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王太子の結婚 〜飲んだくれの俺が幸せを見つけるまで〜  作者: 雪女のため息
〜私達の罪のつぐない方〜
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7

本日、2話目の投稿です。よろしくお願いいたします。

 帰ってきたアレックスの表情は硬かった。


「パール国と手を組んだ奴がいた。クリムドール伯爵だよ。

アイツは王家を倒し、自分がこの国の王になろうとしてるけど、上手くいかないんで痺れを切らした。

 

 セオドラ殿下を殺害してウィリアム殿下を王太子にし、自分の娘と結婚させ、主導権を握るつもりだ。


 全てを書いてあるパール国との契約書が執務室にあるんだよ。この目で見たから間違いない。


 パールの刺客団は数も多いし、魔力もかなり強い。ジェイク パーカー殿が率いる親衛隊は優秀だけど相手にならんだろう。

 

 具体的な襲撃の場所や時間、方法が分かれば俺が戦えるんだが…。」


 苦虫を噛み潰したような顔…そんな顔をするアレックスを初めて見た。


 その顔を見て、私は悩んだ。

 私のあの力を使うべきなのか…。

 この国が危ないなら、お父様の言っていた、いざという時は今なんだろうけど…。

 でも…。だけど…!

 

 私は心を決めるとアレックスにキスする振りをして、耳元で囁いた。


「シールドを張って。二重に。

 大事な話しがあるの。誰にも聞かれたくない。」





 二重に張られたシールドの下で、私は子供の頃に封印した秘密を初めて人に話した。


「小さな頃、私は何度か予言をしていたの。

 子供の予言だから、お兄様が転ぶ、庭に蛇が出る…たわいもない事ばかりだったけど、日時、場所はちゃんと言い当てた。


 その様子を見たお父様がこう言ったの。


『この力を持つ者は大昔からこの伯爵家に何度か現れているんだよ。皆を災害から守るための力なんだ。大雨や洪水が起こる前にわかったら、皆を守れるだろう?

 悪い事が起きても困る人を少なくする事ができる。そのおかげで、我が領地は栄えてきたんだよ。

 でも子供のゾーイがこの力を持っているって皆に知られると、悪い事に使われてしまうかもしれない。だから、秘密にしておくんだ。いざ、と言う時まで隠すんだ。

 いいね。誰にも知られてはいけないよ。』


 そう言ってお父様は私の未来を見る力を封印したの。」


 アレックスは私を驚いた顔で見つめていた。


「未来予知…?」


 そう、私の封印されている魔力は、正しく使えば繁栄をもたらし、間違えれば滅びをもたらす、未来予知。


「ゾーイ、未来を見ようと言うのか?」


 私は頷いた。

 

「封印の鍵は、お父様がくださったペンダントなの。

 そして、お父様とお兄様はいざという時には未来予知の力を使え、という意味でペンダントを渡してくださった。」


 私はアレックスの両手を握った。


「アレックス、私の力を使いましょう。今が、いざという時、でしょう?セオドラ様が襲撃される日時、場所を私が "見る" から。」


 私の頭の中には、アレックスの願いを叶える、セオドラ様を助ける、と言う事以外はなかった。


 未来を変えたその先は…?

 そんな事を考えもしなかった。



 私はペンダントを握りしめて、封印を解く言葉を唱えた。


 すると、何かが頭の中に一気に集まって、ピンッと閃光と共に弾けた。頭がクラクラとしていたけど、倒れずにしっかりと立っていられた。


 そして、いろいろなものが頭の中に見えた。

 その中にセオドラ様の未来があった。



 


 その日、アレックスは1人で行くと言ったけど、私はついて行った。私の未来予知が当たっているか、この目で見たかったから。


 私の見た通りにセオドラ王太子殿下は刺客達に襲われた。


 ジェイク パーカー親衛隊長が率いる騎士団は刺客達に出し抜かれ、その一瞬の隙をついてセオドラ殿下に向けて多数の火球が一斉に放たれた。

 

