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49・【ロゼ視点】抱える想い

投稿が遅くなり申し訳ありません!

本日も、楽しんでいただければ幸いです。

 


 セレーナ様とは、同じクラスという事もあり、先日共にお茶を飲んで以来とても仲良くなった。本日は、オリビア様やルーシー様と共にお買い物にいらしていたらしい。それぞれ目的の物を購入し、午後に用事があったお二人とは別れ、セレーナ様は一人引き続きウィンドーショッピングを楽しまれていたそうだ。


 セレーナ様は、わたくしの座るベンチの隣に腰を掛け、嬉しそうに微笑む。


「まさか、こんなところでお会いできるなんて思ってもみませんでしたわ」

「ええ、本当に」


 わたくしも、笑顔でセレーナ様の言葉に同意する。セレーナ様の所作はとても美しく、背筋をまっすぐに座る姿は凛としていてとても自然で。上品にすっと伸びた鼻筋に知的な瞳、目の下の涙黒子がとても優美で、実はほんの少し羨ましく思っている。わたくしは、首を傾げて尋ねる。


「何かをお求めに、この街へいらしていたのですか?」

「ええ。2か月後に学院の創立記念祭がございますでしょう? その飾りなどを見繕いに」

「……まあ! 創立記念祭!」


 大変! すっかり忘れてしまっていたわ!

 王立高等学院では学院の創立を祝い、毎年創立記念祭が王城で開かれている。特に新入生は、12歳から14歳の頃行われるお披露目のデビュタントとは違い、今度は正式に社交界の仲間入りを果たすデビュタントとして名前を呼ばれて入場する。ドレスも、家格に相応しい物を用意しなくてはいけない。夜会用のドレスを着るのは初めてになるので、デザイナーの確保も重要だ。わたくしは、ずっと懇意にしているデザイナーがいるけれど、そろそろ依頼しないと制作に間に合わなくなる。マーサが抜かりなく準備してくれている事が多いけど、わたくしからも確認しなくっちゃ。


 そんな事を考えていると、セレーナ様はふふっと微笑む。


「……よかったですわ。いつものロゼ様に戻られて」

「……え?」


 わたくしが顔を向けると、セレーナ様はどこか心配そうに眉を下げて言う。


「遠目でお見掛けした時、とても沈んでいる様子でしたので……お声を掛けるか少し迷ってしまいましたの。どうかなさいまして? また、公爵閣下の事ですの?」


 わたくしは、かっと頬を赤らめる。う゛ぅ、情けない。わたくしはいつも、レオ様の事で悩んでばかりだわ。子細をお伝えする事はできないけれど、わたくしは頬に両手を添えながら頷く。


「仰る通りですわ……本当に情けない限りです」

「ふふ。何があったかは存じませんが、恋をすればみな同じようなものですわ。わたくしだって、儘ならぬことばかりで塞いでばかりおりますもの」

「……セレーナ様も?」


 驚いた。いつも凛としているセレーナ様と、その様子が結びつかなくて。

 セレーナ様は微笑み、言葉を強調するようにゆっくりはっきり告げる。


「ええ! もちろんです。自分とは違う別の誰かを想うと言うのは、そういう事ですわ。何度、闇属性魔力を得てその心を操ってしまえたらと望んだ事か」


 セレーナ様ははぁっと溜息を零した後、鼻をツンと高くして言う。その澄ましたお顔から冗談なのだとわかり、わたくしはふふっと口元を緩ませ、抱えきれなかった気持ちを吐露する。


「……でも、本日のわたくしは本当にダメなんです。本当に浅ましくて……利己的で、どうしようもないのです」

「ロゼ様……」


 暗い雰囲気にしたくなくて口元を微笑ませた筈なのに、つい視線が下がる。顔を上げられずにいると、数秒後、セレーナ様がふぅっと短く息を吐き、穏やかに告げる。


「では、やめてしまわれますか?」

「え……?」


 驚いて顔を上げると、セレーナ様は真っ直ぐな眼差しで重ねて言う。


「やめてしまえば良いのです。どうしようもなく、お辛いのなら。先程も申し上げたように、恋とは()()()()()()です。残念な事に、想いが通じ合っていたとて幸せな時間は半分ほどで、もう半分は葛藤の繰り返しだと聞きます。気持ちが通じ合えていない、わたくし達がしているような恋は、述べるべくもないのですわ」

 

 そうだわ、セレーナ様もイスの事を……。そう言えば、イスもどなたかに想いを寄せているというような事を言っていたけれど、それは誰の事だったのかしら?

