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62・【ロゼ視点】行かなくちゃ……!

今日も、楽しんでいただけたら幸いです☆彡


 

「王国の若き太陽にご挨拶申し上げます」


 お父様がご挨拶するのに合わせて、わたくしもカーテシーをする。

 いつも、仲の良い友人として接してしまっているから、この距離感がなんだか不思議。

 イスは、お父様だけを見て告げる。

 

「変わりはないか?」

「ええ、この通りでございます。王城に顔を出す足が遠のいてしまい、申し訳なく存じます」

「いいや、事情は把握している。乱世のみぎりより、国境が乱れる事なく平和が守られているのは貴公の働きのお陰だ。陛下に変わり、礼を言おう」

「恐れ多い事にございます」


 頭を下げ続けて待っていると、「面を上げよ」というイスの声が頭上から聞こえ、わたくしは頭を上げて姿勢を正す。目が合えば、ほんの一瞬だけ、いつもの友人の顔でふっと微笑んでくれた。イスは、再度お父様を見て言う。


「……生憎、私にはファーストダンスを踊ってくれるような女性の身内も婚約者もいない。さりとて、あらぬ噂が立つのも避けたい。王家とフォンテーヌ侯爵家の古き付き合いに甘えて申し訳ないが、暫しの時間、ご令嬢をお借りしてもよろしいだろうか?」


 イスは、お父様や周囲で耳を(そばだ)てている方々に誤解が無いよう、はっきりと告げてくれた。お父様がちらりとわたくしを見るので、わたくしは大丈夫だと微笑んで頷く。

 

「……娘にとっても光栄な事にございます。どうかよろしくお願いいたします」


 お父様に背中を押されて、わたくしは伸ばされたイスの手を取る。合わせたように次の音楽が流れ始め、わたくし達はダンスフロアの中央に行き、それぞれ膝を折って礼をして踊り始める。

 イスが、わたくしにしか聞こえない声量で話しかけて来る。

 

「……すまない」


 わたくしは、思わず首を傾げる。イスが、謝るようなことがなにかあったかしら?


「どうして?」

「……伯父上よりも先に、僕が踊ってしまって」


 ああ、何だそんな事かと思わずくすっと笑ってしまう。

 イスは不思議そうな顔をするけれど、わたくしは首を横に振る。


「約束だったでしょう? そもそも、レオ様と踊るなんて夢みたいな事……今日、実現できるなんて思っていないわ」

「どうして夢みたいなことなんだ?」

「だって……」


 きっとレオ様は、わたくしの事何とも思っていないから。

 自分で言おうとして、悲しくなって言葉が出てこなくなる。

 自信をもって用意したこのドレスも、あんなに素敵なレオ様を見てしまっては、もしかしたら子供っぽかったかもしれないとさえ思ってしまう。それに……。


「周りには、美しい方ばかりなんですもの」


 顔見知りの子供達だけではない大きな社交の場に出てみれば、我こそはと誇らしげに咲く花ばかり。特に大人の女性を見ると、どうしても考えてしまう。もしもこの方がレオ様の手を取ったら……きっと、とてもお似合いなんだろうなって。

 知らず知らずの内に俯いていたら、イスが予想外のステップを踏み、わたくしは引っ張られるようにして背筋を伸ばし顔を上げる。今日は前髪を上げて顔を出しているから、碧い瞳が良く見える。イスは、こんなにも凛々しい顔立ちをしていたかしら?


「俯くなよ。君は君が想像しているより、ずっと綺麗だ」


 そういイスの方が、よっぽど綺麗……。

 思わずそう呟いてしまいそうなほど、今日のイスはきらきらと輝いていた。

 

「イス……」

「でも……今君と踊っているのは僕だから。今だけは、僕を見て?」


 そう言うと、イスはにこりと微笑む。それだけで、周囲にいる子女達が湧き立つ声が聞こえてくる。


 でも……わたくしは、なんだか切ない気持ちになった。イスは時々、笑っているのに泣いているんじゃないかと感じる時がある。今、どうしてそう思えたのかはわからないけれど、そんな時はいつも小さかった頃のイスを思い出す。


