77・【ロゼ視点】新しい約束
エンディングです!
どうか、楽しんでいただけますように!
何故か、わたくしのお部屋の前から、大量の花束が並んでいる。
それだけではない。大小様々なプレゼントの箱も。
使用人のみんなが、それらを忙しなく整理している。
困惑していると、後ろから声が掛かる。
「まあ……お嬢様」
ばっと振り返ると、そこにはマーサが立っていた。
マーサは、いつもと変わらぬ穏やかな調子で口を開く。
「どうかなさいまして?」
「え……? えっと……、このお花達はどうしたの? みんな、何故こんなに忙しそうにしているの?」
尋ねると、マーサはふふふっと笑う。
「……そうですわね。種明かしをしてしまうのも一興ですが、今日の所は譲りたく存じます。折角ですので、エントランスに向かってみてくださいませ」
「……え?」
エントランス?
わたくしが首を傾げていると、マーサが掌を使って先に促す。
わたくしは、困惑しながらもエントランスに足を向けた。
二階のエントランスに出て、わたくしは目を見開く。
そこには、お父様とお母様と、小さなわたくしの絵だけが飾られていたはずなのに、いつ描いたのか今のわたくしの肖像画が飾られていた。今日の服装と同じ……淡藤色のワンピースを着て、幸せそうに微笑んでいる。絵の端にあるサインを見ると、『ソフィア』と書かれていた。
ソフィア様……。
そう言えば、絵を描くのがお好きと仰っていた。
じわっと瞳が熱くなる。そして、吹き抜けの二階から下を覗くと、エントランス中に花束が置かれている。まるで、お花畑みたい。甘いお花の香りが届き、眺めていると低い声が聞こえてくる。
「やっと、出て来たか……」
階下の声が聞こえてきた方向を見て、わたくしは目を見開く。そこには、片口まで伸びた灰茶色の髪をハーフアップにしたレオ様がいらっしゃった。
何故、ここにレオ様が……?
「期限ぎりぎりで、少し焦ったよ」
「ど、どうして……」
わたくしが呆然とそのお姿を見つめていると、レオ様はわたくしの真下で足を止められて、懐から何かを取り出しヒラヒラとそれを見せてこられた。薔薇の装丁の……わたくしのノートだわ!
「そ、それは……!」
なぜ、レオ様が持っているの!? わたくしは、顔を真っ赤に赤らめて慌てて柵を掴む。
けれど、レオ様は無情にも中身のお話をされる。
「確か……『好きな相手の事を知る』だったか? 俺は思ったより知らなかったようで、好きそうなものを手あたり次第用意しちまった。……記事も、もしまだ目を通していなかったら、後で確認してみてくれ。俺なりに結構頑張ったつもりなんだ」
「何故、そんなことを……」
尋ねると、レオ様がアンティークゴールドの瞳を優しく細める。
「『好きな人の笑顔の為に力を尽くす』のが、大事なんだろ?」
今……なんて……?
