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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜ソフィアの庭〜
32/73

初夏 2

本日、2話目の投稿です。

 ソフィアのガーデンパーティの日。


 俺とソフィアはクリームパフを買いに街に出た。もちろん、護衛はジェイクとローリーが全部手配してくれている。何の心配もない。


 俺達2人は街が大騒ぎにならないように魔力を使って少し姿を変え、手を繋いでゆっくりと歩いた。暖かな朝の光を浴びながら歩くのは初めてで、ソフィアは嬉しそうに俺を見た。


 そんなソフィアを見ていると俺の心も暖かくなり、自然と顔が綻んでくる。


 ソフィアの顔を辛いことで曇らせたくはない…。

 そのためにも、早急に対策を立てなくては…!

 側妃だ、愛人だ、などと絶対誰にも言わせない。


 俺はソフィアの柔らかな手を握りしめた。

 ソフィアは俺を見て手を握り返してきた。いつになく、強い力で。



 途中の休憩でも、カフェでも、ソフィアは疲れているだろうに、そんな素振りも見せず楽しそうにしていた。


 ノートにソフィアが書いていた様にカフェで2人でクリームパフを食べて '味見' をしていると、何を思い出したのか、ソフィアは急に頬を染めた。


 ああ、そうだった…。

 17歳になったソフィアに初めてキスをしたのは、ピクニックでクリームパフを食べている時だった。


 あの時、俺はソフィアに、結婚して欲しい、2人で '幸せを感じるやりたい事' をたくさん叶えたい、と言ったんだ。

 

 ソフィア、お前とこれからの人生を共に歩いていきたい。幸せにする。俺の事も幸せにしてくれ…と。


 ソフィアの顔を見ながらそんな事を思い出していると、ソフィアが急にポロリと涙を流した。


 …えっ?


 俺が狼狽えていると、ソフィアは小さな声で言った。


「セオドラ様…。わたくし、頑張りますから…。」


 ソフィアが俺の顔を見た。


「わたくし…他の女性に…セオドラ様を…」

 

 …えっ?

 俺を…?


「…取られたく…ありませんから…。」


 ソフィア…?


「王太子殿下は何も出来ないお飾りの正妃を見捨てて、側妃を娶る…。

 そんな噂が流れている…のでしょう?」


 …なんでそんな事を!誰が言ったんだ!

 

 眉根を寄せる俺の手をソフィアが握った。


「りんごの花祭りの後、父がわたくしを訪ねて来て言ったのです。」


 変な噂が流れている。

 心無い誰かから聞かされる前に、お前に知らせに来た。

 周りで何を言われてもお前はセオドラ様を信じなさい。


「大丈夫です。セオドラ様は絶対にそんな事はなさらない。わたくしはそう返事をしました。

 

 でも、わたくしのせいで…セオドラ様はお辛い立場に立っておられるのでしょう?


 セオドラ様、ごめんなさい。

 何もできない、こんなわたくしで…。

 セオドラ様に辛い思いをさせてしまって。


 わたくし、頑張ります。

 セオドラ様のお側にずっといるとわたくしは…あの日決めたのですから。

 お側にずっといるために、わたくし、頑張りますから。」


 そして、消え入りそうな声で言った。


「でも…。

 セオドラ様が、周りからお相手を押し付けられたら。

 そして、それがどうしても断れないお相手だったら。

 …わたくしは…そんな事まで考えてしまって…。

 考えただけで、胸が…痛くて………。」


 そう言いながら、ポロポロと涙を流すソフィアを見て、俺はガーデンパーティーの本当の意味を悟った。


 ソフィアは自分なりに考えて、少しずつ前に進もうとしていたんだ。


 ロクシー バーロンド医師はその事に気づいて、何事も焦らずに前に進むのがよろしいのです、と言ったのか…。


 …やっぱりなぁ…俺は…まだまだ…だ。

 情けない。


「ソフィアはお飾りじゃない。俺の愛する妻だよ。

 俺が他の女性を愛する事はないんだからね。

 ソフィアの事で、誰にも何も言わせないさ。俺には…ソフィアだけだから。


 愛してる。ソフィアだけを愛してる。」


 そう言って、俺はソフィアの顎を少し上に上げ唇を重ねた。クリームパフの味とソフィアの涙の味がした。



 

 王城に戻ったソフィアは少し横になった。まだ動けるというソフィアをマリアンヌが説得してくれた。


「妃殿下…。

 妃殿下のお立場なら私達に、次はこうしろ、とおっしゃるだけでいいのです。

 ガーデンパーティーの大まかな事は分かっておりますから、会場の準備はお任せください。アリス殿と2人、手分けして先に準備を致します。

 だから少し横になって体を休め、笑顔で皆を迎えましょう。お目覚めになった後で至らぬ所がないか確認してください。」


 頷いたソフィアは素直にベッドに横になり、すぐに寝息を立てていた。


 ソフィアの頭を撫でている俺にマリアンヌが言った。


「妃殿下の体調は大丈夫です。いつもの午睡の時間に横になって頂いているだけなので心配はいりません。

 気が張っておられますので、お疲れが出るのは明日、でしょうか。今日はこのまま、パーティを主催されて大丈夫です。」


 マリアンヌがそばにいてくれるおかげで、俺も安心していられる。

 

