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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜ソフィアの庭〜
37/73

初夏 7

本日は2話投稿予定です。

よろしくお願いいたします。


ポイント、いいね を入れて応援してくださっている皆様、ありがとうございます。心からお礼申し上げます。これからもよろしくお願い致します。

 久しぶり休日、最近のお気に入りを見せるのだ、とソフィアが俺を庭の四阿にに誘った。


 腕を組みながら庭に出ると、ソフィアの庭は春から初夏へと姿を変えて、木々の緑が清々しい季節となり、紫陽花が柔らかな色合いで咲き誇っていた。


 四阿までの小道は青い紫陽花が並び、四阿の周りには色とりどりの紫陽花が咲いていた。 

 

「ナハド親方達が長年育てている紫陽花なのです。わたくしの1番のお気に入りのお花です。でも…わたくしは周りのお掃除ぐらいしかできないのですけど…。」


 そんなソフィアに、まあ、焦らずやればいいさ、などと言って予め準備しておいた薬草茶を淹れていると、そう言えば…とソフィアが俺を見た。


「お城のパティシエがわたくしのために作ってくれた、エクレアというお菓子を今からアリスが持って来てくれるそうです。どんなお菓子なのでしょう?楽しみです!」


 そうか、そうか…。

 ソフィアはクリームパフを知らなかったけど、エクレアも知らなかったんだね、などと俺は思っていたが…。


 アリスが持って来たのは、俺の知ってるようなエクレアではなかった。小さな小さなエクレアの上にかかっているチョコレートは色とりどりで、それぞれに小さな花が乗っていた。


 まとまって皿に乗っている様子は、小さな花が集まって咲く紫陽花のようだった。


 見た事もないような可愛らしさに、おっ!と俺が声を上げる横で、ソフィアが両手を頬に当て眼をまん丸にして、エクレアを見つめていた。


「まぁぁ!

 この花は紫陽花…です。お菓子の紫陽花!

 セオドラ様、どうしましょう!

 可愛らしくて、食べてしまうのがもったいないです。

 どのようにしたら、こんなに可愛いお菓子ができるのでしょうか?」


 俺はチーフパティシエが心配そうに窓から見ているのに気づいて、側にいたアランに声をかけ、パティシエを呼び寄せた。

 

 チーフパティシエは畏まりながら、ガーデンパーティーの時に思った事があったのだと言った。


「私達はこの城のパティシエですので、この国に昔から伝わっている伝統的なお菓子の技術を守り、次の世代へと伝えていかなくてはなりません。

 ですが、ガーデンパーティーにいらした皆さんを見て、自分達も皆さんがあっと驚く様な、楽しくなる様な、そんなお菓子をもっと作りたくなったのです。」


 ソフィアが皆の手を煩わせたくないと思って取り寄せたお菓子に刺激され、パティシエ達は研究を始めたのだろう。


「失礼ながら、ソフィア妃殿下を思い浮かべながら皆で作った、自信作でございます。たくさん召し上がっていただきたくて、一口サイズにしました。中のクリームも工夫しております。どうぞ楽しんでくださいませ。」


 ソフィアはパティシエを見てにっこりと微笑んだ。


「では…いただきますね。」


 ソフィアは1つ食べてチーフパティシエの顔を見た。

 そして、すぐに2つ目を口に入れて俺の顔を見た。


「%*#+{+€!!!!」


「これっ!

 食べながら喋るんじゃないよ。」


 だって…!美味し過ぎるのですものと、ソフィアはもぐもぐしながら俺に1つ勧めた。そして、アリスを呼んで1つ勧め…、ビクターとアランにも勧めた。

 ちょっと離れた所にいたジェイクを手招きして1つ勧め…、ジェイクの配下の者達にも勧め…、偶然通りかかったナハド親方の弟子に頼んで皆を呼んでもらい…、遠くで控えている側仕え達を呼び寄せ…美味しいの!食べてみて!と勧めた。


 皆、2つ3つと食べたので、途中でエクレアが足りなくなり、パティシエは山盛りのエクレアを厨房から持って来させる事になった。


 パティシエはとても喜んで、これからも妃殿下に喜んでいただけるように皆で研究いたします、とお辞儀をした。


 ふと見ると、窓からはパティシエの仲間や弟子達がこちらを心配そうに眺めていた。


 俺は大声で言った。


「美味かったぞ!