 その瞬間、銀鼠色のマントと仮面を付けたアレックスがセオドラ殿下の前に現れ、アレックスが火球を刺客に跳ね返した。


 自分の放った火球をまともに受けた刺客達はアレックスの魔力で拘束されて転がった。


「ちょっと待て!お前達は何者だ!」


 懐かしいセオドラ殿下の声を背後に聞きながら、私達は姿を消した。




 私は久しぶりに顔を見たセオドラ殿下を懐かしく思ったけど、姿絵を見た時のような震えも起きなかったし、心が不安定になる事もなかった。


 それでもアレックスは心配して、大丈夫かい、と私をそっと抱きしめてくれた。


「アレックス、大好き。」


 2人で城を探検していた頃の様に、私はアレックスの胸でそう囁いた。


「……知ってる。」


 アレックスがくすりと笑った。


 その笑顔を見ていた私は、突然クラクラと目眩を感じた。

 そして、新しい未来を見た。


 それは…


 城を襲撃するおびただしい数のパールの刺客団。次々と倒されていく親衛隊、自衛軍の姿。


 パールの刺客団長の魔剣で血にまみれていく王族達の姿。


 国王陛下を背中にかばいながら、胸を魔剣で刺し貫かれて最後を迎えるセオドラ王太子殿下の姿。


 クリムドール伯爵が血走った眼でセオドラ殿下を見下ろし、足蹴にしている姿。

 

 アレックスが驚くほどの大声で、私は叫んだ。

 

「どうしよう!

 皆、パールの刺客に襲われて殺されてしまう。この前見た未来と違う、新しい未来が見えるの!」


「いつだ?いつ起こるんだ?」


「あと、数分で始まる。」



 私は、未来予知の使い方を間違ったのだろうか?

 この国を滅びへと導いてしまったのだろうか?

 セオドラ殿下を助けなければ、こんな酷い "今" は来ていなかったのだろうか?


 唇を噛み締める私にアレックスは一言だけ言った。


「行くぞ!」



 アレックスに躊躇いはなかった。

 何かに取り憑かれた様に進んでいく。

 もう元には戻れない。


 銀鼠色のマントを翻したアレックスは戦い続けた。

 なぜアレックスは戦っていたのだろう…。

 正義の味方だから?

 この国を守るため?

 アレックスはただひたすら敵を倒していった。




 城の中は煙と埃が立ち込めていた。どこからか血の匂いも漂ってくる。


「皆を安全な場所に!お前が皆を守れ!」


 ずっとアレックスの側にいた私にアレックスはそう言った。お前にはお前にしか出来ない事があるだろう、そう言われた気がした。

 

 私は逃げ惑う人を見つけては安全な場所へと飛んだ。城の中の事はよく知っているもの。

  

 懐かしいあの顔、この顔。皆、恐怖で顔を強張らせている。ある者は涙を浮かべ、ある者はお互いの手を取り合い…。


 そんな中、王太子妃のソフィア様が震えながら神に祈りを捧げる声が聞こえた。


「どうか、セオドラ様をお護りくださいませ。

 この命に代えても。どうか…。」


 ソフィア様は体が弱いと聞いている。顔色も悪く、呼吸が乱れているソフィア様は最後の力を振り絞って祈りを捧げているのだろう。


 私は思わずソフィア様に近づき。その手を強く握って言った。


「大丈夫です。セオドラ殿下には神のご加護があります。ソフィア妃殿下はセオドラ様を信じてお待ちください。」


 ソフィア様は私を見て弱々しく頷いた。




 アレックスの働きは目覚ましかったらしく、私の見た未来とは違い少しづつ自衛軍と親衛隊が反撃に出ている様子が窺えた。


 皆を助けに来た自衛軍に後を任せてアレックスの元に行こうとすると、私の薄紫のマントを握るソフィア様と目が合った。


「私達を護ってくださって、ありがとうございました。

 また、お会いできるでしょうか?」


「時間がありません。後は自衛軍と一緒に逃げてください。

 ソフィア様に神のご加護があります様に…。」


 私はソフィア様を振り切って、心の中で念じる。

 …アレックスの元へ!





