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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜私達の罪のつぐない方〜
20/73

10

今回で最終話となります。


ブックマーク、ポイント、いいねをくださった皆様、ありがとうございます。

拙い作品を読んでいただき、心から感謝いたします。


 目が覚めると、アレックスが微笑んで私を見ていた。外はまだ薄暗くて、鳥の囀りが聞こえてくる。


「ゾーイ、目が覚めたね。おはよう。」


 いつもと変わらない優しい微笑みに心が落ち着く。私はアレックスの首に腕を回して、アレックスに抱きついた。

 

「ねぇ…もう少し、こうしていたいの。いい?」


 そう言う私をアレックスは抱きしめてくれた。


「アレックス、大好き。」


 アレックスの胸でそう囁く。 


「……知ってる。」


 アレックスがくすりと笑った。



 2人でゆらゆらとしていると、ゆっくりと部屋の中に陽が差し込んできた。アレックスは私の頬にキスして起き上がった。


「ゾーイはもう少し寝ていていいよ。コーヒーを淹れてくるから、待ってて。」

 

 アレックスはそう言ったけれど、隣の部屋から足音が聞こえてきた。


 トントントンとドアを叩く音がして、扉の隙間からゼノンが顔を見せた。


「父上、母上、おはようございます。

 僕、お腹減っちゃった!」

 

 私は布団を被って隠れた。


「ゼノン、母上がいないぞ。

 顔を洗って探しに行こう!」


 ゼノンは、うわぁ〜っと大声を出して洗面所に走って行った。


 ゾーイ、起きるしかない様だな、とアレックスが笑った。




 私が卵を焼いている間に、ゼノンが果物を棚から出す。


「ダウムおじいの作った林檎、美味しいよね!」

 

 ゼノンがそう言って危なっかしい手つきで林檎を切り分ける。アレックスは私のためにコーヒーを淹れてくれる。


 今日のパンは、私が昨日焼いた物。いつもの通り、少し硬かった。ゼノンが、母上のパンは…味はいいんだよね、って生意気な事を言ったので、3人で大笑いした。


 ちょっと硬いパンと、卵焼き、昨日の残りの野菜スープ。林檎とコーヒー。ゼノンはコーヒーの代わりにミルク。


 そんな朝食を3人で笑いながら食べた。

 穏やかな時間が流れていく。




 はっきりとは覚えていないのだけれど、私とアレックスは馬車に乗っていて事故に遭ったらしい。


 そのせいで2人揃って記憶の所々が抜けてしまって、思い出せない事が多い。それでも普通に暮らしているし、村の皆さんとも楽しくお付き合いできている。



 久しぶりに食堂のバーバラさんに会った時は、思いっきり抱きつかれ大泣きされてしまった。


「よかった、よかったよぉ!

 話をゼノンちゃんのおじいさんっていう人から聞いてさ、皆、腰が抜けるほど驚いてさ!村の皆で神様にお祈りしてさぁ、男達は酒断ちなんかしちゃってさぁ…。

 皆でアレックスとゾーイさんが無事に帰ってきます様にって祈ってたんだよぉ〜!

 あぁ、よかった!元気な顔を見れて、良かったよお!

 記憶が抜けてるなんて、わかんないよぉ!」


 ゼノンちゃんのおじいさん、って誰だろうと思ったけど、考えても分からなかった。きっと抜け落ちてしまった記憶の中にはあるのだろうけど…。そのうち思い出すね、ってアレックスと笑った。


 アレックスがゼノンに、今日は友達が来るんだろう、と聞いている。ゼノンの友達は時折この家にやってきては、私達のことをなぜか父上、母上と呼んで楽しげに過ごしていく。


「うん、皆でダウムおじいのお手伝いをするんだ!」 


 ゼノンの友達はこの村の人達とも顔馴染みになっている。畑のお手伝いや、お祭りのお手伝いもしてくれるし、木を切ったり、屋根の修繕もとても上手でびっくりする。


「上手ね。みんな、えらいわ。」


 そう褒めると皆、父上、母上と私達に抱きついて喜んで、とても可愛い。


 この子達はどこから来るのだろう。

 アレックスとちょっと不思議に思った事もあったけど…。なんだか楽しいから、そのままになっている。


 きっと、私とアレックスが知らないだけで、この世の中には不思議で楽しい事がいっぱいあるんだろう。



 皆でダウムおじいさまの家に向かう途中、バーバラさんが私達に手を振った。


「今日もいい天気だね!

