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本日、2話目の投稿です。
よろしくお願い致します。
部屋に戻った時、ソフィアはまだ目覚めていなかった。
そばで世話をしていたアリスを下がらせて、俺はソフィアに添い寝をした。俺が横に来たのを感じたのか、ソフィアはゆっくりと寝返りを打って俺の胸に顔を埋めた。
色白の頬はほんのりとピンクに染まり、白銀の髪がソフィアの頬にかかっていた。その髪をゆっくりと払いながら、俺は思ったんだ。
ソフィアを俺が守ってやりたかった…。
薄紫のマントの女…ゾーイなんかじゃなく、俺の手で。
だって、本当に大事な女性だから。
ソフィアは時々ものすごく子供っぽくなる。いつもの大人びた言葉もその時は少し甘えた様な口振りになり、キラキラとした表情になる。
小さい子供の頃から病と闘って来たソフィアは、家族にもあまり甘えられなかったはずだ。それをを思うと俺に甘えてくれるのは本当に心を開いてくれているからだろう。
ついこの間もそうだった。
パール国に襲撃された時のことを、キラキラとした眼をして俺に話したんだ。
ソフィアは自分達を護ってくれた薄紫のマントの女を "薄紫の守護神様" と呼んで、憧れていた。
「セオドラ様。
わたくしはあの薄紫の守護神様にもう一度お会いしたいのです!だって、とっても素敵だったのですもの。
薄紫のマントをこういう風にふわっと翻して、マスクの中の眼がきりっとして、かっこいいのです!」
ソフィアは自分のショールを肩に巻き、ふわっと翻してみせた。
「あぁっ!違うわ。
薄紫の守護神様はもっとこういうふうに…。」
ねぇ、アリスもお会いしたでしょう、と聞かれたアリスは顔をしかめた。
「ソフィア様。不謹慎でございましょう?」
そう言われたソフィアは俺の方をちろりと見た。
「そうだぞ。あの時は怪我をした者も大勢いたのだから、そんな真似遊びをしてふざけるのは良くないよ。」
俺に言われてしゅんとしたソフィアだったが、それでも頬を膨らませて小さな声で俺に言った。
「だって…わたくしもあんな風になりたいのにっ!」
そして、つつつ…と俺のそばに来たかと思うと、下唇を少し突き出して俺を軽く睨んでから、小さくベロを出した。
「わたくし、あんな風になって見せますからっ!」
ソフィアはそのまま俺の横をすり抜けて隣の部屋に入ってしまった。
困り顔のアリスに大丈夫さという様に頷き、人差し指を振ってアリスを下がらせた。
しばらくしてからドアをノックしてみたが、返事がない。慌てて中に入るとソフィアは窓辺に座り、青空に輝く赤い月と青い月を見つめていた。
俺はソフィアのそばまで行き、そっと頭を撫でたが、ソフィアは俺を見ようともせず、月を見つめ続けていた。
「もう少し…もう少しでいいから…この体が丈夫だったらな、と思う時があるのです。
そうしたら、あんな事も出来る、こんな事も出来る。
幸せを感じるやりたい事のノートにそれを書いて、いつの日にか叶えられるようにと少しづつ努力をしているのですが…。
この体はわたくしの思う様にはなりません。
わたくしは薄紫の守護神様のように魔力があるわけではありませんし、体力もない。あの時もわたくしはセオドラ様がご無事であります様にと祈る事しかできなかった。
そんな自分が残念だったのです。
だから、薄紫の守護神様みたいになってみたかった…。」
ソフィアは振り返って俺を見た。目が潤んでいた。
「ごめんなさい。先程は子供みたいな事をして。
軽率な行動でした。
わたくしはセオドラ王太子殿下の妻なのに…恥ずかしいです。」
しばらく俯いて涙ぐんでいたソフィアの頬の涙を、俺は手で拭った。
「分かったんなら、もういいさ。
さぁ、泣き止んで。」
それからソフィアはしばらくメソメソとしていたんだけど、涙を拭きながら俺を見たんだ。ソフィアの目の周りと鼻の頭が赤くなって可愛らしく、俺の胸がちょっとだけ、ドキンとなった。
