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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜りんごの花びらが舞う夜〜
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8

本日、2話目の投稿です。

 庭の花の世話、虫の世話…忙しくしていても、ソフィアはゾーイの事を忘れてはいなかった。


 ソフィアがゾーイ様の事はまだ分かりませんか、って聞いてきた。それで俺は時間を作り、2人で四阿に行って話をする事にした。


 四阿に吹く風がほんの少し涼しくて心地よい昼下がり。


 俺が温かい薬草茶を淹れると、ソフィアは嬉しそうな顔をして飲んだ。以前ビクターとアランから特訓してもらって、薬草茶を入れるのは得意なんだ。


 そうやってソフィアの心を少しほぐしてから、俺はゾーイに起きた事を話し始めた。もちろん、本当の事は言えない。ゾーイがソフィアの身代わりになって毒針を刺された、なんて言えるわけない。

 だから、村の皆が信じている方の出来事を話した。馬車の事故で頭を打って、昔の記憶がなくなった…って。

 そして、俺が本当は知ってる事も知らないという事にした。


「えっ…?

 ゾーイ様は…セオドラ様の事もわたくしの事も分からないのですか?」


 しばらく俯いていたソフィアは、泣き出してしまった。


「おかわいそうに…。

 昔の楽しかった記憶も消えてしまったのですね。」


「ああ、伯爵令嬢として華やかな時間を過ごした日々は覚えていない。」


 アレックスと2人で逃げた事も、薄紫のマントを身につけて街を守ったり、俺達の命を助けたりした事も記憶から消えている。でも…。


「でも、今、あの2人は息子のゼノンと静かな暮らしをして、新しい記憶を積み重ねているよ。毎日を楽しんでいる。

 ソフィアが知りたかった "なぜ" は、もう誰にも分からない。


 この国のために2人が戦ってくれたおかげで、俺達は幸せに暮らしている。だから、アレックスとゾーイにも今のまま、静かで幸せな日々を過ごして欲しい。

 

 これが俺が調べさせてわかった事、全部だよ。

 ソフィア、これからどうしたい?」


 少しだけ考えていたソフィアは、ゾーイ様に会ってお礼が言いたいです、と言った。


 そして、ほんのちょっと…目が泳いだ。


 うん、やはり何か隠してる!




 

 俺はこういう事に1番慣れている男に、こっそりと聞いておいたんだ。


「なぁ、ローリー。

 隠し事をしている女にさ、何を隠してるのか白状させた事…ある?」


 ローリーは目をまん丸にし、それはそれは…大変ですなぁ、殿下、と笑いを堪えているのか肩を振るわせた。


 そして…簡単ですよ、と聞き出し方を教えてくれた。


 最後にローリーは俺に抱き付かんばかりに近寄り、耳元で、頑張れ、殿下…!と囁いて、俺の耳にふう〜っと息を吹きかけた。


「ロ、ローリー!」


 へにゃっ…となりそうな俺を置いて、ローリーはニタ〜っと笑ったまま消えて行った。




 目が泳いでいるソフィアに、俺はローリーに言われた通りにしてみた。


 こっちにおいで…と言ってソフィアを抱きしめ、囁く。

 

「悲しい思いをさせるね。ごめんね。辛いだろ?

 ソフィアが悲しむ顔を、俺は見たくないんだよ。

 だから、俺に聞いて欲しい事があるなら、言ってごらん。なんでも受け止めるよ。」


 そんな事を言葉を変えてソフィアの耳元で繰り返し囁き続けると、ソフィアが目を潤ませて俺を見たんだ。


「だって…。セオドラ様は…。」


 ん?


「…もう、いいですっ!」


 ソフィアは俺の腕を振り切って、部屋に帰ってしまった。


 ん?

 んん?

 …えっ?

 

 四阿で冷え切った薬草茶を飲み干して、俺はゆっくりと部屋に戻った。



 

 ソフィアは頭からブランケットを被り、ベッドに横たわり泣いていた。何があったのか、とオロオロしているアリスに、目で大丈夫だよと伝えて人差し指を振り、人払いをした。


「ソフィア、顔を見せて。」


 ブランケットをそっと捲ると、ソフィアが涙で頬を濡らしていた。


「セオドラ様…。わたくし………。」


「話してごらん。俺を、お前の夫を信じて。俺は全てを受け止めるよ。」


 ソフィアはしばらく泣いていたけれど、少しづつ話してくれた。


 最初は薄紫の守護神に憧れた。その憧れた人がゾーイだと知って、会って話がしたくなった。でも、ゾーイの手がかりは何もない。だから、何かわかるかもしれないと、隠し部屋に連れて行ってもらった。


 そうしたら……。そうしたら…。


「セオドラ様は…あいつはこんな所を知ってたのか。俺には教えてもくれなかった、っておっしゃった…」


 ソフィアは、その時改めて気がついた。

 ゾーイが子供の頃から俺の許嫁で、この城で俺と一緒に住んでいたのだ、と。


「ゾーイ様は…わたくしの知らないセオドラ様を知っていたのでしょう?」


 あぁ、そうだね。


「そして、セオドラ様はゾーイ様を愛していらしたのでしょう?」


 うん、そうだった。


「だから…。」


 だから?


