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59・【レオノール視点】イシドールとの和解

お待たせいたしました!

今日も、どうか楽しんでいただけますように☆彡



 夜、俺は王城に来ていた。

 

 王城は、上の階へ行くほどに王族達のプライベートな空間が設けられている。

 その中にある応接室の窓からは、城の庭園が一望できるようになっている。


 中央には、愛と豊穣の神フレイとその従者達――神話を模した像を据える美しい噴水があり、その左右にはまるで鏡で映したかのように均等に花壇が広がる。

 今は暗くて、花自体はあまり見えない。けれど、道に沿って設置されている外灯や、庭園の向こう側に見える建物の隙間から温かい光が零れ、これはこれで美しい景色だと思った。


 窓際によって景色を眺めて暇をつぶしていたら、コンコンと扉が叩かれる音が聞こえてきた。

 俺は後ろに控えていた侍従に目配せをし、来客を中に通す。

 

 王家の血を示す、癖のない真っ直ぐな金色の髪。

 伸びた前髪の隙間から見える碧眼は、ガレスとよく似ている。

 スッキリと通る鼻筋に、骨ばっていない丸みのある顔立ちは、皇后譲りなのかと信じていた。


「体調は、大丈夫か?」

「……はい」


 イシドールがソファーに腰を掛け、その前に侍従が飲み物を用意する。

 その動作を見届けてから、侍従を下がらせて二人きりになる。

 俺は、イシドールのはす向かいに腰を下ろした。俺の前に用意されていたカップを軽く持ち上げ口を潤せば、イシドールもそれに倣い茶を飲み、ほっと一息ついた様子を見せた。

 俺は、足を組んでソファーの肘掛に肘を置いて口を開く。


「……2か月待った。そろそろ聞こうか?」


 イシドールは、視線を伏したままカップをそっとテーブルに戻した。

 そして、姿勢を正すと真っ直ぐに俺を見る。……それは迷いがない、良い目だった。

 初めて会った時は、まだ1歳だったか。歩き始めたばかりで、良く尻餅をついていた。

 普段、子供には怖がられるばかりの俺を見て、何故かニコニコと笑いかけてくれたな。


 もう、16歳……今年、17歳になるのか?

 時の流れは、恐ろしく早い。

 

 そんな余分な事を考えていたら、イシドールはゆっくりと口を開いた。


「……ご報告、致します」

 

 その後は、暫しイシドールの声に耳を傾けた。



 ◇◇◇


 あらまし話を聞き終え、頭の中で情報を整理する。

 イシドールは、話し終えた後はどこかすっきりとした顔をしていた。

 そして、イシドールから問われる。


「……今回、僕が魔草の影響を受けてしまった件に関して、父上は何と?」

「……」


 ガレスの言葉を、そのまま伝えて良いものか少し迷うが……どの道、嘘を言うわけにもいかないのでそのままに伝える。


「『事件の概要を知っていながら警戒を怠ったものとしてその責、重く受け止めて欲しい。今後同様の失敗を犯したら、その時は自ら潔く皇太子の座を退け』」

「……」

「……『次はない』と」


 イシドールは、膝の上の拳を握りしめ、ぐっと唇を引き結んで聞いていた。

 ガレスは、俺とは違う。この国の王であり、イシドールの親だ。

 厳しくせざるを得ないのだろう。

 

「……大丈夫か?」


 イシドールは顔を上げ、ふっと口元を緩めて苦笑しながら言う。


「……ええ。想像通りと言えば良いのでしょうか……プラスで謹慎処分くらいは出るかなと思っていたのですが、お咎めなしも中々に堪えますね」

「……ガレスの真意はわかるな?」


 イシドールは、頷いた。


「大丈夫です。僕の為を思って厳しくしてくれているのでしょう? 今後国を率いていく者として、こんなにも簡単に敵の策中に嵌るなんて、あってはならない……。昔から、父上は取り分け僕には厳しかったから……期待してくれているのだと、思うようにしていますので」


 

