表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/77

54・【ロゼ視点】夢に見た三度目のデート

 


 クエスチョンマークがたくさん浮かぶ中、わたくしは一先ず食事を頂く事にした。案の定、お料理が次々と運ばれてきたけれど、レオ様はわたくしが食べられるように少しずつ取り分けてくれて、残りは全てレオ様が召し上がってくれた。


 はじめはレオ様の柔らかい笑顔に戸惑ったけれど、お食事をしながら話している内にどんどん馴染んでいき、レオ様も何だかとても楽しそうで、事件の事も忘れてとても幸せな時間を過ごした。

 

 お食事も終わり、食後のティータイムも頂いたところで、レオ様が(おもむろ)に立ち上がる。


「よし。じゃあ、行くか」


 レオ様が、わたくしの椅子を引いて手を差し出してくれる。なので、わたくしも「ありがとうございます」と言ってその手を取り立ち上がると、離れると思った手はそのまま繋がれ、流れるようにレオ様の腕に置かれた。


「え? え? な、な……?」


 わたくしは、動揺してレオ様とレオ様の腕に置かれた自分の手を交互に見る。すると、レオ様は気恥しそうに頬を掻きながらも、いつもの三割増しの優しい笑顔で告げる。


「何って、エスコートだろ?」

「え、えす、えす……?」

「まあ、とにかく行くぞ」


 わたくしは、顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。


 そうして、引っ張られるように連れて行かれた先は王家御用達の洋裁品店だった。

 レオ様は、普段からとてもラフで飾らない雰囲気を持っているから忘れてしまいがちだけど、さすがは王族であり現公爵。先程のレストランでも今回のお店でも堂々と振る舞い、自然にVIP席に案内される。


 店内の赤いビロードのソファーでレオ様と横並びで座っていると、目の前のローテーブルに十数種類のハンカチが並べられた。


「え? え??」


 今度は、レオ様のお顔とハンカチを交互に見る。すると、レオ様がこの状況の理由を話してくれた。


「数か月前、ハンカチを借りただろう? 覚えてないか?」

「あ……」


 そう言えば、そんな事もあったような……。あれは、レオ様と初めて二人でお出掛けした時。レオ様にお渡ししたような気もする。


「返そうと思って機会を逃している内に、汚してダメにしちまったんだ」


 悪いなと、レオ様は本当に申し訳なさそうに告げる。でも、これとそれのどのような関係があるのかピンとこず、わたくしは気の抜けた返答をしてしまう。

 

「まあ……」

「だから、好みの物を贈らせてくれ。この中に、気に入るのがあればいいんだが……」

「…………え! そんな! お気になさらないでくださいませ。そんなに大層なものでは……」


 ない……と言おうとしたけれど、少し考える。折角、レオ様が贈り物をしてくださると言うのに、断ってしまうのはなんだか惜しい。レオ様をちらりと見れば、優しい笑顔のままわたくしの言葉を待っている。


 今日は、どうしてこんなに優しいのかしら? ハンカチをダメにしてしまった罪悪感から? でも、そんな事で? 疑問は解消されないけれど、兎に角わたくしはハンカチを持って来てくださった女性に声を掛ける。


「……その、では、男性ものはございますか?」

「「男性もの?」」


 ニコニコとわたくし達の話を聞いていた店員の女性と、レオ様の声が重なる。わたくしは、少し恥ずかしく思いながらもその声に答える。


「もし、宜しければ……刺繍を施しますので、貰って頂けますか?」

 レオ様は、驚いたように目を見開きながら言ってくる。


「でも、それじゃあ、俺のハンカチを俺が買う事にならないか?」

 そういう事になってしまう? 少し考え、わたくしは首を横に振る。

 

「わたくしのハンカチを、持っていて頂きたいのです。……いけませんか?」

 伺うように視線を上げれば、レオ様は、ははっと嬉しそうに笑った。


「いや。そうか……ありがとな」


 レオ様の笑顔に、今度こそ本当に心臓が爆ぜてしまうかと思った。全身の熱が上がりくらくらしちゃう。そして、新たに持って来て頂いたハンカチの中から、レオ様のお好みに合うものを一緒に選んで包装をお願いする。包装して貰っている間、視線を巡らせると、煌びやかなドレスが目に入る。


