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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜りんごの花びらが舞う夜〜
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 りんごの花祭りに行っても大丈夫なのだろうかと、皆がソフィアの体を心配したけれど、医者の許可も出て、ソフィアは大喜びしていた。


 ソフィアにとって生まれて初めての遠出なんだから、楽しく過ごさせてやりたかった。だから、非公式訪問、お忍びで行くことにした。


 一緒に行くジェイク、ルーク、ローリー以外の皆には詳しい事は話していない。そして、口が堅い者ばかりを集めてもらった。何を見ても聞いても、驚かないし、誰にも喋らない。そういう誓約をしたのだ。


 王族のお忍びは、実にめんどくさい。


 まあ、これもソフィアのためだからね。

 いや、違うな…。

 ソフィアの喜ぶ顔が見たい俺のためだ。


 その日は、準騎士団の詰所まで魔力で飛び、その後はローリーに用意させた馬と馬車に乗って、短い距離だがのんびりと村の景色を楽しみながら進んだ。

 

 貴族の乗る馬車とは違い、村人のそれはすこぶる乗り心地が悪い。それでもソフィアは窓から見える景色を嬉しそうに眺めていた。


 セオドラ様、あれはなんですか?

 まあ、あんな所にあんな物が…!

 山がこんなに近くに見えます。

 うわぁ〜っ!

 

 ソフィアは本当に楽しそうで、すみれ色の瞳をキラキラとさせていた。



 村の一本道には人がどんどん増えていき、楽しげな音楽や歌声が聞こえて来て、皆に笑顔が溢れているのが分かる。


 "りんごの花祭り" は、祭りと言っても小規模でほんわかとした手作りの祭りらしい。そして、夜になると、本当に綺麗だと聞いたので、午後に着く様に計画した。


 ローリーが会場の外れ、目立たない場所にテントを用意してくれていた。椅子やソファが準備され、いつでもソフィアが横になれる様になっていて、手炙りやブランケット、温石までも用意してあり、ソフィアが喜んでいた。


 さすがローリーだよ。

 気がきくというか、女心を掴むのが上手いというか…。

 

 ついでに言うと…。

 ローリーは俺とソフィアの顔を見比べてニヤッと笑い、俺のそばに来て…


「うまくいきましたね。またなんでもご相談ください。

 セオドラ殿下…。」

 

 耳元でそう言って、ふう〜っと息を吹きかけたんだ。


「ロ、ローリー!」


 へにゃっ…となりそうな俺を見て、ローリーはクスッと笑った。


 くそっ!こいつ!

 なんだか、俺の弱味を握ってるよな。

 色んな意味で…!


 俺はローリーを軽く睨んだ。


 俺と共に荒れた暮らしから立ち直ったローリーは、庶民の暮らしをよく知り、世知に長けた、頼りになる男になった。皆の信頼も本当に厚い。


 よく頑張ったよな、ローリー。

 

「ローリー、ありがとう。頼りにしてる。」


「女絡みはいつでもどうぞ…」


 にやりと笑ったローリーは仕事に戻って行こうとする。


「ち、違うぞ!ローリー。

 そういう意味じゃなくて…だな。」


 ローリーは振り返りもせずに片手を上げて仕事に戻って行った。




 祭りの会場では準騎士達が制服で警備をしている以外にも、よくよく見ると、一緒に来た騎士以外にも騎士が何人か村人に紛れ込んで俺達を警護している。


 皆に世話をかけるなぁ…。

 でも、おかげで安心して楽しめるよ。


 見かける皆一人一人に、ありがとう、と声をかける。


 そんな事しなくていい、とジェイクもローリーも言うけど、せっかくの祭りだから、皆で楽しめるようにしたいじゃないか。ちょっと声をかける事で、気持ち良く仕事ができるだろう?