 ゼノンちゃんのお友達、こんにちは。

 ゾーイさん、後でウチに寄っておくれよ。鶏の丸焼きをたくさんこさえる予定なのさ。一羽持って帰って皆で食べておくれ!芋と野菜の焼いたのもつくるから、今日の晩ご飯は作らなくても大丈夫だよ!」


 わーいと、ゼノン達が喜んで走り回っている。


 道の向こうからは、アレックスの友達がやってきた。


「よう、アレックス。今晩一緒に飲もうぜ。」


 アレックスは、おう!行くよ、と片手を上げ、私の肩を抱いて歩き出した。


 眼線を上げると、そこには雲ひとつない青空が広がっていた。そして、いつもの通り赤い月と青い月が輝いていた。

 

 大好きなアレックスがいつもそばにいてくれて、ゼノンがいて。私は本当に幸せだ。

 

 私はこの幸せな時間がいつまでも、いつまでも、続きますように、と心の中で祈りながら歩いた。





   ******





 父上、母上。


 僕ね、父上と母上の所から自分の場所に戻った時に、僕の所の偉い人に頼んだの。父上と母上の所に戻りたいって。


 そしたら、いいよって言ってくれたんだよ。


 でも、僕がかくれんぼで母上の中に隠れたのは、やっちゃいけない事だった、って言われたの。


 いろんな人の暮らしが、そのせいで変わっちゃったでしょう?僕達はそんな事しちゃいけなかったんだよって。


 僕のせいで皆が悲しい思いをしたんだってシュンとしていたら偉い人が僕に言ったの。


「お前は父上と母上のそばにいてあげなさい。そして、2人の辛い事が少しでも減って、幸せに過ごせる様にしてあげなさい。それが今のお前にできる罪のつぐないだからね。」


 どういう意味なのか、僕にはよく分からなかった。そしたら、罪のつぐないって、ごめんなさいの事だよって教えてくれた。


「お前は父上と母上のそばにいて、最後まで幸せにしてあげなさい。


 人のいる所は私達とは時間の流れが違うから、人の人生は短い。あっという間なんだ。だから、毎日を、1つ1つの事を、大事にして過ごしなさい。


 お前はここではできない様々な事を経験するだろう。楽しい事だけではなく辛い事も多いが、それが人の世界なんだよ。

 

 そして、お前が父上、母上と本当のさようならをしたら、ここに戻っておいで。」


 

 

 僕ね、偉い人に聞いたんだ。


 もし、僕がかくれんぼしてなかったら父上と母上はどうなってたの、って。


「母上は王太子と結婚していたよ。それが、お前の母上の決められた人生だったからね。


 どんなにこうしたい、と思ってもどうにもならない事が人の世にはあるんだ。お前の父上と母上はその事をよくわかっていた。


 お前がかくれんぼしてなかったら、父上と母上は別々の人生を送っていたよ。 


 でも、お前は母上のお腹の中から光を放っただろう?

 あの光はお前達が持っている特別なもので、光を浴びた人はお前達のこうしたい、と思うようになるんだよ。


 だから、お前の父上と母上はお前と共に在る事を選んだ。

 

 それからもお前の光は2人に注がれたから、2人は罪の意識を感じずに、平和に暮らせていたのだろうよ。


 そして、お前がここに戻ってきた後は、お前の光を受けなくなって…。

 

