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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜私達の罪のつぐない方〜
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本日、2回目の投稿です。

 私は姿を消し、ソフィア様の部屋でソフィア様が1人になる時をじっと待った。


 夕暮れ前、側仕えの者たちが部屋からいなくなったのを見て、私はゆっくりとソフィア様の前に姿を現した。薄紫のマントとマスクを纏い片膝をついて礼をした私を見て、ソフィア様は、まぁ!と両手を口元に当て、驚いた声を出した。


「また、来てくださったのですね。ありがとうございます。お会いしたかったの…。」


 にっこりと笑うソフィア様に詳しい説明をしている時間はない。


「申し訳ありませんが時間がありません。

 ソフィア様、私を信じて、一緒に来てください。」


 ソフィア様を連れて飛んだ先は、城の書物庫の中の隠し部屋。アレックスと2人で見つけた秘密の部屋だった。ここなら、クリムドールにも誰にも見つからない。


 この部屋はアレックスと2人で何時間も過ごした懐かしい部屋。アレックスが置いたソファがそのままある。


 ソフィア様をそこに座らせて、私は少し微笑んだ。


「ソフィア様、明日の朝までここで眠っていてくださいね。その間に全てを終わらせますから。」


「貴女はだれですか?一体、何が起きているのでしょう?」


 ソフィア様はキラキラとした眼で私を見た。

 この眼に嘘はつけない…。

 純粋な、清らかな、優しい眼差し…。


 私はマスクを外して、ソフィア様を見つめた。


「ゾーイです。セオドラ様を裏切った…。

 時間がありません。ここでお待ちくださいね。心配はありません。目覚めた時にはセオドラ様がそばにいらっしゃいますから。」


 ソフィア様は何かを言いかけていたが、私の魔力でゆっくりとソファに倒れ、眠りについた。


 隠し部屋の小さな灯りをつけ、私のマントをソフィア様にかけて、私はソフィア様の部屋に戻った。




 ソフィア様の姿になった私がぎこちなくソフィア様の部屋にいると、側仕えの者たちがドレスを着替えさせてくれた。

 

 そして、もうすぐ殿下がいらっしゃいますから、もう少しだけお待ちくださいませと言った。


 そう言えば、昔、私もこの部屋を使っていたと思い出して部屋の中を見回した。部屋の中には花がたくさんあり、かわいい小物も置いてあった。


 きっと、セオドラ様からの贈り物なんだろうな。お幸せそうで、本当に良かった。


 そして、出窓を見て思い出した。見えない隅の方にいたずら書きをしたはず。近寄って見ると、色褪せてはいたけれどそれはまだあった。


 アレックス

 会いたい


 誰にも言えなかった想いを書いて紛らわせていたあの頃。アレックスの事が大好きだった。


 そして、今も。

 会いたい、アレックスに。大好きなアレックスに。

 

 アレックスを想うと涙が出てしまう。



 そっと涙を拭いて椅子に座り直していると、親衛隊の王太子の制服に身を包んだセオドラ様がやってきた。


「ソフィア、待たせたね。」


 そう言ってセオドラ様は、私を、いいえソフィア様を抱きしめて口付けをした。


 少しだけ、ほんの少しだけ、あの頃を思い出して、胸が痛くなった。


「ソフィア、準備は出来てるね。すごくきれいだよ。

 さぁ、行こうか。今夜は楽しく過ごそう。」


 私はセオドラ様の腕に自分の手を添えて、微笑む。


「はい、セオドラ様。今夜はご一緒できて本当に嬉しいです。とても楽しみにしていました。」


 そして、2人並んで庭へと歩き出した。



 月祭りの夜、城の庭の一部は国民達に開放される。あちこちに准騎士団の帽子につけた赤く目立つ羽が見え、混乱を防ぐ為に目を光らせている様子がわかる。


 一段高く作られた櫓の上にセオドラ様と2人で並んで立つと、皆の大歓声が響き渡った。ラッパの音が響き、セオドラ様が月祭りの始まりを告げた。


 さらに歓声は大きくなり、皆がこちらに向けて手を振っている。櫓から降りてその歓声の中をゆっくりと歩く。私たちの周りには親衛隊の隊員が制服、私服、様々な格好で護衛をしているのが分かる。


 パール国の刺客団との戦いの跡は綺麗になっていて、皆はそんな事はなかったかの様に顔を綻ばせている。皆、祭りを楽しんでいるようだ。


 ずらっと出店が並んで賑やかになっている所をセオドラ様と2人で護衛に守られながら歩き、皆に微笑みかける。


 誰からか小さな花束を差し出されて、まぁ、ありがとう、とにっこりして受け取る。


 ソフィアさまぁ…と走り寄る子供達の頭をポンポンとして、いい子ねと微笑む。


 赤子を連れた夫婦から、この子に祝福を、と言われて頭を撫で、丈夫に育ちます様に、神の祝福があります様に、と祈る。


 クリムドールはどこ?