 わたくしは、言葉もなく押し黙る。セレーナ様は、背筋を伸ばしたまま続ける。


「ロゼ様を想う方は、たくさんいらっしゃる筈ですわ。明日から早速、他の方に目を向けてみれば良いのです。公爵閣下の事など忘れて」

「……そんなこと……」


 出来るだろうか……。少しだけ、考えてみる。レオ様への想いを捨てる。

 でもそれは、想像しただけで今抱えている気持ち以上に悲しかった。胸の奥が散り散りに千切られるみたい。


 苦しいとわかっているのに、馬鹿みたい。レオ様の低い声に、大きな手に、不意に見せる笑顔に惹きつけられて……厚みのある熱が「好き」という言葉にとろりと溶けて、彼を求める。それを思うわたくしは、どんな表情をしていたのだろう。セレーナ様は静かにふっと笑った。


「……結局、それが答えですわ。心の続く限り、向き合い続けるしかないのです。醜い自分とも、周囲の状況とも。安心してくださいませ。わたくしの方が、ロゼ様の千倍は醜いですわ。何度、恋敵となり得る女性を心の中で切り刻んだことか」


 セレーナ様は、ふんっと鼻を鳴らし胸を張る。その優しさに心が照らされ、わたくしは頬を緩めてふふっと笑う。


「セレーナ様は、いつだって美しいだけですわ」

「まあ! そういうロゼ様だって。……みな同じです。恋なんて、そもそもが利己的なものなのです。あまりご自身を責めないでくださいませ」

「ええ、ごめんなさい。ありがとうございます。少し、気持ちが整理できました」


 わたくしがそう言うと、セレーナ様はほっとしたように微笑んだ。そして、やれやれと肩を落とし、零すように言う。


「それにしても……世の中は儘ならない恋に溢れていますわね」

「まあ……わたくし達以外にもどなたかいらして?」


 わたくしが尋ねると、セレーナ様は頬に手を添えはぁ~と溜息を零しながら、答えてくれる。


「ええ。少し前までなのですが……ルーシーの事ですわ。ルーシーには婚約者がいるのですが、その婚約者がかなり曲者で。甘いマスクで優しい言葉を言ったかと思うと、その後すぐに他の女性の手を取っているような男性なのです。家の為とは言え、ルーシーも少なからず思っていて、溜息ばかりついているんですのよ」

「まあ……でも、少し前というのは?」


 ルーシー様は水色の美しい髪を持つ、小柄で元気な小鳥の様な女性だ。いつも明るくユーモアがあり、そこにいるだけでその場をぱっと明るくしてしまうような方。そんな方を思い悩ませるなんて……そう思いながら重ねて尋ねると、セレーナ様はうーんと首を捻りながら答える。


「それが、最近はどうもうまくいっているのか……自信のある発言が多くなりまして。良い事なのですが、お相手を知っているだけに、また上手く騙されてしまっているのではと心配で」

「まあ……そうなのですか。でも、もしかしたら、お相手の方も心を入れ替えられたのやもしれませんね。ルーシー様は素敵な女性ですもの」

「それなら良いのですが……」


 セレーナ様は、困ったように微笑む。みんな、色んな気持ちを抱えて過ごしているのね。

 話を聞いてもらえて良かった。自分の気持ちや、置かれた状況を、冷静に見つめる事が出来そう。わたくしは、セレーナ様に改めて言う。


「セレーナ様」

「はい?」

「本当に、本日はありがとうございます」

「ふふ。いいえ。わたくしのほうこそ……」

「……え?」


 わたくしがセレーナ様を見ると、セレーナ様は口元を微笑ませたまま視線を少しだけ伏せて言う。


「……いいえ。ロゼ様が、優しく心の清らかな女性で良かったと、そう思ったのです」

「……? セレーナ様?」


 わたくしが首を傾げて尋ねると、セレーナ様は笑って首を横に振る。


「なんでもございませんわ。では、わたくしはそろそろ参ります。ロゼ様はいかがされますか?」

「侍女を待っているのです。……でも、良ければお見送りいたしますわ」


 セレーナ様が馬車止めに向かうと言うので、わたくしも立ち上がり共に歩く。

 セレーナ様はこの街に詳しく、おすすめのお店や美味しいスイーツのお店を教えてくれた。馬車止めでセレーナ様が馬車に乗るのを見届け、わたくしも、そろそろ帰ろかしらと視線を逸らしたところで、二人組の人物が目に入る。


 姿を変えて、潜むように行動しているけれど……わたくしは、その姿をした二人と幾度となく行動を共にしたことがあった。思わず、眉を顰めて呟く。


「あれは……」

 

 わたくしは、路地裏に消える彼らの後を追った。

 

 

貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。

読んでくださった皆様に、素敵な事が沢山ありますように(。>ㅅ<)✩⡱


そして、次の投稿までにまたお日にちを頂きたいと思います。

次は、週明けの10月23日(月)を予定しております。

楽しみに待ってくださっている方、お時間を頂き申し訳ありません。

ガンガン頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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