64・【ロゼ視点】恋のキューピットをしたいと思います
今日もお立ち寄り頂き、誠にありがとうございます。
ペースが緩やかで、申し訳ありません。
どうか楽しんでいただけますように……!
「レディ・フォンテーヌ、良ければ僕と踊っていただけませんか?」
「申し訳ございません。少し疲れてしまいまして……」
「休憩室までご案内を……」
「いいえ、お手を煩わせてしまう程ではございませんわ」
そんな風に差し伸ばされる手を、失礼の無いようにそっと笑顔で躱しながらホール全体を見渡すようにして歩く。
……レオ様は、どこにいらっしゃるかしら?
姿が見当たらない。でも、あんなにも人の目を惹き付ける方だもの。いらしたなら、きっと分かるはず。だとしたら、もうホールにはいないのだわと、開け放たれた大扉に向かう。
扉の外を覗き見ると、そこは廊下に繋がっていた。等間隔に配置されたフレンチドアからは、庭園にも出られるようだった。
じっと眺めていると、巡回の騎士の姿も見られる。多少なら、一人歩きしても大丈夫かしら?
どの道このままホール内に居ては、レオ様を探すどころではない。
スカートの裾を軽く摘まんで、廊下に出る。
行く当てはないけれど、方々探してみるしかない。
少しの間歩き続けていると、その廊下が一時休憩する為の個室に続いているのだと気が付いた。
一貴族が使う休憩室に、レオ様が向かうとは考えにくい。
やっぱり、庭園の方かしら?
なんとなくだけど……レオ様がもしまだお近くにいるのなら、それは人の多い屋内よりもひっそりと静かな屋外のような気もする。人の視線は、集まりすぎると少しくたびれてしまうから。
一番近くの開け放たれたフレンチドアから外を見る。月の光がとても明るく、外灯も灯されているけれど必要が無いくらい足元までよく見えた。
わたくしは、そっと外に出てみる。
大きく肩を出したドレスを着ているにも関わらず、全く寒くない。
きっと温度を調整する魔晶石がどこかで使われているのだわ。
見渡せば、そこは噴水のある大庭園ではなく、ホール裏の小庭園である事がわかった。
えーっと……こちらが小庭園で、頭上に本城が聳え立っていて、だからつまり……大庭園はどちらなのかしら?
困ったわ。そういえばわたくし、方向を見定めるのが苦手だった。
少しの間悩み、とにかく庭園の淵を沿うようにして歩きながらレオ様を探す事にした。
レオ様の居場所がわからない以上、城内の道がわかったところで意味なんてないもの。前向きに考えましょう。
よしよしと気持ちを切り替えて歩き出す。
月明かりに照らさた花々がビロードのように柔らかそうに見え、わたくしは、誘われるままにそっと花びらに触れる。すると、瞬時に花の気持ちが伝わってきた。
魔力抑制措置が取られていても、体が触れれば交流を量れるみたい。心の内で『ごきげんよう』と話しかければ、花の方からも反応が返ってくる。
美しい事を褒めれば喜び、毎日丁寧に手入れをされてとても幸せだと笑っている。
庭師の方がとても素敵で、恋をしているのだと言う子もいた。
わたくしも、恋をしているの。
いつの頃からか……ただ眩しく、温かい光に視線を奪われていただけの気持ちに重なるように甘く痺れるような熱が加わって、時々辛くもあるのだけれど、彼がいると世界が鮮やかに色づいてつい瞳でその姿を追ってしまう。
叶う事なら、側にありたい……。でも、なぜかしら。
気持ちの中で望めば望むほど、二人寄り添う未来が遠のいてしまっているような気がして、不安に心揺らされたりしているの。
そう言うと、お城のお花達からは『わかるわかる』と得意げな反応と共に、慰めるような気持ちが伝わってくる。なんだか、お城の花々は感情豊かで、とてもおマセさん。あまりにも愛らしくて、思わずふふっと笑みが零れる。お礼を言って顔を上げると、視線の端に、人気のない廊下の奥の闇に消えていく後姿が見えた。
ほんの一瞬だったけれど、間違いない。あれは……ケイティ様だわ。
あんな暗がりに、一人でどこへ向かわれたのかしら?
思えば、今この城にはサウスクランの街の神殿で見かけた貴族が多く揃っている。
宰相閣下にハンゼン子爵……。
特にハンゼン子爵は、神殿の奥から出てきていたところを見るに、事件の関係者とみて間違いないはず。彼らは、何をしようとしているのかしら?
…………後を、つけてみる?