 ……それもあるが、きっとそれだけではない。

 傍から見ても胸が痛くなるほど、イシドールは昔から厳しい教育を受けていた。

 それは、もし万が一、イシドールの出生が明るみになった時、周囲の者達が容易にイシドールを馬鹿にできないようにする為だろう。俺のようには戦果を挙げる機会を得にくいこの平和な時代の中で、上に立つ者として認められる為には、誰よりも重い責を背負っている姿を見せる事が一番手っ取り早い。

 

 今回、イシドールが策に嵌ってしまったのは、そんな教育が(もたら)した穴だ。イシドールは、心を許した相手にはとことん心を許してしまうきらいがある。それは、安心できる場所が少ないが故の当然の逃避行動だ。


 俺は、それを戦場に見出していた。そこにいる限り、人はみな心地良い居場所を提供してくれる。


 もう大人になって、そんな事も乗り越えてきたけれど、その厳しさに何度吐き気を覚えてきた事か。恐らく、ガレスも似たようなものだろう。俺は、どさっとソファーの背に身を凭れて、「あ゛~……」と声を上げる。


「……王族って何なんだろうなぁ」


 出生、立場、責務、期待、憧れ、軽蔑……自分達に向けられる視線が鬱陶しい。俺はもうどうでも良いけど、こいつはほんの15年前までは、よちよち歩くただ可愛いだけの子供だった。本当にどうして、そんな追い詰められたような、疲れた顔をさせなきゃならないんだ?


 声を掛けてやりたい気持ちはあるが、俺も所詮同じ穴の狢だ。

 イシドールがどう思おうが関係なく、国の為にアイラ・マノアを消してしまえないかと画策している俺に、掛けられる言葉なんてあるはずもない。


 ……彼女だったら、何て言っただろうか?


 優しく寄り添ったのだろうか? 俺が迷わぬよう背中を押してくれたように。

 そんな事を考えていたら、ぽそりと、イシドールが呟いた。


「……『至らぬ自分に気が付けたらそれでいい』」

「え?」


 声につられて身を起こしイシドールを見れば、視線を軽く伏せたまま、ふっと笑みを零しながら言った。

 

「……以前、ロゼに言われたんです。『至らないと気づけたならそれで良い。それ以上のものを持っては、重くてとても歩けないから』……と」


 イシドールも、はぁと息を吐いて先程俺がしていたのと同じ様にソファーの背に身を凭れさせる。その態勢のまま、まるで独り言のように口を開く。



「『目指すのは、まだ見ぬ明日の自分。目的地は、いつでも過去ではなく未来にある』」

「……勇ましいな」

「ええ、本当に。この言葉のお陰で、僕はずっと()()()()()()


 俺は、黙ってその様子を見る。イシドールは、続きを話す。


「『皇太子の座を退け』というのは……恐らく父上の優しさです。父上は、厳しい事を言う振りをして、そうやってほんの少し逃げ道を示してくれるんです」


 正直、少し驚いた。辛かったら逃げても良いのだと……お前ばかりが背負う必要はないと言うガレスの想いを、イシドールはちゃんとわかっていたのか。イシドールは、身を起こし、再度カップに手を伸ばす。口元を潤わせ、にっと微笑む。


「……結構気に入っているんです。皇太子の座は。こんな事では諦めませんよ」


 俺は、はっと鼻で短く笑い、告げる。


「生意気だな」

「今頃お気付きですか。僕は元より、生意気なんです」


 イシドールがにっと笑った。

 その笑顔に昔の面影が浮かび上がり、俺は安堵した。

 

 忘れていたな……。自分もそうして強くなってきたのに。

 裏切り、裏切られ、苦しみながらも僅かな光を見つけては、立ち上がってきた。

 

 それでいい。全ての苦しみを味方につけろ。

 振り返り見て乗り越えてきたんだと自分を誇れ。


 俺は、一言だけ告げる。


「俺は……全てが全て、お前の望み通りには動いてやれないかもしれない」

「……はい」

「ただ、もしどうしようもなくなったら安心して後ろにぶっ倒れろ。背中を支えてやるから」


 自分でも変な例えだとは思ったが、他に言ってやれる言葉が思いつかなかった。

 俺が気恥しさに鼻の頭を掻いていると、少しの間黙っていたイシドールがぷはっと笑って言う。

 

