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43・【ロゼ視点】サウスクランにて

数日振りになりました。大変ながらくお待たせしました。

本日からまた、頑張ってまります!

どうか気長に、よろしくお願いいたします。


 かなり時間が掛かるかも知れないと、申し訳ない思いで頼んだレオノール様の(元)奥様捜索は、3日にして解決した。


 我が家の侍女長マーサと、わたくしの専属護衛騎士ヨルダンは、わたくしが思っている以上に優秀だった。特にマーサは元々とても謎が多く、今回も侯爵家とは別の伝手を使ったと言っていた。決して教えてくれないとわかっているから尋ねないけれど、一体どんな伝手なのかしら? ほんのちょっと、ドキドキするわ。


 

 姿絵に酷似した人物は、王都の南西に位置し、交易と商業が盛んな大きな街“サウスクラン”にて平民として暮らしていると言う。


 サウスクランには、幼い頃に一度だけ、お父様が連れて行ってくださったことがある。色とりどりの家々が並ぶ大きな街で、人々は活気に溢れ幾つものお店が点在していた。職人の街とも呼ばれていて、彫刻師や時計職人、調香師など色彩豊かな技術者たちが集う。その為か、街には意匠のこらされた街灯や橋があり、美しい噴水の広場は名所となっている。巡回の騎士も多く治安も良いので、最近では貴族の子息子女達のお出掛け先としても人気が高いらしい。

 

 

 (元)奥様が見つかったと聞いてからの数日間は、どうしても気持ちが落ち着かなかった。だって、どんな表情でレオ様に接すれば良いのかわからなかったんですもの。カレン先生のお手伝いも、つい、お休みを頂いてしまって……とにかく、まずは自分の目で確かめようと必死に口を閉ざした。今日は週末で学院もお休みだから、いよいよ出向く為、わたくしは朝から身支度を進めている。



「お嬢様……本日は、お一人でお出掛けになるんですよね?」

「? そうよ? どうして?」


 ドレッサーの前に腰を掛けるわたくしの髪を整えながら、侍女のエマが鏡越しに首を傾げて尋ねてくる。わたくしも、同じ方向に首を傾げて答える。


「それにしては……朝からお手入れが入念ではありませんか?」

「えっ……」

「湯浴みにパックに、髪への香油に……そして、選ばれたお召し物は、先日旦那様より街歩き用にと新しく贈られた物ですよね?」


 わたくしは、ちらっと自分の格好を見る。ひざ丈の淡藤色のワンピース。胸元から袖に掛けてはホワイトのシースルーの生地に切り替わっている。清楚でありながら、とても愛らしいワンピース。わたくしは、慌てて口を開く。


「そ、それは、だって、この服を着てみたかったんですもの。せっかくお父様が贈ってくださったものだから……」

「……そして、ご要望は三つ編みのハーフアップですよね? お顔を惜し気なく出される形の」

「……変かしら?」

「いいえ! それは、もう、お嬢様のお美しさと可憐さと艶やかさと清楚さを前面に出せる素晴らしい提案だと思います! しかし……些か心配です」

「心配?」


 なにが? と今度は反対方向に首を傾げれば、エマがくわっと目を見開く。


「それは、もう、世の狼共に決まっております! ヨルダンさんが居てくれるので間違いはないとは思いますが、こんなにも素晴らしいお嬢様を見かけてしまっては、良からぬことを考える輩が溢れ出してしまいます。それも、隣を歩く殿方が居ればまだしも、()()()()! ……いやいやいや、いけません。極上の羊を狼の群れの中にそっと置いていくようなものです。どうか、お嬢様、本当の事をわたくしだけに教えてくださいませ。どうか、公爵閣下とデートなのだと仰ってください! さすればわたくしは、こんなに怯えるような気持ではなく、全力を持ってお嬢様を着飾って見せますものを……!」

