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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜りんごの花びらが舞う夜〜
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本日、2話目の投稿です。

今回の投稿が 第3章 〜りんごの花びらの舞う夜〜 の最終話となります。

 テントの外にはルークが待ち構えていて、なぜかニヤッと笑っていた。


「お前、何笑ってる?」


「いやいや…ソフィア様は何回くらい、殿下とこっそりとお出かけなさっていたのかな…などと考えたら、ちょっと頬が緩みました。」


 お、お前!

 どうしてそれを!


「えっ?なぜ分かったのか、って顔をされてますねぇ。

 そんなの簡単ですよ。アリス殿だってジェイク殿に連れられて飛んだ時、目が回っていたのに、ソフィア様は平気でしたものね。しかも飛ぶ前に、アリス、大丈夫よ、って声をかけてましたからねぇ。慣れておられるな…と。私にはバレましたよ。

 

 ご心配なく。私は誰にも言いませんよ。

 その代わり…。」


 !!!


「これから私が話す事を承諾していただきますからね。」


 …だから、お前を連れてくるのは嫌だったんだ。

 お前、勘が良すぎるんだよ。昔から。


「はい、勘が良すぎてすみません。

 あ、私は人の心は読めませんからご安心を!」


 く、くそっ!

 全く、どいつもこいつも!



「では、ここからは真面目な話をしますので…」





 ルークは人混みから少し離れた所に俺とジェイク、ローリーを連れて行って座り、シールドを張った。


「誰にも聞かれたくない話ですので、ここに皆さんと来たかったのですよ。ですから、この話は内密に!


 殿下に言われた通り、ここの者達の生活の糧について調べましたが、まあ、ご覧の通り何もなく、自給自足の穏やかな暮らしです。」


 だが、この村は休火山に囲まれていて、掘れば温泉が出る、と知人の地質学者が言っている。温泉の話が出ると、あっという間に大きな温泉宿が建ち、酒場が数多く並び、穏やかな暮らしは一変する。


「それを受け入れるのか、否か。

 村の人々が考える時間を作るのがよろしいかと…」


「おお、そうか…。なるほど。」


「ですので、この辺りの掘削権、温泉の所有権、その他の諸々の権利をセオドラ殿下の名前で押さえました。」


「えっ?」


「私の父やロッシュ宰相の様な人に目をつけられたら、有無を言わさず開発が進みます。開発が悪いとは言いませんが、村人の意見はちゃんと聞かねばなりませんからね。開発するにしても王立の方が何事も適正価格で進みます。」


「ルーク!お前…何を考えてる?」


「お金を出してくださいね、と考えております。

 殿下の名前で押さえているのですからね。

 それと、ここ以外にも何ヶ所か似た様な場所があるのです。」


 住人たちが忌み嫌う黒い水が出る村がある。それらは火をつけると燃える水で、これからの暮らしに役立つと、他国の科学者に聞いたとルークは言う。


「そこも商人や貴族達に取り込まれると、面倒です。」


「…そこも押さえたのか!」


「もちろん。押さえています。

 ご存知の通り、私は仕事が早い、できる男なのですよ。」


 ジェイクとローリーは笑いを堪えた。


「それと…。」


 ルークはジェイクとローリーに他国とのいざこざを避けるために、地方都市の警備を厳重にする事を頼んだ。


 更に、これからの事を考え、ジェイクには騎士達の育成を早急に進める事、ローリーには準騎士達の警備力を強化する事、が必要だと話していた。


 これで話は終わりか、やれやれと思った時…。


「そこで、です。殿下!」


「えっ?…まだ何かあるのか?」


 俺の手持ち金がこのままでは危うい、とルークが言う。


「それは…お前があちこち押さえたからだろう…!」


 ルークはにっこり笑って、そこで王家の預かりとなっている我ルベール伯爵家の元の領地を返していただこうと思います、と言ったんだ。


「なんで、お前の元領地の話になる?」


「我が父も、誰も知らない事ですが…。

 あの領地には金、鉄鉱石など、他国が欲しがる物が沢山埋もれています。私と知古の科学者とで内密に調査をした事があるのです。間違いありません。

 我が領地は宝の山!…今はまだ '元領地' ですが…。

 ですので、あの領地を返していただけたら、産出した物の売り上げの3割を殿下にお支払いしますよ。」


「8割!」


 くっ、とルークが笑った。


「それは…強欲ですぞ!殿下!