言われた事の意味がうまく伝わらない。都合よく捉えてしまいそう。言葉に迷っていると、レオ様は真剣な眼差しで尋ねてくる。
「どうしたらいい?」
「…………え?」
「どうしたら、君に好きになって貰える?」
時が、止まったような気がした。
でも、じわじわと胸が、痛いほどに大きく脈打っていく。
わたくしは、全身の体温が上がるのを感じながら、口を開く。
「で、でも……わたくしの事は、そう言う対象には見られないって……」
声が、震える。瞳が揺れて、泣いてしまいそう。
レオ様は、頬をほんのり染めて、にっと嬉しそうに笑う。
「訂正しよう……結構前から、ドストライクだ」
わたくしは、溜まらず息を詰め涙を零す。
こんな風に、気持ちを返してもらえるなんて……想像もしていなかった。
わたくしは、一度俯き呼吸を整え、柵を大きく乗り越出してレオ様目掛けて落下した。
レオ様は、慌てた様子で駆け出し腕を伸ばしてくれる。
力強く抱き留められ、ふらっと二人で尻餅をつく。
「……っ、ビビったぁ。おい。大丈夫か?」
一年前の春と、全く同じセリフ。
でも、一年前のあの時以上に涙が止まらない。
レオ様の腕の中でぐすぐすと泣き続けていると、レオ様はふっと笑い頭を撫でてくれる。
「……頼むから泣き止んでくれ。笑った顔が見たくて努力したんだ」
「……レオ様の所為ですもの」
剥れた口調で言えば、レオ様ははははっと笑って「そうだな」と同意してくれた。そして、わたくしの手を取り、その甲に口づけをして言う。
「今度は、俺に言わせてくれ」
どこまで、わたくしの心臓をおかしくすれば気が済むのだろう。
レオ様は、熱の籠った眼差しで告げてくれる。
「好きだ、ロゼ。どうか、俺と、末永い未来を共に歩いてくれないか?」
わたくしは、ボロボロ涙を零しながらレオ様の胸に頭を押し付ける。
そして、やっとの思いで声を出す。
「…………はいっ……!」
わたくしが答えると同時に、一斉に邸宅中の人々が拍手と笑顔で祝福してくれる。
エマは、「お゛じょうざま゛~……」と、ボロボロと泣き崩れてしまっていた。
涙を拭って、微笑んで皆に手を振っていると、うぉっほんっ! という、大きな咳払いが聞こえる。
レオ様と二人でそちらを向くと、お父様が口の端をぴくぴくと痙攣させながら立っていた。
「……約束は、約束だ。婚約は認めよう。ただし! 実際の婚姻は学院を卒業してからだ! それまでは、節度のある交際を心掛けるように!」
お父様が厳かな調子で言うので、レオ様は怪訝に眉根を寄せて問う。
「節度……って、ちなみにどの程度だ?」
その瞬間、お父様が見た事もないほど怒りを露わにした表情になり、レオ様はわたくしを持ち上げて立ち上がり素早く扉を飛び出した。後ろから、「マーサ! ヨルダン! 追え!」というお父様の声が聞こえる。わたくしは、目を瞬かせてレオ様に尋ねる。
「レオ様……! どちらへ?」
レオ様は、足早に移動したまま答える。
「『二人でお出掛け』……が、大切なんだろう?」
わたくしは、ふふふっと頬を綻ばせる。レオ様とならどこでも構わない。
その思いを込めて、体を寄せてレオ様の頬にキスをする。
すると、レオ様の膝がぐらっと崩れた……!
「……きゃっ」
わたくしが驚いて強く抱きしめる。レオ様もわたくしを落とすまいと膝の上でキャッチしてくれた。レオ様が、顔を真っ赤にして声を荒げる。
「なにをっ……!」
「えっと……『既成事実』? ですわ!」
あっているわよね?
迷いながらもそう答えたら、今度こそ、レオ様は真っ赤なお顔を掌で覆って伏せてしまう。
後ろには、ニコニコと微笑むマーサと、どこか呆れ顔のヨルダンが追い付いて立っていた。
お母様……わたくしは、沢山の愛に囲まれて、とっても! 幸せですわ。
どうか、ご安心なさってくださいませ。
レオ様と正式に夫婦となるその日まで……わたくし、絶対に、諦めません!
貴重なお時間をいただき、本当に、本当にありがとうございました!
みなさまが読んでくださった軌跡を心の支えに、何とか書き上げる事ができました。
イスを襲った魔法士は誰なのか、本当の首謀者は誰なのか…幾つか伏線を残しつつ、一旦筆をおきたいと思います。改稿は続けるつもりです。
いずれ、続きを書くかとは思いますが、暫くの間お別れです。(寂しいです( ´^`° ))
ロゼとレオの幸せな日々が、ずっとずっと続いて行きますように…。
そして、読んでくださった皆様に、素敵な事が沢山、沢山、たっっくさん! ありますように(。>ㅅ<)✩⡱
また、物語を通して皆様とお会いできる日を楽しみにしています!
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