……いいえ、いけないわ。わたくしは、頭を振ってその思考を追い払う。
冷静にならなくては。レオ様に怒られちゃう。
そんな事を考えていたら、少し離れた場所から声が掛けられた。
「ロゼ様? お一人ですの?」
わたくしは驚いて肩を跳ねさせる。声の主を探せば、フレンチドアの内側からこちらを見つめる美しい女性の姿を見つけた。透けるようなベージュ色の髪に、淡いゴールドとホワイトを基調にしたスレンダーなドレスが、彼女には良く似合う。まるで、月の女神様のよう。
「……セレーナ様!」
わたくしは、お会い出来たことが嬉しく微笑んでお名前をお呼びしたけれど、セレーナ様は何故かとても鬼気迫る表情で足早に近付き、その勢いのまま詰め寄ってきた。
「いくら城内とは言え……! あなたのように、身分も然ることながら綻び始めた薔薇の蕾のようにに可憐で清らかで美しい方が、かように人気のない所でお一人歩きなど危のうございますわ!」
「え、あ……えっと、」
「さあ、共に参りましょう!」
「え! あ、あの……! えぇ?」
セレーナ様はわたくしの背中をぐいぐいと押し、どこかへと連れて行こうとする。
セレーナ様の背後をちらっと見ると、困ったように立ち尽くしている殿方が一人見えた。わたくしは、背中を押されたまま、小庭園を後にした。
小庭園を抜け、どこへ続くのか見渡しの良い大きな通りを進む。
セレーナ様は、扇で口元を隠し溜息を零した。その様子が、とても珍しい。
いつも背中を真っすぐに堂々としていて、こんな風に疲れた様子を見せる事なんてなかったのに。
「本当に申し訳ございません、ロゼ様。巻き込んでしまいましたわ」
「お気になさらないでくださいませ。それよりも、何かご事情が?」
わたくしが尋ねると、セレーナ様は扇をぱたんと閉じて、コクンと頷く。
セレーナ様は、もう一度溜息を零され、事情を教えてくださる。
「あの男は、最近頓に声を掛けて来るんです。お断りしているにも関わらず、『あなたも僕を慕っているはずだ』などと妄言を吐いて。今日は、特にひどくて……まるで自分達は普段から思い合っているのだと言わんばかりに、わたくしのお父様に挨拶をしてきて。その所為でお父様に誤解されてしまって、ファーストダンスを踊っておいでとダンスフロアに送り出されてしまったのですが、冗談じゃないと逃げ回っておりましたの」
「まあ……」
どんな事情があったとしても、身内の者以外とファーストダンスを踊れば、それは婚約者だと半ば公言したようなものになってしまう。その恐ろしさに、わたくしも思わず身震いする。
「それは……ひとまず、回避できて良かったですわ。でも、この後はどうしましょう。ホールに戻れば、また……」
セレーナ様は、悔しそうに眉を歪め、とても悲しそうな眼差しをそっと伏せて言う。
「もう……ひとまず、この場を離れるしかないと考えておりますわ。さすがに家にまではついてこないでしょうから、今夜お父様に改めて説明をして誤解を解きたいと思います」
「でも、それでは、折角のデビュタントが……!」
ファーストダンスも踊っていないのなら、イスとも踊れていないという事になる。
もしかしたら、わたくしと同じように、お話しする事も出来ていないのではないかしら。
わたくしが言い募ると、セレーナ様は「仕方ありませんわ」と諦めたような微笑みを見せる。
わたくしは、ぎゅっと胸を掴まれたように切なくなり、同時に悲しくなる。
何か手立てはないかしら? 少し考え、はっと妙案が浮かぶ。
「セレーナ様! 大庭園の場所はご存じですか?」
「え? ええ。むしろ、今向かっておりますわ」
「え?」
「え?」
ほんの少しの沈黙。
わたくしは、コホンっと小さく咳ばらいをし、姿勢を正して自らの考えを告げる。
「大庭園の脇に、人目につかないスペースが一箇所ございますの。本城からそう遠くもなく、近くの入り口には騎士達が常時交代で警備をしているので大きな声を出せば聞こえるかと存じますが、ちょうど死角になっているので周囲からは見えないと、そんな場所が」
幼い頃、貴族の子供達やその親達が集うお茶会などで集まり疲れて来ると、イスに誘われてグレースと三人でよくそこに逃げ込んだ。その時の会場は、今日使用している大ホールではなく後宮にある小ホールだったけれど、距離としてはそう変わらないはず。戻らなければいけない頃になれば必ずグレッグお兄様が迎えにいらしてくれるので、わたくし達はそれを頼りに何をするでもなくそこでお喋りをしながら庭園やお城や空を眺めて楽しんだ。きっと、今日なんかは月がとても綺麗に見えるだろう。
「? そこがなにか……?」
「皇太子殿下は、疲れるとよくそこで休憩されるのです」
セレーナ様は、目をまん丸くされる。わたくしは、先導するようにセレーナ様の片手を取って、微笑んだ。
「そろそろ、お疲れの頃じゃないかしら?」
わたくしは、セレーナ様の協力を得ながら、その場所を目指した。
貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。
次の投稿は、11/15(水)7:00~を予定しております。
※早めに仕上がりましたら、予告なく投稿を早めるかもしれません。
読んでくださった皆様に、素敵な事が沢山ありますように(。>ㅅ<)✩⡱
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