 

 俺達は村人に近い格好をしていて、ソフィアとアリスも庭の手伝いをする時みたいな格好をしている。白銀の長い髪を二つに分けて三つ編みにし、瞳の色と同じすみれ色の小さなリボンを付けているソフィアは、本当に可愛い。



 

 少し休んでいると、ゾーイ達がローリーに連れられて挨拶にやって来た。先日はどうも、と言う2人に俺は、妻のソフィアだ、と簡単に紹介した。

 

 ソフィアは椅子から立ち上がり、薄紫のマントを手にまっすぐゾーイのそばへと歩いて行った。

 

「ソフィアです。

 わたくしは、以前、王城でゾーイさんにお世話になったことがあるのです。その時、このマントをお借りしました。おかげでわたくしは、寒い思いをせずに済みました。

 今日は、このマントをお返ししたくてここに来たのです。

 ゾーイさん。あの時は本当にありがとうございました。」


 ソフィアはしっかりとゾーイにお礼を言っていた。


 ゾーイはマントを見て、まぁ!こんな素敵なマントを私が持っていたのでございますか?と笑っていた。


「ソフィア様からお返しいただいた物ですから、大切にいたします。こちらこそ、ありがとうございます。」


 ゾーイはペコリと頭を下げると、にこっと微笑んでソフィアを見た。そして、アレックスに肩を抱かれ、ゼノンと手を繋ぎ、人混みの中に紛れて行った。


 その後ろ姿を見つめて、小さな小さな声でソフィアは言っていた。


「さようなら、わたくしの薄紫の守護神様。」


 大丈夫かいと聞くと、ソフィアは小声で答えた。


「はい。ちゃんとお礼を言って心にケジメをつけました。

 セオドラ様。わたくしのわがままを聞いてくださって、ありがとうございました。」


 ソフィアはしばらく俺を見つめていたが、俺も大丈夫だとわかったのだろう。にっこりと笑って嬉しそうに言った。


「さぁ、セオドラ様、お祭りです。

 わたくし、お祭りは初めてです。お祭りって、どうすればいいのでしょう?

 セオドラ様、教えてくださいませ。」


 瞳を輝かせ、ソフィアは俺の手を取った。



 

 りんごの花は満開で、はらはらと白い花びらが舞っていた。それは雪がふわふわと舞っている様にも、白い蝶がひらひらと舞っている様にも見えて、とても綺麗だった。


 なのに、なぜかたくさんの実がなっているので目を凝らすと、紙で作った赤や黄色のりんごがぶら下がっているのだった。


「村の皆が、りんごの実がたくさんなります様に、と願いを込めて紙のりんごを造っているのです。そして、中には…秘密が入っております。

 楽しみになさって下さい。」


 この祭りに詳しい準騎士が説明してくれた。


 手作りのほんわかした祭り、というのはこういう事だったんだ。本当に長閑で、幸せを感じるお祭りだった。




 俺とソフィアは出店を回った。ソフィア、何が食べたい?と聞くと、ソフィアはニコッと笑って言った。

 

「そんなの…決まってます。全部の種類を食べるのです!

 だって、わたくしが食べた事がないものばかりなんです。」


 ソフィアと色々な食べ物を買い、テントに戻ると、ジェイクがサッとシールドを張った。


「殿下、ソフィア様、ごゆっくりどうぞ。」


 ソフィアはにっこりとジェイクに微笑みを返した。


「ジェイク様。

 いつもセオドラ様のそばにいて下さってありがとうございます。たまには、ジェイク様もゆっくり楽しんで下さいね。」


「ひ、妃殿下…!もったいないお言葉でございます。

 どうか、私の事は、ジェイクと呼び捨てに…。」


 急に片膝をついてかしこまったジェイクの顔が真っ赤になった。


 全く!おまえ、何赤くなってんだよ。


「ジェイク。…お前、暑いのか?」


 気心の知れた友と愛する妻と…久しぶりにのんびりとした時間を過ごし、俺も心から寛いでいた。



 ソフィアは、全部の種類を食べる、と言ったけれど…。


 大きな大きな骨付きの焼いた鶏肉を困った様に眺め、焦げた野菜が刺してある串を持って驚き、ごろっと大きな芋が入っているスープに目を見開き、手でも千切れないやたらと硬いパンに笑い出し、溶け始めた飴菓子に狼狽えた。


「セオドラ様!わたくし、とても楽しいですっ!

 でも、わたくしは…どういう風にお食事をすればいいのでしょうか?」


 そうだよね。本当に初めての事ばかりで、楽しいね。


 俺とソフィアの時間がゆっくりと流れていった。


 笑いながら食事を終えると、アリスを呼んでソフィアを少し休ませることにした。素直にソファに横たわるソフィアの背中をポンポンとして、またあとでね、と俺はテントから出た。


 空にはいつも通り、大きな赤い月と青い月が輝いて、俺達を見ているかのようだった。

本日は2話投稿いたします。次回が第3章の最終話となります。

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