 返していただけないとあの土地が取り合いになって、国は乱れます。それでもいいのですね、ひどい殿下だ。

 我伯爵家が管理するしかない…と私は思うのですがねぇ。

 仕方ありませんなぁ。6割で。

 開発と管理に伴う諸費用はこちらで持って差し上げますよ。いい取引でしょう?

 あぁ、私はなんていい奴なのでしょう!」

 

 眉間に皺を寄せている俺をみて、ジェイクとローリーが笑い出した。

 

「これからは他国の知識を進んで取り入れないと、我が国はどんどん遅れていきます。

 私の知識が豊富なのは、父が私を幾つかの国に留学する事を許可してくれたからです。知識だけでなく人脈もできました。

 この国に今、必要なのは知識、他国との人脈、若手の育成。身分に関わらず有望な若者をどんどんと留学させましょう。

 その計画も立てていますので、そちらはこれから、ゆっくりと…。

 そんなこんなも国王陛下とロッシュ宰相にはまだ内密に。時期が来たら殿下から報告をしていただきますので。」


 さてさて…私の話は以上です。

 そう言ってルークはニコニコっと笑った。


「ルーク、お前いつからそんな事を考えて、計画立ててた?ロッシュの所に行ってからまだ日も浅いのに。」


 ルークはニヤリとして言った。


「言ったでしょう?私は腹黒いのですよ。

 いつかこの手でこの国を牛耳ってやろうと、ずっと待っていたのです。」


 ルーク、お前って、ほんとに出来る男で…腹黒い…振りをするのが好きだよな。


 わかってるよ。ゾーイが王太子妃になったら、お前が俺を補佐する立場になるから、色々と学んだり、研究をしていたのだろう?


「ありがとう。

 頼りにしてる。これからも頼むよ。」

 

 俺がルークの顔を見てそう言ったら、ルークが挙動不審に陥った。





 "りんごの花祭り" は花を楽しむだけでなく、りんごがたくさん収穫できる様にと祈る祭りでもある。


 目覚めたソフィアと共に祭りの会場に戻ってみると夕暮れ時とは様子が一変していた。

 

 りんごの花びらが舞う中、村人の祈りがこもった赤や黄色の紙のりんごが光りを放っていたのだ。それはまるで、俺達がお伽の国にいるかの様に思わせる、神秘的で神聖な光だった。


 ソフィアは驚いた顔でじっと輝く紙のりんごを見ていたが、突然、俺の腕をツンツンとして言った。


「セオドラ様!きれいです。本当に、きれい!

 見ているだけで涙が出できました。

 わたくしはここに来る事ができて幸せです。

 セオドラ様、わたくしをここに連れて来てくださって、ありがとうございます。」


 ソフィアは涙を浮かべながら背伸びをして、俺の唇にキスをした。俺はそんなソフィアを抱きしめた。

 

 ルークもジェイクもローリーも…

 何も今ここで、そんなにイチャつかなくてもいいでしょう…

 という顔で俺達を見ていた。


 腹黒い振りをしている、できる男、ルーク。

 俺が一生頭の上がらない、なんでも話せる男、ジェイク。

 世知に長けた、頼りになる男、ローリー。


 気がつくと、俺の側には3人の男達がいた。


 これから俺にどんな未来が待ち構えていても、この3人がいれば、一緒に乗り越えていける。

 俺達の前には道が続き、新しい世界が開けていく。 


 俺の後ろに控える3人の男達を見て俺は言った。

 思っている事はちゃんと言わないと通じない、と今の俺は知っているから。


「3人とも頼りにしている。

 こんな頼りない俺だけど、これからもよろしく頼む。」


 俺はソフィアの肩を抱きながら神秘的な景色を眺め、これから来る俺たちの未来に思いを馳せた。


 紙のリンゴの中には、この村にだけ生息する大きな蛍が入っていたようです。


****** ****** ******


 物語を読んでいただき、ありがとうございました。

第3章 〜りんごの花びらの舞う夜〜 の最終話です。


 いいね、ポイントを入れてくださった皆様、心より感謝いたします。ありがとうございます。


 これからもセオドラ王太子とソフィアのお話を続けて参ります。不定期更新になりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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