「……その、レオ様。お伺いしてもいいですか?」

「ん? どうした?」


 本当に、どうしてしまったんだろう。輝くような笑顔で優しく優しく微笑まれて、ドキドキと心臓は跳ねるばかり。鏡を見なくてもわかる。わたくしは、今日はきっとずっと顔が赤い。でも折角の機会だからと、頬に落ちる髪を耳に掛け顔に集まった熱を誤魔化しながら、意を決して尋ねる。


「その……お好きな色はございますか?」

「色?」

「はい。柄でも良いのですが……」


 レオ様は、黙って数秒間じーっとわたくしを見る。わたくしが、首を傾げて「レオ様?」とお名前をお呼びすると、はっと意識を戻され問いに答えてくれる。


「そうだな……夜明け前の、空の色とかが好きだな」

「……水色、ですか?」


 尋ねると、レオ様は「ん~」と首を捻り視線を前に向け、拳で口元を押さえ咳ばらいをしながら言う。


「……まあ、薄紫色とか、だな」


 それは……もしかして、わたくしの瞳の……。

 思いつくと、またかぁと体中の体温が上がる。もう沸騰してしまいそう。

 それから、レオ様は重ねて言う。


「柄は……よく、わかんねえな。そのまんま、星空とかは眺めるのが好きだな」

「ソウ……デスカ」


 わたくしは、もう茹で上がってプスプスと音を立ててしまいそうだった。

 記憶も朧げなまま、ハンカチを受け取り店を出る。


 その後は、日が傾くまでレオ様のエスコートの元、街を散策した。

 レオ様は、わたくしの好きな物や見たい物を尋ねながら歩いてくれる。

 お陰で、お父様への贈り物の香水や、邸のみんなへのお土産も用意する事が出来た。

 

 本当に夢のようで、わたくしも魔草の毒にやられてしまって幻覚でも見えているのではと何度か頬をつねったりしてみたけれど、頬はちゃんと痛かった。




 夕方になり、広場のベンチで休んでいると隣に座るレオ様が口を開く。


「遅くなると悪いな。そろそろ行くか」

 

 もう、この時間も終わりなんだ……。わたくしは、シュンと肩を落とす。

 でも、もっと一緒に居たいとごねてご迷惑をお掛けするわけにもいかない。


 レオ様が立ち上がり、手を差し出してくれる。見上げると、夕日に照らされてオレンジに輝く瞳が見える。


「俺も馬車止めに馬を預けているんだ。帯同して家まで送っていくから、一緒に帰ろう」


 わたくしは、思わず目を見開く。「一緒に帰りましょう?」という権限さえないと、そう思っていたのは今日の事。もう、同じ日だとは思えない……。

 差し出された手に、手を重ねる。強い力に支えられ、立ち上がり歩き出すと、レオ様が「あ」と声を零された。ここで、やっぱり何か奈落の底に落とされるような事を言われるのかしらと緊張してそのお顔を見ると、レオ様は笑顔のまま言った。


「そういえば、今日の格好すげえ似合ってるな。綺麗だよ」


 わたくしは、思わず両手でぎゅ~っと頬を引っ張り、その痛みと有り余る幸福で遂には泣き出してしまった。


「ふえ~~~~~~」

「っは!? 何だ!? 何してんだよ!」


 その後は、マーサがそっとわたくしを支えてくれて、馬車まで連れて行ってくれた。

 わたくしもそんな状態だからと、マーサはレオ様の帯同をやんわりと断り、結局行きと同様のメンバーで帰った。馬車の中では、忘れない内にマーサに一つだけお願いをして、今日という日は夢うつつのままそっと幕を下ろした。



貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。



いよいよ物語もラストスパートです。

この辺りで、また一度推敲の時間を頂きたいと思います。

度々本当に申し訳ありません(><。)


次の投稿は、10/29(日)7:00~を予定しております。

お待たせしてしまいますが、今後ともよろしくお願いいたします☆彡


読んでくださった皆様に、素敵な事が沢山ありますように(。>ㅅ<)✩⡱

いいね、ブクマ、ご感想、お待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