「ソフィアをよろしく頼む。」


 お辞儀をしたマリアンヌは庭へと急いで消えていった。




 

 庭には暖かく緩やかな風がそよりと吹き、ナハド親方と弟子達、ソフィアやアリス達が丹精込めて手入れをしている花の匂いが薫っていた。


 ソフィアのガーデンパーティーは無礼講で、身分に関係なく皆が楽しめる様にと配慮してあった。


 四阿の周りにはモスグリーンのクロスをかけたテーブルが並び、色々なパンやクッキー、飲み物が置かれていた。


 ソフィアは厨房の皆に自分のわがままで手間をかけさせたくないと考えていて、王都のあちこちの店から色々な物を取り寄せていた。


 庭にはテーブルと椅子がたくさん置かれてあった。テーブルの上には庭の花が飾られていて、よく見ると花瓶の側にはカードがあり、花言葉と共にソフィアから皆への感謝の言葉が書かれていた。


 やって来た客は自分の好きな物を取っていた。

 クリームパフはソフィアがトングで直接客に渡す事にしたらしく、一人一人に声を掛けながら渡していた。


 いつも美味しい食事をありがとう。

 お部屋を心地よく整えてくれて、感謝しています。

 わたくし達を支えてくれてありがとう。

 困っている事はないですか?


 王太子妃から直接声を掛けられて、皆、晴れがましく、にこやかに午後のひと時を楽しんでくれていた。

 

 俺はソフィアに、手伝うよと声をかけた。するとソフィアはにっこりとした。


「ありがとうございます。

 セオドラ様がそうおっしゃるのを待っていました!」


 ソフィアの目線の先には薬草茶の準備がしてある四阿があった。


 …いつの間に!


「わかった。茶は任せろ!」


 俺が四阿に陣取り薬草茶の準備を始めると、ビクターとアランが慌ててやって来た。


 私共がやりますので…という2人に俺は真面目な顔でこう言った。


「知ってると思うけど…。

 俺はね、薬草茶を淹れるのは得意なんだよ。

 俺はビクターとアランに最初のお茶を渡したいんだ。無礼講なんだから、そこで大人しく2人で並んで待っていて欲しい。」


 薄緑色の初夏の香りがする薬草茶を、オロオロとするビクターとアランに渡し、いつもありがとう、感謝してるよ、と言うと2人が泣きそうになってしまった。


 すると、おお〜っという声がするので目線をビクター達の後ろに遣ると、皆が嬉しそうな顔をして並んで俺の茶を待っていた。列の先頭にはなぜかジェイクがいて、その後ろにはルークとローリーがいた。


 にた〜っと笑った3人は、喉が渇いておりますので早く茶をください…などと言う。


 この3人が並んでくれたおかげで、他の皆も列に並びやすかったいう事だろう。


 悪いね、気を遣わせて…。


 一人一人に茶を渡し、一言づつ感謝の言葉を言っていたのだが長蛇の列はなかなか解消されず、結局、ビクターとアランが手伝ってくれる事になってしまった。


 嬉しそうに俺の手伝いをする2人を見て、まあ、いいか、と俺は思った。皆に幸せを感じてほしい、というのがソフィアのガーデンパーティーの主旨なのだから。


 

 このガーデンパーティーを手伝ってくれているアリスやマリアンヌ…その他の下働きの者達には、色とりどりのキャンディを可愛い小袋に入れた物を渡すのだとソフィアが用意している。


 見ているだけで楽しくなるそのキャンディをビクター、アランにも渡し、手間をかけて悪かったね、という俺の気持ちもたくさん込めることにしよう。



 そんな事も考えながら茶を淹れていると、庭師のナハド親方と弟子達がパーティ会場にやって来た。


 遠くの方から眺めているだけで、中々入って来れないナハド達に気づいたソフィアが手を振ると、親方達はゆっくりとソフィアの方にやって来て、ぎこちなくお辞儀をした。


 何を話しているのか、少し強張っていた親方達の顔が綻んでいった。そしてクッキーを乗せた皿を手に、ソフィアに連れられて俺の所にやって来た。


「おお!親方ではないか。薬草茶が飲み頃だ。

 ソフィアが色々と面倒をかけているね。楽しそうにしている妻を見ると、俺も楽しくて幸せな気分になるんだ。

 庭は花がいっぱいでとても綺麗だ。部屋の窓からもよく見えて、花を眺めるのを楽しみにしている。

 これからもよろしく頼むよ。」


 そう言って茶を渡すと、ナハドが泣き出し、弟子達も肩を震わせてしまった。


「おいおい…茶が溢れるぞ…」


 皆の幸せな顔が溢れるソフィアのガーデンパーティーは夕暮れ前に終わりとなった。




 今日は1日、頑張ったね、と言うとソフィアはにっこりと笑った。


「手伝ってくれた皆のおかげです。セオドラ様もありがとうございました。わたくしの幸せを感じるやりたい事が、今日1日でたくさん叶いました。」


 体は大丈夫かと聞くと、ソフィアは平気ですと笑った。

 その笑顔は幸せに溢れて見えた。


 2人で小さな幸せを積み重ねていこう、と俺は結婚式の日に心に誓ったんだ。それは今も変わらない。


「2人で少しずつ、無理せずに、前に進んでいこうな。」

 そう言うと、ソフィアは嬉しそうに頷いた。

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