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55・【ロゼ視点】パーティが揃いました

おはようございます。

今日からまたよろしくお願いいたします|ૂ•⌔•⸝⸝)


 週明け、わたくし達はレオ様によって救護室に集められた。


 メンバーは、わたくし、グレース、イスと、カレン先生、イリーナ様、ノーマン卿、そしてレオ様の7名。休憩の為に用意していたテーブルを囲み、イリーナ様、ノーマン卿、レオ様はお立ちになったままで、その周辺に集まる。話の内容は、恋の秘薬と巷を騒がせる“フェアりー・コンプレックス”について。


 陛下も合意の上、フォンテーヌ侯爵家当主とウィンドモア伯爵家当主――つまり、お父様とグレースのお父様にも数日の内に連絡がいくとの事。以降は、家名を背負い正式な勅命の下、事件に関わる事になる。


 状況から鑑みるに、捜索願いが出されている女性の中で事件に関与していると考えられる者は既に十数名を超えており、捜索願いの出されていない者を含めると、恐らくその倍以上の人数には達するだろうとの事。学院内に置いては未だ目立った動きがない為、国としては引き続き視点の中心を城下に定めて捜索を続けているとの事。


 新しくわかった事を、各々報告していく。まずは、カレン先生が書面をわたくし達に回しながら話す。


「“フェアリー・コンプレックス”に使用されていると思われる魔草の種類が絞られたわ。最も有力なのは、学名ムーンヴィランド・ウンディーネズローズ。別名、“妖精の涙”。特徴は、魔力の霧が発生する森の奥深くの水辺に集団で自生し、満月の夜に開花して大量の種子を放出するという事。花にも種子にも魔力が含まれていて、水や光と同様に魔力も成長に欠かせない為、種子は魔力を持つ生物に付着して眠っている間に幻覚を見せて花の場所まで(いざな)うらしいわ。その際、対象の体調を整え予め魔力を過剰に生成させておく事で、効率よく摂取できるようにしているみたい」

「……なるほど。それが、“美容”と“魔力過剰生成症”、“幻覚”、“夢遊病”に繋がっていくのか。種子の形状は?」

「見た目には、ただの液体のようよ。肉眼で見えるか見えないかというほどの小さな粒で、身を守るために魔力で常に液体を身に纏っているらしいわ」

「なら、運ぶ方法も接種のさせ方も他の液体に混ぜてという事になるな。恐ろしい植物だな」

「ええ。でも、花自体はとても弱いみたい。環境が少し変わるだけで霧散するし、魔力を吸うと言っても命を奪うほどではないらしいわ。通常は、獲物は心地良い夢だけを見て、元気にその場を離れるそうよ」


 あくまでも断続的に摂取しなければ……と、カレン先生は加える。我が国で魔力の霧が発生するほどの森となると国境沿いの森達になるのだけど、被害は王都を中心に広がっているようだった。やっぱり、何者かが意図的に広めているんだとわかり、その恐ろしさにわたくしは身震いする。次いで、イリーナ様が手を挙げて尋ねた。

 

「栽培は出来ないのですか? 誘拐されたと目された女性達は、その栽培元に集まっていると考える事は出来ないのでしょうか?」

「そこは、専門家のおじいちゃんも頭を捻っていたわ。この個体は、栽培には()()()()()()()()が必要みたい。適した湿度、温度、水の品質、そして魔力。それらのバランスが全て完璧でないといけないらしいわ。だから、やはり種子の状態の物を液体に混ぜて運んだと考えるのが妥当でしょうね」


 レオ様は、話すカレン先生を見ながら何かを考えるように顎を摩っている。でも、そうなると採集方法としては、満月の夜に森の奥地に出向き、魔獣の目を搔い潜って種子を集める事になる。それは、かなり難しい事ではないかしら?

 内心う゛~んと唸っていると、ノーマン卿が手を挙げて発言した。

 

「現物は、僕が取ってきます。自生している可能性のある箇所がかなり絞られたので、捜索は容易かと」

「……気を付けろよ。霧の発生している森は、魔獣の気性が荒い。レベルもみな上級だろうからな」

「はい。大丈夫です。魔獣討伐隊から先鋭を数名借りていきます」


 レオ様の声に、ノーマン卿はいつもと変わらず微笑んで答える。それでも、少し心配。容易とは言うけれど、大きな、それも危険な森でたった一つの花を見つけるなんて……大丈夫かしら。グレースに同意を求めようと視線を向けたら、グレースはかなり不安そうな顔でノーマン卿を見つめていた。そんな顔をするグレースが珍しく、わたくしは少し不思議に思う。首を傾げながらも、議題は次に進む。


「ノクタの神殿や神官について分かった事はあったか?」

「それは、私から。ノクタの神殿と神官について調べてきました。サウスクラン脇にある神殿は、そもそも“星の指導者”と名乗る者達が用意したものだったようです。“黒衣派”とも呼ばれ、神官や祭司は一様に黒衣を身に着ける事が作法なのだとか。冥府に渡った魂を宥めるノクタを崇拝しており、安らかな眠りの為にみなで祈るというのが一般的な儀式の流れだったようです」

「どこの情報だ?」

「以前、サウスクランの管理をしていた者です。数年前王国官吏に就任し、土地を離れていました。ただ、殿下に伺った神官の特徴を伝えたところ顔見知りだったようで、その男についての情報も得ています」


