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本日2話目の投稿です。
よろしくお願いいたします。
平穏な時間が流れ、私達は慎ましい暮らしを続けていた。
なんの贅沢もない、だけど私のそばにはアレックスがいて、ゼノンが育っていく。
このまま幸せに過ごしていたいと願ってしまう。
ささやかな幸せが続く事を願ってしまう。
それは許されない事だとわかっているのに、どうしても願わずにはいられなかった。
このまま静かに…。どうか、神様。
でも、私達に平穏な日々が続く事はなかった。
セオドラ王太子殿下がソフィア様と結婚されて、しばらく経ったある朝の事だった。
それは、いつもと変わらない、穏やかな朝だった。
本当に何も変わらない、普通の朝。
窓の外には赤い月と青い月が輝いて、鳥達が庭で虫を啄んでいた。
私が焼いたパンはちょっと堅かった。
村のおじいさまにもらった野菜で作ったスープは美味しくできた。
アレックスが淹れてくれたコーヒーが美味しいと私が言ったら、ゼノンが僕も飲むと言って…一口飲んで変な顔をした。
そんな私達の前に、突然、眩いばかりの光が現れた。
その光はゼノンをゆっくりと包み始め、何処からともなく声が聞こえてきた。
「み〜つけた!
隠れるの上手だね。
さあ、帰ろう。皆が待ってるよ。」
「………見つかっちゃった……の?」
ゼノンは不思議そうに光を見てから、私とアレックスを見た。
「父上、母上…なあに?どうしたの?」
「ゼノン!!」
大きな声でアレックスが叫び、ゼノンの身体を光から隠そうとしたが、ゼノンはどんどんと光に包まれていった。
「ここでは、ゼノンって呼ばれてるの?
お父さんとお母さんがいるの?いいなぁ。
きっと皆、うらやましがるよ。
お父さんとお母さんの話、たくさん聞かせてね。
ゼノンが最後で、後の皆は見つけたよ。
みんなが待ってる。
おいで…早く帰ろう、ゼノン。」
「ゼノン!ゼノン!」
私の声も聞こえないのか、ゼノンはゆっくり前に歩き出した。1歩2歩…。キラキラと光が飛び散っていく。
ゼノンの身体は少しづつ透けていった。
そして、ゼノンはゆっくりと私達を振り返った。
「今…全部思い出した。
父上、母上、ごめんなさい。
僕、皆とかくれんぼしてたの。
母上の中に隠れてたら暖かくて、うとうとしちゃって。
そしたら、俺にも家族ができたんだって言う父上の声が聞こえて…。
僕、お父さんとお母さんが欲しかったから。
だから…。
ごめんなさい。
僕が生まれて来ちゃって…
父上と母上に、
皆に、
迷惑かけちゃった…
全部、僕のせい…。」
消えそうになりながら、ゼノンが泣き顔で言った。
「父上、母上。…僕は…」
ゼノンは私とアレックスに手に伸ばし、消えた。
ゼノンが消えた後には、キラキラとした光が舞っていた。
私は大きな声でゼノンの名を呼んだ。何度も何度も叫び続けた。アレックスもゼノンの名を呼んでいた。
そして、私は目の前が暗くなり、何もわからなくなった。
目が覚めた時、私はベッドにいた。
「ゾーイ、目が覚めたね。何か飲むかい?」
うん、と頷くと、アレックスは指をパチンと鳴らして熱いココアを出してくれた。
ココアを飲んで、身体がほっこりとした。
でもなぜか、私の眼から涙が出て止まらない。アレックスがそばにいるのに。
「ねえ、アレックス。私、泣いてる。どうしたのかしら。」
「どうしたんだろうな。もう少し寝るといい。」
アレックスが私の身体を優しくポンポンとして、魔力を私の体に入れているのがわかった。私は瞼が重くなって、また眠りについた。
私が次に目覚めたのは、それから1週間近く経った頃だった。
目覚めた私はまだぼうっとしていた。
そんな私にアレックスは食事を出してくれた。食べないと何もできないよ、って。トロトロに煮込んだスープと柔らかなパン。アレックスの手作りの味だった。
身体の奥からじんわりと暖まって、涙が出た。
食事が終わった私をアレックスはお風呂に入れてくれた。いつもなら恥ずかしいと思うのに、素直に2人で暖かい湯に浸かった。
大きなアレックスの胸に顔をくっつけると、また涙が出た。
私はお気に入りの服を着て居間の椅子に座った。アレックスが美味しいコーヒーを淹れてくれた。
「まだ、ぼんやりしてるかな?
