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61・【ロゼ視点】はじめてのダンス

お待たせ致しました!

本日もよろしくお願いいたします☆彡


 わたくしとグレースはお父様方の元へ戻り、それぞれ家門の役割を果たす為に一先ずその場で別れた。その後、わたくしとお父様は一通り皆様へのご挨拶を済ませ、ダンスフロアへと移動した。


 ダンスフロア入場の際、中二階の席を見上げると、レオ様が近衛騎士の方とお話している姿が見えた。……良かった。まだ、いらっしゃった。


 こっそり喜んでいると、すっと目の前に手が差し出される。

 顔を上げると、お父様が優しく微笑まれていた。


「では、ファーストダンスの光栄を頂いてもよろしいですか? レディ」


 わたくしは、ふふっと微笑んでその手を取り、膝を折って答える。


「ええ、もちろんですわ。お願いします、お父様」


 

 はじまりの軽やかで明るい曲に合わせ、お父様のリードでワルツを踊る。

 周囲を見ると、女性達の熱い視線を感じた。

 夜会に出るのは初めてで、今まで気が付かなかったけれど……そうだわ。お父様だって、お母様を亡くされて、もうすぐ17年になるんですもの。

 心を寄せる方の一人や二人いたって可笑しくはない。踊りながら、お父様に尋ねる。


「……お父様は、新たなご縁を結ばれることを、お考えになったことはないのですか?」


 お父様は、少し驚いた顔をする。わたくしが首を傾げて見つめていると、優しく瞳を細めて答えてくれた。


「……ああ。フローラは、私にとっての唯一だ。今までも、そしてこれからも。それに、今は君もいてくれる。他の誰かなんて考えた事もなかったよ」

「……お寂しくは、ありませんか? もし、わたくしに気を使われているのなら、わたくしの事はお気になさらないでくださいませね?」


 わたくしは、全然大丈夫なのです……! と、意気込んで言えば、くすっと微笑まれて調子よく訪ねて来る。


「もし、私が意地悪な継母を連れてきたらどうするんだい?」

「まあ! その時は、わたくしも負けてはいませんわ。あの手この手でやり返してしまいますもの。もしかすると、次はどんな意地悪をしてくるのかと、ワクワクしてしまうかもしれませんわね?」


 わたくしが胸を張って言うと、お父様ははははっと笑われた。


「それでこそ、私達の娘だ。フローラも、そんな風にとても勇ましい女性でね。皆が彼女を射止めんと奮起していた。片や、私は生真面目で面白みのない男だったが……どうしてフローラは私を選んでくれたのか、今でも不思議でならないな」

「あら! それはちっとも不思議な事ではありませんわ」


 二人で大きく回転する。ドレスの裾がふわりと広がり、心地いい。


「お父様は、とても素敵な方ですもの。すらりと高い背も、艶やかでいて上品なお顔立ちも、紳士的な振る舞いも……どこをとっても、自慢のお父様ですわ」

「……それは、光栄だ」

「それに、何より……お父様は笑ってくださいますもの」

「ん?」

 

 お父様が首を傾げる。わたくしは、先程からちらちらと脳裏に浮かぶ思い出を、話す事にした。


「昔……わたくしがダンスの先生に合格点を頂いて、ブランドンやマーサに付き添って貰って、お父様をダンスに誘った日の事を覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、もちろん。確か、君がまだ7、8歳の頃だったかな。漸く大きくなってきたところだった」

「ええ。あの日、実はわたくし、とても緊張していたのです」


 今でこそ、こんなにも仲の良い親子になれたけれど、わたくしはお父様の前ではいつもどこか緊張していた。大好きなお父様なのに……いいえ、大好きなお父様だからこそ。嫌われたくないと、そう思ってしまって。()()()()()()で、それも大してうまくもないのに、そんな事で手を煩わせるのかと思われてしまったらって、気が気じゃなかった。


「でもお父様は、上手く話しの切り出せないわたくしの気持ちを察して、仰ってくださったのです。『大丈夫だよ』って」


 そうして、無事に二人でダンスをして……その日から、わたくしはお父様が怖くなくなった。

 上手く話せなくても、上手く踊れなくても、『大丈夫だよ』って言ってくれる事がわかったから。

 

「いつだってお父様は、わたくしの話を聞き出す為に微笑んでくださいました。それは、思っているよりずっと大変な事だったと思います」


 疲れていても、何かに怒っていても、悲しい気持ちを抱えていても……それでも、目の前にいる人を、その人との関係を大切にしたいと思うからこそ、微笑む。わたくしに、それが出来るかしら? もし怒っていたら、気持ちに引き摺られて剥れてしまうかもしれないわ。お父様は、眉根を寄せて難しい顔で聞いてくる。

 

「そう……だろうか? 親なら、普通の事だろう?」

「いいえ! 自分の気持ちを一旦抑えて、誰かの為に微笑むと言うのは存外難しいものです。誰にでも出来る事ではありませんわ」


 繋いだ手と手が離れ、わたくしはくるりと一回転する。そして再び繋ぎ直し、お父様に言う。


「わたくし、本当はとても怖がりなんです。だから、その一言にとても安心致しました。お母様も、きっとお気付きだったと思います。……わたくしがレオ様に惹かれて止まないのも、そんなところがお父様に似ているように感じられるからなのかもしれません」


 お父様が瞠目する。レオ様も、始めの一言からずっと、わたくしを気遣ってくださっていた。

 言葉は、『どうしたチビ?』だったけど。そんなところも、レオ様らしくて大好き。

 

 きっとお母様も、お父様の側で安心してお過ごしだったのではないかしら?

 お父様が虚を突かれて驚かれた顔をしている。

 その様子に、わたくしは良いことを閃いて、思い切っておずおずと尋ねてみる。

 

「……だから、そろそろお認めくださいませんか? わたくし、彼でなくてはダメなんですの」


 中々、戦況は芳しくないんだもの。有効期限延長交渉の礎を作っておいても損はないわよね?

 お願いお父様と祈りを込めてじっと見つめると、お父様は弾かれたようにはははっと笑われた。

 

「これは、一本取られたな」


 お父様がわたくしの腰を持ち上げて大きくターンをする。そして、ふわりとわたくしを下ろして言う。


「期間内は、約束通り大人しく待っていよう。私が手心を加えずとも、君ならきっと自分の力で願いを叶えられる。大丈夫だよ」

 

 お父様が、意趣返しだと言わんばかりの笑顔を見せる。

 ダメだったわ……。でも、その笑顔は昔から変わらずわたくしを安心させ、勇気をくれる。

 お父様の言う通り、諦めなければ、願いは叶うかもしれない。もう一度、めげずに頑張ってみよう。音楽が終わり、わたくしとお父様はそれぞれ丁寧に一礼しダンスを終える。

 微笑み合って余韻を楽しんでいると、ざわざわと俄かに場が騒がしくなる。

 

 お父様がわたくしの後ろをみて目を見開き、丁寧に頭を下げる。

 何かしらと思っていたら、後ろから声が聞こえた。

 


「久しいな、フォンテーヌ侯爵」

 

 振り返ると、そこにはいつもの何倍も光り輝くイスがいた。



 

貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。


次回は、明日11/9㈭7:00~を予定しております。

読んでくださった皆様に、素敵な事が沢山ありますように(。>ㅅ<)✩⡱


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