 人が多すぎる…

 


 1つ目の花火が上がった。


 真っ赤な光の花が開き、やがて黄色、青と色を変えて消えて行った。


 セオドラ様が私の腰に手を当てて抱き寄せ、頬にキスをした。この時確か、ソフィア様はこう言ったはず。


「セオドラ様。皆が見ていて少し恥かしいです。」

 

 セオドラ様はにっこりと笑って、大丈夫さ、俺の妻なんだからキスぐらいしたっていいだろうと言って、私の肩を抱き寄せた。

 

 そのまま、歩き続ける。

 

 誰か、お願い!

 あいつが針を刺す所を、ちゃんと捉えて!


 しばらくして、2つ目の花火が上がった。


 キラキラキラキラと輝き、赤や青、緑と様々な色へと変わる花火に皆、歓声を上げている。


 花火を見上げてソフィア様になりきり、私は小さな歓声を上げた。


「まぁ!こんなに綺麗な花火は、私初めて見ました。セオドラ様と一緒に見ることが出来て嬉しいです!」


「ここの所、俺は忙しかったからね。一緒にここに来れてよかった。」


 周りにはますます大勢の人が集まってくる。



 こんなに大勢の人が…。

 クリムドールはどこ?

 お兄様、必ず捕まえて!

 証拠を!

 お願い!


 セオドラ様が私の手を引いて移動する。


 ここの方がよく見えるからね。あ、次の花火が上がるよ!

 

 セオドラ様のその声をかき消すように、3つ目の花火が音を上げながら上がっていく。


 皆が空を見上げ、視線が花火に集まっている。


 大きな音を立てて花火が開いたその時、私の背中にちくりと何かが…。


「今、何をした?クリムドール殿!

 この手はなんだ!ソフィア様に何をした!」


 ジェイク パーカー殿がクリムドールの手を掴んでいる。その手にはしっかりと針が握られていた。


「私も見ましたよ。ソフィア様の背中に何か刺しましたよね。言い逃れできませんよ。」


 ローリー準騎士団長も現れて、クリムドールを取り押さえた。


 私は意識が薄くなり始め、自分の姿にゆっくりと戻っていった。


 セオドラ殿下が叫んでいる。


「ソフィア!おい、ソフィア!どうした?何があった?

 ゾーイ?なぜ、お前がここにいる!」


「城の書物庫、3つめ目の棚の後ろ、隠し部屋にソフィア様が。…全ては兄、ルークが承知しています。」


 ああ、もう、毒が体をめぐっているわ。思ったより強い毒だったのね。

 もう、時間がない…。


「セオドラ様、この命を私の罪のつぐないに…。」


 私の意識が少しづつ、遠のいていく。

 こんな時なのに…!

 こんな時だから…?

 私はセオドラ様の未来を見た。

 

「殿下、今、未来のあなたが見えました。

 ソフィア様と2人のお子様、男の子と女の子。お幸せなご様子。よかった。本当に良かった。」


 セオドラ様のそばに、しっかりとお兄様が付き従っている姿も見えた。きっと、ロッシュ宰相の後継として抜擢されるのだろう。


 ルベール伯爵家にもこれでつぐないが出来たのだろうか?

 

 

 朦朧とした意識の私の前に、突然、眩いばかりの光が現れた。

 その光は私をゆっくりと包み始め、何処からともなく声が聞こえてきた。


 母上。こっちだよ。父上も待ってるの。


 光の中からゼノンが現れた。

 私の体の周りに光が溢れていく。

 私はゼノンに向けて手を伸ばした。


 待って、今、行くから。

 

 ゆっくりと私の意識はなくなった。

この後、もう1話、最終話を投稿いたします。

ゾーイとアレックスのお話にもう少しだけ、お付き合いください。

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