それとも、全部、思い出したかい?」
アレックスは私の頬をそっと撫でてキスをした。
「ゼノンは?どこ?」
「今は……ここには…いないよ。」
「帰ってくるの?」
「……帰ってくるって信じてる。」
涙が溢れて止まらなくなった。
「ねぇ、ゼノンは…私達の息子だよね。」
「当たり前だろう?」
私はポロポロと涙を流しながらコーヒーを飲んだ。アレックスは何も言わず、私の背中を摩り続けた。
日常が少しずつ戻っていく。
村の人たちには、ゼノンが私のお父様の所で勉強することになった、とアレックスが話してくれていた。
「寂しくなったら、ウチにご飯を食べにおいで!」
バーバラさんがそう言ってくれたけれど、胸が張り裂けそうだった。でも、私は笑った。ぎこちなかったと思うけど、微笑むことは出来た…と思った。
私の心にはぽっかりと穴が開いた。なかなか小さくならない穴。
私は心に空いた穴の痛みを感じながら、答えの出せない事を繰り返して考えてばかりいた。
「…ねえ、アレックス。
ゼノンがいなくても、アレックスは私と逃げてくれた?」
アレックスは私の頬を両手で挟んで私を見た。
「こうしていたら…。
こうなっていたら…。
そんな事は考えても仕方がないんだ。過去は変えられないんだから。
でも、変えられない過去の積み重ねで俺とゾーイは今ここにこうしている。
俺はゾーイを愛している。ゾーイは俺のとても大事な人で、ゾーイといる俺はとても幸せだ。
ゼノンがいてもいなくても、それは変わらない。」
アレックスは少しほほえんだ。
だけど、何日経っても私の心に空いた穴は小さくならず、どんどんと大きくなっていった。
悲しくて、辛い。
ゼノンはなぜ私を選んだのだろう。
なぜ、私だったのだろう。
心が痛い。
なぜ、すぐ帰ってこないのだろう。
ゼノンは元気にしてるのか、
寒くはないか、
ちゃんと食べているのか、
眠れているのか…。
心配で、不安だ。
この気持ちはどうにもできない。
ゼノンに帰ってきて欲しい。
父上、母上、と笑って欲しい。
そして、気がついた。
私が消えた時、セオドラ様も、お父様達も、きっとこんな風に…。
その事に今まで気が付かなかった自分が恥ずかしくなって、嫌になった。
その内、なんだか、何もかもが嫌になって、ふらふらと家を出た。何処にも行く所はないけれど、歩いていた。
村から出て、一つしかない道をまっすぐに歩いて、途中の森に入った。
森の中を歩いた。何処だかわからないけど歩き続けた。
足に何かが絡みついて痛かったけど、そのままにして歩いた。
悲しくって、つらくって、嫌になって…。
木の根っこに座って泣いた。泣いても泣いても涙が出た。
アレックスごめんなさい。
私、もう、なんだか…。
ごめんなさい。
私が泣き続けていると、ふわっとアレックスの香りがして、隣にアレックスが座っていた。
「俺を置いて何処かに行こうとしてるの?
俺、言っただろう?
決してゾーイを離さない。いつまでも一緒にいるって。
辛いことは自分だけで背負わないで。
俺と分け合おうよ。
一緒に泣こうよ。
…こんな俺じゃ、ダメかい?
頼りにならないかい?」
私はアレックスに抱きついて泣いた。たくさん泣いた。
涙が出なくなって、声が枯れたけど、泣いた。
泣いても泣いても、悲しい気持ちはそのままだった。
アレックスは私の体が壊れそうなくらい強く抱いた。
そして、肩を震わせていた。
アレックスの涙が私の首筋に1つ落ちた。
私達はいつまでもそうしていた。




