアンヌさんやジュエルさんも一緒に考えてくださったのでしょう?」


 ベラは髪に差していた一輪のバラをそっと手に取った。


「それに…ソフィア妃殿下が薔薇をあのテーブルに飾ってくださったのだと気がつきました。」


 ベラは真っ赤な薔薇が庭に咲いているのを見て、一度だけ昔話をしたのだそうだ。


「昔々、若かった頃。

 大好きだった人が真っ赤な薔薇を一輪私にくれたのです。そして、恥ずかしそうにこう言いました。

 あとで花言葉を調べてね。僕の本当の気持ちだから。


 花言葉を調べて、私は嬉しくて涙が出ました。

 花言葉は…私はあなたを愛しています。


 私はいつまでもこの人と一緒にいたい、と…。

 

 まあ、私としたことが…昔話など…!

 失礼いたしました。ちょっとした戯言でございますよ。

 お忘れくださいませ。」


 ソフィアはその事を覚えていて、おまじないとしてテーブルに飾ったのだ。


「あの時のベラは本当にきれいだったから…。

 わたくし、もしかしたら、その方がローリーなのかしらって、思ったのです。」


 ベラは少し頬を赤らめて頷いた。


「一昨日はローリーと2人でいろいろ話しました。

 来年、公爵の爵位を息子が継ぐ事が決まっています。私の事はその後に…。

 皆さんへのお礼とご報告はこれぐらいでご勘弁を!

 ありがとうございました。」


 ベラは幸せを撒き散らして帰って行った。

 

 翌日、ローリーが挨拶に執務室に来た。


 ローリーは照れながら、俺とルーク、ジェイクに頭を下げて、ありがとうございました、と言った。


「私は今まで待ちました。あと1年や2年待つのはどうということはありません。

 ベラに相応しい男になれる様に努力を続けていくだけです。」


 俺はローリーの肩をポンポンとした。



 夕方、俺は時間を作ってソフィアと庭の四阿に行き、ローリーの言葉をソフィアに話した。


 ソフィアは嬉しそうに俺に言った。


「セオドラ様が作ってくださった四阿のあるこの庭は、皆に幸せをくれる魔法の庭になりました。

 大切に手入れをして、守っていきますね。」


 俺がソフィアの頬にそっと口付けをしてソフィアの顔を見ると、ソフィアはキラキラとした眼で俺を見た。


 俺の大事な、愛するソフィア。

 魔法の庭の主人はソフィアだよ。

 ソフィアの笑顔で皆が幸せになるんだ。

 いつまでも俺の側で笑っていておくれ…。


 四阿には初夏の心地よい風が微かに吹き、空には赤い月と青い月がいつもと同じように輝いて、俺達を見守っていた。

ソフィアの庭 初夏編

今回で 完 となります。


この後、秋から冬へと季節が移ってまいります。

不定期更新になりますが、よろしくお願い致します。

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