「…セオドラ様。
わたくしは今、幸せを感じるやりたい事を2つも見つけました。聞いていただけますか?」
俺が頷くと、ソフィアは俺の手を握った。
「今日の1つ目。
わたくしが皆の役に立つ方法を探す、です。
わたくしはこんなわたくしでも出来る、皆が幸せを感じる、皆の役に立つ、何かを見つけたいと思います。たとえ薄紫の守護神様の様に力強い事は出来なくても、こんなわたくしにでも出来る小さな事ならあるはずです。
セオドラ様、わたくしと一緒に探していただけますか?」
俺は、眼を輝かせてそう言うソフィアが愛おしかった。
「そうだな…できる事がたくさんあるぞ。」
そう言った俺にソフィアは嬉しそうに、はいと答えて笑った。
「そして、今日の2つ目です。
1番最初にノートに書いた事を叶える、です。」
ソフィアは本棚から幸せを感じるやりたい事を書いたノートを取り出して俺に見せた。俺は窓辺のカウチに腰掛け、隣をぽんぽんとしてソフィアを座らせた。
2人並んでノートを捲って見ると最初のページには大きめの文字で 'クリームパフを自分で買いに行く' と書いてあった。そしてその下には普通の文字で、お菓子屋さんで売ってるらしい、と付け加えてあった。
…そうだった。
ソフィアは遠くまで歩いて行く許可が降りないために、クリームパフを買いに行くという事さえ、まだ叶えていなかった。
魔力を使って飛んで行こうかと俺が言うと、ソフィアはいつも泣きそうな顔をして首を横に振って言うのだった。
そんなのは嫌です!自分で歩いて行きたいのです!
「セオドラ様。
皆が幸せになる方法を探す第1歩は、クリームパフを自分で買いに行く、です。
自分の足で城の外に出て店が並ぶ賑やかな通りを歩き、自分でお金を払ってクリームパフを買います。セオドラ様の分とアリスやアランとビクター、ジェイク様、他の皆の分もたくさん買って皆で一緒に食べるのです。
皆で食べたら、皆もきっと小さな幸せを感じると思うのです。
あ…。
でも、お店を出たらすぐに、セオドラ様と2人で食べなくては…。だって、どんなにおいしいか、すぐにお味見が必要ですもの。
わたくし、やれる気がします!」
ソフィアはにっこりと笑って俺を見た。俺は思わずソフィアの頬にキスをした。
「あぁ、買いに行くぞ。2人で行こう。2人では持ちきれないくらい買うんだ。
まずは医者の許可が降りる様にしないとな。歩く距離を増やせるか、医者に聞いてみよう。
それに、もうすぐ月祭りもあるだろう?城の庭に屋台が出て街の商店街みたいに賑やかになるんだよ。ものすごい人混みだけど参加しような。」
ソフィアはそれを聞いて月祭りに行きたいと、とても嬉しそうに笑い、幸せを感じるやりたい事のノートにも書いていた。
でも、かわいそうな事をした。
月祭りに行ってもよいと医者から許可が降りたのにソフィアは行けなかった。
目覚めたらがっかりするだろう。
俺は胸に顔を埋めて眠るソフィアの頭を撫でた。
ソフィアが薄紫の守護神に憧れる気持ちはよくわかる。
皆が恐ろしくて震えている時に、薄紫のマントの女は皆を安全な場所に運び、護っていたと聞く。皆の目にかっこよく映った事だろう。
でもあの時、それがゾーイだったと俺は言えなかった。
そんな事をソフィアに言っても、がっかりさせるだけだろう。憧れは憧れのまま、ソフィアの胸に残してやりたい。
でも、俺は、まだ知らなかった。
俺の胸で眠るソフィアは、薄紫の守護神がゾーイだと知っていたなんて。そして、それを知ってもなお、憧れ続けるなんて。
目覚めた時、ソフィアは俺を見てにっこりとした。
「目が覚めた時にはセオドラ様がいらっしゃると言われた通りでした。セオドラ様、わたくしのそばにいてくださってありがとうございます。」
誰にそう言われたのか、なんて気にもしなかった。
俺の頭の中はソフィアが無事に目覚めた事でいっぱいだったから。