「イス……昔、わたくしに尋ねた事があったでしょう? イスが、いずれ国を背負っていく事をどう思うかって……覚えてる?」

「ああ。覚えているよ」

「わたくし……実はあの後、少し悩んでいたの。あの言葉で、本当に正しかったのかしらって」


 周囲から見れば、ただ楽しく踊っているように見えるのかしら。

 わたくしは、スカートの広がりを意識しながらくるりと回る。


「言った言葉に、嘘はないのよ? 本当に、貴方には出来るって思っていたし……でも、貴方に、却って重い重荷を背負わせてしまったような気がしたの」


 イスは、何も言わない。でも、あんなに苦手だと言っていたステップも、難なくこなしていく。グレースと三人で練習の度に何度も足を踏み合ったのに、いつの間にか出来る事が一つずつ増えていって、そうして、わたくし達は大人になっていくのかしら?


「逃げても良いし、放り出しても良いの。どんな事があっても、わたくしはあなたに幻滅したりはしないわ。でもやっぱり、あなたは将来、国王陛下よりもずっと優しい王様になると思う」


 イスの手を取り、軽やかにステップを踏む。少し大きく回っても、イスは響くように反応してくれる。さすがだわ。なら、これならどうかしら? と、挑戦的なステップを踏めば、そうきたかとばかりにイスも高度な技を入れて来る。そうして、二人で技術を試し合うように踊ってしまったから、曲が終わる頃には息が切れてしまいそうになっていた。それを隠すために、二人でくすっと笑った。


「あなたの友であれた事が、わたくしの何よりの誇りよ」


 二人で同時に離れ、綺麗に膝を折って終わらせる。

 すると、周囲の人々が割れるような拍手をくれた。


 周囲を見回せば、我先にとイスを待つ子女の姿がちらほら見えた。

 わたくしは、その場を離れようと思ったけれど、イスが動かないので不思議に思いイスを見つめる。イスは、少し俯きながら、ボソッと声を零した。


「ロゼ……」

「ええ、なぁに?」

「…………ロゼ」

 

 二度も、呟くように名を呼ばれて首を傾げるけど、続く言葉は出てこない。

 イスは、俯いてしまって表情も良く見えない。


 どうしたのかしら?

 ……そう言えば、イスが想いを寄せる方は、今夜この中にいるのかしら?


 そんな事を考えていると、イスがぐっと顔を上げた。

 わたくしがその様子を驚いて見ていたら、イスはわたくしを真っすぐ見つめて言う。


「……ありがとう。まだ、先の事にはなるが、来るべき時が来たら、()は王になりたいと思う」


 急に、イスが遠い人になってしまったようだった。負けず嫌いで、怒りんぼうで、不貞腐れてばかりのイスが、どこか遠くに走り去ってしまった。でも、次の瞬間、イスは力の抜けたとても良い笑顔で笑った。


「君が……君達が、安心して暮らせる国を作るつもりだ。その時は、どうか力を貸して欲しい。善き、友として」

 

 優しい笑顔は、そのまんま。わたくしは、知っているわ。

 どんなイスも、ちゃんと覚えてる。その夢も、きっと実現してしまうのでしょう。

 わたくしは、その時何者になれているのかしら? 絶対に、どんな形であれ力になるわ。

 

「お約束しますわ。()()()殿()()


 わたくしは、今一度深くカーテシーをした。

 きっと、いつまでもこのままでなんていられない。

 それでも、積み重ねた時間や絆は、心の奥底で残り続けると信じて……。

 

 わたくしが一歩下がると、数名の美しい女性がイスに近付き声を掛けている。にこやかに対応するイスを横目に踵を返し、ふと中二階を見上げると、レオ様の姿はそこにはなかった。


 一体、どちらへ……? もしかして、もう帰ってしまわれたのかしら?

 

 気持ちが突然焦りだす。せめて一目でも会って、お話がしたい。行かなくちゃ……!

 

 わたくしは、ダンスを誘ってくださる他の方の手もやんわり断って、レオ様を探しに急いでその場を離れた。



貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。


次の投稿は、明日11/10㈮7:00~を予定しております。

読んでくださった皆様に、素敵な事が沢山ありますように(。>ㅅ<)✩⡱


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