 私が飛んだのは国王陛下の執務室だった。


 部屋の隅に国王陛下とロッシュ宰相殿が血にまみれて倒れているけれど、意識はある様にみえた。そしてその側に、床に突き飛ばされた様に転がるセオドラ王太子殿下がいた。


 そしてアレックスと刺客団長がピタリとくっついて立っていた。


 刺客団長の魔剣はアレックスの腹を刺していて、アレックスの剣は背中から敵を刺し貫いていた。アレックスは敵を抱きしめる様に剣で強く自分に引き寄せ、敵の動きを止めていた。


 刺客団長にかけたアレックスの魔力はどんどん薄くなってきているのが分かる。


 アレックスはセオドラ殿下に言った。


「私の力はもうすぐ尽きます。これ以上は持ちません。

 今、この手を離せば、コイツは殿下を襲うでしょう。

 時間がありません。

 殿下の聖剣で、コイツの心臓を刺し貫いてください。」


 刺客団長はアレックスの手から逃れようとあばれている。


 セオドラ殿下は眼を泳がせるようにして、銀鼠のマントの男と刺客を見た。


「そんな事をしたらお前はどうなる!

 お前ごと刺せというのか!

 私を2度も助けてくれた正義の者を私に刺せと言うのか?」

 

 セオドラ殿下のその言葉を聞いたアレックスは微かに笑った。


「甘い!

 甘いですな、セオドラ殿下!

 その年になっても優しすぎる。甘い男だ。

 笑える。腹を刺されて痛いんだから、笑わせるな!


 セオドラ殿下。

 貴方はこの私の顔を見ても、今と同じ事を言いますか?」


 はらりとマスクが外れ、アレックスはニヤリと笑った。


「そんな腰抜けだから…

 俺にゾーイを取られたんだろうがっ!

 俺達を見つけたのに、何も出来なかったヘタレ野郎!」


 セオドラ殿下の顔が歪んだ。


「ああ、何度でも言ってやる!

 セオドラ!お前は腰抜け、ヘタレだ!

 こ、し、ぬ、け、へ、た、れ!」


 刺客団長はますます暴れ出した。敵を押さえ込むアレックスの力が少しずつ緩み始めているのがわかる。

 アレックスの口からは、血が溢れ出た。


 アレックスは私のマスクも外した。

 

「ふん、やれないのかよ。セオドラ!」


 セオドラ殿下が私を見て、アレックスを睨みつけた。


「やれるなら、やってみせろ!

 俺を刺してゾーイに見せてやれ!

 お前を捨てたゾーイに見せつけてやれ!


 刺せ!刺せ!腰抜けセオドラ!

 トドメをさせ!ヘタレ野郎!

 お前の聖剣で…俺ごと!


 この!ヘタレ男!」


 刺せ!と叫ぶアレックスの声

 アレックスの名を呼ぶ私の声

 そしてセオドラ殿下の叫び声

 

 その3つが同時に執務室に響き渡った。


 セオドラ殿下の聖剣が2人を刺し貫き、敵の刺客団長が息絶えたのが分かった。


 アレックスは崩れる様に倒れながらも、敵を突き飛ばした。そして、ゆっくりと片足を床につけ、自分の服を引きちぎった。


「殿下、お見事でした。

 この国と城を、殿下が守り抜かれました。


 なんでお前如きが!とお思いでしょうが…

 私は今でも、この国の騎士です。」


 アレックスの左胸には王家から賜った騎士の紋章が浮かび上がっていた。王家に忠誠を尽くす者の印。


「殿下…。

 私がゾーイを幻惑して連れ去りました。

 全ての罪は私に…。

 どうか、お願いです。

 私の死を以て、罪のつぐないに。

 ゾーイには…お慈悲を…。」


 左胸に右手を置くと、アレックスは言った。


「セオドラ殿下に…神のご加護が…在らんことを!」


 這いつくばる様に近寄る私を見て、アレックスの唇が小さく動いた。


 あいしてる



 私が最後に聞いたのは、飛べゾーイ!と言うアレックスの声。

 そして、最後に見たのは、キラキラとした光に包まれながら倒れていくアレックスの姿。



 眩いほどの光の中からゼノンの声が聞こえた気がした。



 アレックスの最後の力で飛ばされた私は、どこだかわからない場所にある修道院の門の前に倒れていた。

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