「わたくしは…ゾーイ様がどんな方なのか、もっと知りたい。

 セオドラ様が愛した方が、どんな女性だったのか…。

 セオドラ様は、ゾーイ様のどこがお好きだったのか…。

 ゾーイ様のどんなところを愛しておられたのか…。


 知りたい…。知りたいんです。」


 ソフィアはゆっくりと起き上がった。

 真っ赤になった眼から、ポロポロと涙が溢れて落ちた。


「セオドラ様。

 わたくしは…わたくしの中にこんな醜い感情がある事を初めて知りました。それは、どんなに抑えようとしても抑えられない…。わたくしの中から、どんどん湧き上がってきます。

 わたくしは、こんな自分が悲しくて、辛いです。

 苦しいです。」


 ソフィアは大きな声で泣き出し、両手で顔を覆った。


 ソフィア…。ゾーイに嫉妬してたんだね。

 俺がそうさせてしまった…。

 俺の不用意な一言がソフィアを傷つけて、嫉妬させたんだ。

 そんな事にも気づかなかった俺は、まだまだ…だ。


「ソフィア…。

 俺の言葉がソフィアを傷つけてしまったんだね。

 軽率な俺が悪かった。許してほしい。」


 俺はソフィアが顔に当てていた両手をゆっくりと取った。ソフィアは俺から顔を背けて、泣き続けた。


「俺はソフィアを愛してる。

 心から大切に思っている、大事な大事なたった1人の女性なんだ。

 

 でもね、俺達には過去は変えられない。

 ゾーイがおれの許嫁だった事も、ここで暮らしていた事も、無かったことにはできない。だって、それは本当の事だから…。


 だけど過去はどうあれ、今、俺はソフィアが大好きで、本当に愛している。それは、今だけじゃない。これから先もずっとだよ。ずっと、ソフィアだけを愛し続ける。

 ソフィアがこの世で1番大切なんだ。


 お願いだ。

 バカで軽率な俺を許して欲しい。


 俺を信じて欲しい。

 俺はソフィアだけを愛してる。


 これからも、2人で一緒に幸せを感じるやりたい事をたくさん見つけよう。

 いや、一緒に見つけさせて欲しい。

 2人でする楽しい事で、頭がいっぱいになるように…。

 

 ソフィアに辛い思いをさせたこんな俺を…許して欲しい。

 ソフィア、愛してる。」


 ソフィアは頷いて、涙を拭った。


「セオドラ様。

 わたくしの大好きな旦那様…キスしてください。

 わたくしの醜い感情を、セオドラ様のキスで忘れさせてください。」


 うん、やっぱり…ソフィアは可愛い。


 俺はソフィアの頬を両手で挟んでキスした。


 心配したアリスが部屋のドアをノックして部屋に入って来ても…アランが虫用の葉っぱを持って来ても…俺は人差し指を振って人払いし、キスし続けた。

 皆が呆れるほど、ずっとキスしてた。




 ソフィアはゾーイが自分の事を分からなくても、会ってきちんとお礼を言いたい、と言った。


「わたくしの心のケジメをつけたいのです。

 ダメでしょうか?」

  

 俺はやはりソフィアに甘い。

 うん、いいよって言ってしまった。


 

 ジェイクに相談すると、あの村で もう直ぐ "りんごの花祭り" があるという。すっかりあの辺りで顔馴染みになったジェイクの配下の者が、そう言っていたらしい。


 その祭りに便乗してソフィアをゾーイに会わせよう、という事になったんだが…。


 なぜか話を聞きつけたルークが一緒に行くと言い出した。


「お前は来るなよ。」

 

 妙に感がいいお前が一緒に行ったら、面倒くさいじゃないか…、と思っていると、


「今、私が行ったら面倒くさい、って思いましたよね?

 思いましたよね?

 ひどいじゃないですか!あの村の生活の糧について調べるようにって言ったのは、殿下ですよ。

 村に行ってその報告をしようと思ったのに、私だけ除け者ですか!」


 やはりルークは特別な魔力を絶対持ってる!


「お前、やっぱり…人の心も読めるんだな。」


 えっ?殿下。本当に私を面倒くさがってるのですか、と藪蛇になり、ルークは文句を言い続けた。


 結局、俺とソフィア、護衛のジェイクと騎士を何人か、ソフィアの侍女アリス、準騎士達と団長のローリー、何故か一緒に来たがるルークという大人数で "りんごの花祭り" に行くことになった。


 多すぎだろ、という俺の言葉は軽く流された。

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