「…………はい! ありがとうございます」


 イシドールが続けて「でも、出来たら倒れる前に力を貸してください」というので、「時と場合に寄りけりだな……」と答えたら、イシドールははははっと笑った。そして、落ち着きを取り戻してきたところでイシドールが口を開く。

 

「それで……伯父上の()()は出たのですか?」

「何のだ?」


 俺が尋ね返すと、イシドールが何食わぬ顔で聞いてくる。


「……ロゼへの、気持ちです」

「あ? あ~……」


 その名を聞くだけで、ドクっと脈が反応する。俺が視線を彷徨わせ答えに窮していると、イシドールが先に口を開く。


「……まあ、僕が聞く必要はありませんね。その先は、是非本人に。学院の創立記念パーティーには、ご参加されるんですか?」

「創立記念パーティー?」


 俺がきょとんとして尋ねると、イシドールは驚愕の顔で見返してくる。


「まさか……ご存じないんですか!?」


 目を剥いて声を大きくするイシドールに、俺はただただ首を傾げるしかない。

 

「? ああ。何の事だ?」

「信じられない……そういえば聞いた事がありませんでしたが、伯父上はどうやって学院を卒業されたんです? 伯父上が学生の時分から、王立高等学院は王族の入学と卒業が義務付けられていましたよね?」


 急な話題転換に、眉根を寄せながらも記憶を寄せ集める。

 

「ああ。公務(戦闘)が忙しかったから、学院長の許可の元、全教科数か月缶詰で勉強して、試験受けて合格点取ったからそのまま卒業したって事に……」

「なんですか、そのバカみたいな話!」


 自分が聞いたんだろう。せめて最後まで言わせてくれ。

 呆れた顔のイシドールが、盛大に溜息を零しながら話す。

 

「再来週、学院の創立を記念して王城でパーティーが催されます。学生は勿論、教員や学院専属騎士隊も参加する大きい物です」

「ほー」

「ちなみに、デビュタントはどこで済ませたんですか?」


 話題がコロコロ変わるな。社交の話は苦手なんだ。

 俺は首を捻りながら記憶を蘇らせ、答える。

 

「あ~……確か17、8の頃の凱旋パーティーで済ませたな。当時の皇后が、ガレスと同年にするなんて許せないと騒いで……」


 イシドールが、またはぁと溜息を零した。なんだよ、俺の所為じゃないだろう?

 イシドールは、こめかみを押さえながら、眉間に皺を寄せて言う。

 

「……創立記念パーティは、一般的に子息子女達のデビュタントになります。僕とロゼのデビュタントでもあります!」


 ああ、なるほどそういう事か。漸く話が繋がって、また「ほー……」と気の抜けた返事をしたら、「ほー……じゃありません!」と強めに返された。若者の情緒についていけねぇ。

 イシドールは、憮然と続ける。


「申し訳ありませんが、僕はファーストダンスをロゼと踊らせていただきます。それでも、きっとロゼはまた大変な事になるでしょうね」

「……なにがだ」


 ファーストダンスは、身内が一番面倒臭くないと聞いた気がするが、そうか……イシドールには、適齢期の女性の身内がいないのか。なるほどなと、一人納得していたらイシドールが腕を組んでふんっと鼻を鳴らす。

 

「伯父上との噂もじわじわと下火になりつつある今、虎視眈々と狙っている輩は沢山いますから。きっと、多くの男達に囲まれる事でしょう。……けどまあ、どのみち、このまま春が来ればロゼは婚約者を定めなければいけないので、良い機会かもしれませんね」

「春?」


 何の話だと眉根を寄せて尋ねれば、イシドールは真剣な顔で告げる。

 

「ロゼは、フォンテーヌ侯爵と約束しているんです。来年の春には、伯父上の事を諦めて別の婚約者を定めると」

「……っな!」

「具体的には、来年度の授業が始まる前日までだそうです。致し方ありません。彼女もまた、貴族なので……」


 俺は、思わず顎を摩り考える。

 そんな俺を、イシドールはただ楽しそうに見ていた。

 

貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。


次の投稿は、11/6㈪7:00~を予定しています。

お待たせして申し訳ありません。

読んでくださった皆様に、素敵な事が沢山ありますように(。>ㅅ<)✩⡱


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