 ソフィアは3つも食べて幸せな顔をしている。

 ありがとう。これからも励んでくれ!」


 ソフィアは皆に手を振って、うんうんという様に大きく首を縦に振った。


 パティシエの仲間達はソフィアにお辞儀を返した後、皆で握手したり、肩を叩き合っているのが見えた。


 たかがエクレア…。


 でも、皆がガーデンパーティーで何かを感じ、新しい一歩を踏み出したのなら、それはソフィアが思っていた '皆が幸せを感じる事' に繋がっていくだろう。


 ソフィアもそれが分かったのか、嬉しそうに微笑んで俺を見た。




 ソフィアのお披露目の本格的な舞踏会が開かれる日程が決まった。


 今度は上位の爵位を持つ者達だけでなく、爵位を持つ全ての者、この国の要人、有力な商人や学者、友好国からの客人、それら全ての成人の家族、なども呼ぶ事になる本格的な舞踏会だ。


 一体、何人呼ぶ事になるのだろう。


 ソフィアはベラ、マリアンヌ、ジュエルとあちこちの部署を回り、今回もよろしくお願いしますね、と挨拶をしたり、業者にも笑顔を見せたり…と忙しくしていた。


 ソフィアの人気は高いらしく、ソフィアが顔を出すと皆がニコニコと集まってきてしまうのだ、とジュエルが俺に言った。


「隙あらば妃殿下と握手しようとする者も多くて…。油断ならないのです。全く、妃殿下をなんと心得ているのやら。」


 しかし、ソフィアはジュエルが皆を止めようとすると、いつも小さく首を振るのだそうだ。


「わたくしと握手をすると、皆嬉しそうなんですもの。かまわないわ。」


 ニコニコとしているソフィアの後ろで、眼光鋭く辺りを見ているジュエルの姿が容易に想像できた。


 大変だろうがよろしく頼むよ、とジュエルに言うと、

「はいっ!もっと己を鍛えて、妃殿下をお護り致します!」

と力強い返事が返って来た。



 マリアンヌやアリスからの情報によると、街の仕立て屋は新しいドレスの注文が殺到して大忙しだという。

 前の舞踏会が終わるや否や、ソフィア妃殿下のようなドレスを…と言う女性達が店に殺到したとかで、縫い子募集の張り紙が王都中にあるらしい。

 更に驚く事に、装身具を扱う店では男からのピアスの注文が増え、一時は品切れが相次いでちょっとしたパニックが起きたそうだ。

 

 自分達の影響力に今更ながら驚いた。

 

 これからは迂闊な行動はできんな…。こうして、この国の経済が回っていくんだから、嬉しいことではあるが…。男のピアスまで流行らせてしまったなんて…!


 


 そんな中、王城では舞踏会に先駆けて、ローリーの名誉男爵の爵位授与式が行われる事になった。


 俺が父上やロッシュ宰相、その他関係する部署の皆に頼んで、舞踏会の前に授与式を開いてもらった。

 ローリーを名誉男爵として舞踏会に参加させてやりたかったんだ。



 授与式の日、赤い月と青い月が輝く青空は雲一つなく、ローリーを祝福しているようだった。


 城の大広間には国王である父上を始め、俺とソフィア、ウィリアムが並び、その他の王族、貴族の当主、主だった役職の重臣達が、ずらりと大広間に並んだ。


 名を呼ばれて大広間に入ったローリーは準騎士の正装に身を包み、左胸には数々の勲章をつけて、まっすぐに前を向いて立っていた。その顔は少し紅潮して、誇らしく輝いていた。


 侍従長の合図でゆっくり歩き出したローリーがベラ ハーウィック公爵の前を通り過ぎた時、ベラの唇がほんの微かに震えていたように俺には思えた。


 やがて国王の前で跪いたローリーの肩に聖剣が当てられ、ローリー フェルトランド、汝に名誉男爵の称号を与える、と国王の声が響き渡った。


「ありがたき幸せでございます。

 これからも誠心誠意、職務に励んで参ります。

 国王陛下に神のご加護が在らんことを!」


 ローリーがそう答えて立ち上がると、皆が拍手をした。


 皆ががローリーを取り囲み、よかったなと声をかけた。ふと見ると、ベラはじっとローリーを見つめていたが、俯いてゆっくりと退室して行ってしまった。


 俺はルーク、ジェイクと共にローリーの側に行き、これからも頑張れよ、と声をかけた。ローリーは目を潤ませながら、はい、と答えた。


「セオドラ殿下やルーク殿、ジェイク親衛隊副隊長のお陰です。

 こんな…しょうもない男だった私を…暖かく見守ってくださって、本当にありがとうございます。これからも頑張ります。」


 そして、赤い眼でベラのいた辺りに目をやり、唇を噛み締めていた。

 

 これでローリーも堂々と今度の舞踏会に参加できる。上手くいけば、2人でダンスを踊ることぐらい出来るのではないか、などと俺は思っていた。


 しかしこの後も、2人は…本当に素直になれない大人だった。


 拗れた恋心を持ち続ける2人をどうすればいいのやら。

 俺はこんな事にも頭を悩ませる事になった。

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