 お前はまだ、お前の持つ光の意味が分からなかったし、わざと使ったわけではない。


 だから、2人の人生が狂い、皆が悲しい思いをしたのは私のせいでもある。

 お前達が人の世でかくれんぼしてるなんて知らなかった。

 お前達に持っている力の意味をきちんと教えなかった。

 私の責任なんだ。

 これからする事は私のごめんなさいでもある。私は、私に出来る事をしなければならないんだ。


 でも、過ぎた事は私にも戻せない。これからの皆が幸せに過ごせる様に考えるしかないんだよ。」



 偉い人のお話は難しくてわからない事が多かった…。

 でも、もう少し大きくなったらわかるよ、って偉い人が僕に言ったの。 



 僕はね、皆にもごめんなさいをいっぱいしたかった。

 

 父上と母上も、誰かにごめんなさいをしたかったのでしょう?


 だから父上と母上のごめんなさいが終わったら、皆が楽しくいられる様に偉い人がしてくれたんだよ。僕だけではまだ出来ないから…。


 僕の所の偉い人は人の世界に降りてきて色々な事をしてくれたから、僕はちゃんと、ありがとうございました、って言ったんだ。そしたら、偉い人は父上みたいに頭をポンポンとしてくれた。


「お前の友は、お前に父上と母上が出来た事を羨ましがっているのだね?お前の所に行くのは構わないと皆に伝えておこう。お前が皆に人の世を見せてあげなさい。人の世を知る事はお前達の勉強になるからね。


 お前の事はちゃんと見ているよ。」


 そう言って偉い人は僕の前から消えていったの。



 ねぇ、父上、母上。

 僕と偉い人のごめんなさいは、父上と母上を幸せにしてるのかな?


 ねぇ、父上、母上。

 今、幸せ?





   ******




 あれから何年か経った。

 俺、ゼノンは父上と母上の最期を看取った。


 父上が先に逝った。父上は突然倒れ、2日後に亡くなった。母上は後を追う様に病で亡くなった。


 俺の友も降りて来て、皆で弔った。

 俺達の場所では、亡くなる、ということがないので、皆で狼狽え、嘆き悲しんだ。




 俺の主は、俺にお聞きになった。


「お前はこれからどうする?」


「私は…

 このままここで2人の魂を弔い、私のせいで人生が狂ってしまった人達を見届けます。

 私の光で皆が喜びを感じる様に、苦しみや悲しみが少しでも和らぐ様にいたします。

 それが人の世で大きくなった今の私が考える、私の罪のつぐない方です。


 そしてもし、許されるなら私の人としての命が尽きた時に、主の元に戻りたいと思います。

 お許しいただけますか?」


 主は微かに微笑んでおられた。


「よかろう。励めよ。」


 


 大人になった俺は父上と母上を想うと胸の痛みを感じた。


 俺のせいで人生を狂わせた2人。俺が2人と共にいたいと思ったせいで…。


 瀕死の父上と母上を俺の主が俺の元に連れ帰ってくださったのだが、回復した2人には過去の記憶があまりなかった。父上は騎士として華々しく活躍していた記憶がなく、母上は伯爵令嬢としての華やかな記憶が全くなかった。父上も母上も魔力を持っておらず、ただ父上と母上としての記憶があるだけだった。きっと主がそのようになさったのだろう。


 それでも、父上と母上は楽しんでいた。新しい記憶の積み重ねを二人は楽しんでいて、いつもいつも仲良く、周りの皆を愛していた。


 主は俺が二人と共に過ごす為の時間を作ってくださったのだと思う。まだ内面が子供だった俺のために。

 そして、父上、母上、俺のせいで辛い思いをした全ての人の生き方を見せて下さったのだ。いつの日にか主の元に帰った時に、俺が人々の役に立てるように。




 何年も経って俺が主人の元に戻った時、主は俺に仰った。


「お前の光で人の世を明るく照らせ。

 人の喜び、怒り、悲しみ、楽しみをよく知るお前にしかできない事だろう?」


 俺は主の前で畏まり、感謝した。


 

 父上、母上。

 こんな俺でも、人の世の役に立てる者になれそうです。


 俺の眼には、微笑む2人が見えた。

今回で第2章、完結です。 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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