 そういうと、イリーナ様は数名の男性が描かれた姿絵をイスに渡した。イスは、それを見て頷き、わたくしとグレースにも見せてくれる。


「……間違いない。この男だった」

「名は、マクシミリアン。もう年は70に近いそうです。敬虔な信者で、心の優しい穏やかな人物だったそうですが、孫娘が亡くなってから塞ぎがちになっていたとの事でした」

「……また、遺族、なのですね……」


 思わず言葉が零れる。あそこに集まった方々は、みんな悲しい心を抱えている人ばかり。何だか歯痒い思いで、つい唇を噛んでしまう。亡くなった方の魂の安らぎを祈る事で、彼らもまた、その心を慰めてきたのだろうか。


 イリーナ様は、わたくしの言葉に頷いて続ける。


「ええ。そして気になるのは、孫娘が亡くなってから、かなり古魔術に傾倒するようになったという事です」

「古魔術……?」


 レオ様が、眉をピクリとあげ反応を示す。神殿で聞いた聞き慣れない詠唱は、古魔術のものだったのかしら? それに是と示すように、イリーナ様は続ける。


「王宮の魔法士に確認したところ、ロゼ様達がご覧になられたという儀式のようなものも古魔術の一種ではないかと言う事でした。実現できているというのが学術的に目を瞠るものがあるようですが、“詠唱”に“魔草”の組み合わせは古魔術において所謂テンプレのようなものらしいです。魔力を集めているのも、何らかの古魔術に使用する為かもしれません。それが何かは、わかりませんが……」


 わたくしは閃き、それならと掌を合わせて提案する。


「グレッグお兄様に尋ねてみるのはいかがかしら?」

「! そうさ! 兄上は、この国で古魔術の第一人者と呼ばれている人だ。きっと何か知って……」


「ダメだ」


 笑顔で顔を見合わせ、同意するグレースの言葉を遮ったのはイスだった。わたくしとグレースは、驚いてイスを見つめるけれど、イスは俯いてて視線は合わない。


「……事件を知る人物を、これ以上増やすべきではない」

「……でも、ウィンドモア伯爵にもお話は伝わるのだし、後継であるグレッグお兄様に伝わるのも時間の問題では……」


 イスは、視線を合わさないまま黙してしまった。顔色は良くなったと思ったけれど、まだ本調子じゃないのかしら? わたくしの呟きに答えてくれたのは、レオ様だった。


「……そうだな。現状、ここにいるメンバーと当主達以外には知らせないようにしよう。どこから情報が漏れ出るかもわからないからな」


 レオ様がそう仰るなら、わたくしとしては、そういうものかしら……と従うしかない。

 何分、勅命も含め、全てが初めての事だから。概ね報告が出きったところで、レオ様が次の行動の指示を出していく。


「古魔術と神殿の調査は俺が貰おう。イシドール。詳しい事を聞きたい。この後、俺と一緒に来てくれ。イリーナは引き続き学院内の警戒を。ウィンドモア伯爵令嬢」

「はっ!」

「イリーナのサポートを頼めるか?」

「もちろんです」

「怪しいと思う奴がいたら、すぐに報告してくれ。それから、ロゼ」

「! はい!」


 レオ様に声を掛けられて、胸が跳ねる。思わず背筋を伸ばして、続きを聞く。

 

「入手した魔草が事件で使用された物と同じものか特定できるか?」

「はい! お任せくださいませ!」

「よし。じゃあノーマンは魔草を入手したらカレンに渡せ。それからカレンは……」


 わたくしが、初めてきちんと頼って貰えたことに内心ほくほく喜んでいると、不意に、レオ様の動きが止まる。レオ様だけじゃない。みんな動きを止めて、レオ様以外の全員がレオ様に視線を送る。それも、驚いたように少し目を見開いて。なぜかしら?

 わたくしが、キョトンとしていると、カレン先生が溜息を零しながら口を開いた。


「……はいはい。わかったわ。魔草を受け取ったら()()ちゃんに、連絡すれば良いのね」

「……? ああ。あとは治療法の検討を二人でしてほしいんだが……なんだ?」



 レオ様が怪訝な顔で尋ねると、カレン先生はテーブルに頬杖をついて口をニヤリと微笑ませながら、揶揄うような口調で言った。

「いえね。別に良いんだけど、ただ、いつの間に名前で呼び合う仲になったのかしらぁって思って?」

「「……!」」


 わたくしとレオ様は、揃って返す言葉を失う。わたくしは、かぁっと頬を赤らめるけど、レオ様も心なしか……? どうかしら。あまりわからないけれど、とにかく気まずげに視線を逸らし、頬を掻きながら口を開かれた。


「あ~……まあ。普通だろう。お前たちの事だって名前で呼んでるじゃないか」

「あたし達は、だってねぇ? 一応、部下ですもの」

「………………このクッッソ親父。ついに……」

「イリーナ聞こえてるぞ」

「僕は、未だにノーマンです」

「“ノーマンの息子”が転じたからな。希望があったら、名前で呼ぶぞ。ウィル」

「あ~……なんだか残念ですね。別にだから何って事でもなかったので、やっぱりどっちでも良いです」

「くそっ! 今すぐ全員地方に飛ばしてやりてぇ……!」

 

 レオ様がガクッと項垂れる。わたくしは、その掛け合いがなんだか楽しくて、ふふっと思わず笑いを零してしまう。でも、同じように微笑むけれどどこか切なげなグレースと、変わらず無表情のまま押し黙るイスの顔を見ると、事件を前にした不安な気持ちが胸の奥で騒めいて何とも言えない気持ちでその日の会議は終わった。


貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。

読んでくださった皆様に、素敵な事が沢山ありますように(。>ㅅ<)✩⡱


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