「デ、デートなんて、そんな簡単にできるわけないじゃない……!」


 エマは、顔を青褪めさせて、何かに耐えるように声を震わせて乞うように言う。それに対し、わたくしは頬を赤らめさせながら首を横に振る。マーサとヨルダン以外には、今回の外出の目的は言っていない。でも、レオ様の(元)奥様に会いに行くんだもの……。

 

 姿絵では、とてもお綺麗な方だった。実物はそれ以上だったとしたら、こちらも着飾らないと心が折れてしまいそうじゃない。わたくしは、震えるエマの袖を引き、その顔をちらっと見上げて尋ねる。


「……難しそう?」


 その後のエマは、形容し難いものだった。

 顔を真っ赤にして停止したかと思えば、「は、はぁ、あぁぁ!」と奇声を発して、わたくしが戸惑っている間にものすごい勢いで髪形とメイクまで完璧に施してくれた。エルサが持ってきてくれたアクセサリーを身に着ける頃には、何と言うか真っ白に魂が抜けたようになって座り込み、「おじょ…………袖つん……からのチラッ……」と、聞き慣れない言葉を繰り返し呟いていた。


 思わずエルサに「エマは、大丈夫かしら?」と尋ねると、エルサは「幸せが臨界点に達しただけかと思われますわ。お気になさらず」というので、よくわからないままだったけれど、幸せなら良しと一先ず納得する事にした。そして、肩から小さなポシェットを下げて準備は整った。


 

 

 

 

 無事(?)、邸を出発し、馬車に揺られる事数十分。今日はヨルダンとマーサも率いてサウスクランにやって来た。街並みが相変わらず可愛らしく、心が湧き立つ。帰りに、香水でも買っていこうかしら。お父様に、お洋服のお礼もしていなかったから……。

 

 そんな事を考えながら、事前に偵察をしてくれたヨルダンの案内の元、(元)奥様……もとい、ソフィア様らしきお方がお住まいになられているという街外れに向かった。


 そこは、お店が立ち並ぶ広場付近とは違い、人も疎らでとても静かだった。

 ソフィア様と思しき方のお住まいは、最近流行りのアパルトマンタイプの一室との事。その建物は最近建てられた物らしいけれど、黄色と白を基調とした外観で、街に馴染みとても可愛らしかった。わたくしは、近くの別の建物の影からひっそりと様子を伺う。けれど、待てど暮らせど、該当の建物からは誰も出てくる気配がない。どの位、そうしていただろう。


「もう、直接踏み込むしかないのかしら……」


 思わず、二人に向けてそう呟くと、頭のすぐ後ろから聞き慣れた響くような低い声が聞こえた。


「どこに踏み込むって?」



 …………。

 …………!



 

「ひゃぁあっ!」

「『ひゃぁあ』じゃない! こんなところで何をやってるんだ!」


 わたくしが思わず叫び壁に飛び退くと、レオ様は、溜息交じりに腕を組んでそう言う。


「レ、レ、レレオ様、どうしてこちらに!?」

「レレオ様って誰だよ。様子がおかしかったから、見かけたら連絡を寄越すように王都の騎士達に通達を出しておいたんだ」

「そ、そんなぁ……!」

 

 まるで人を指名手配犯みたいに……! そ、そういえばマーサとヨルダンは!? と、目をくべれば二人は壁際にきちんと並んで控えていた。レオ様がいらしている事、教えてくれても良いじゃない~!


 伝えたい事や、しなければいけない事が色々あるような気がして、頭をぐるぐると混乱させていると、畳み掛けるようにレオ様がぐっと距離を詰めて来る。背後には壁があり、逃げ場がない。


「それで? ここへは何しに来たんだ? 俺は、無理はするなと言った筈だが?」

「ちっ、違うのです! これは、事件とは全くの別件で……」

「別件?」


 レオ様が首を傾げていると、ずっと動きの無かった建物の方から落ち着いたトーンの艶やかな声が聞こえてきた。


「……レオノール様?」


 声につられて振り返ると、ほんのり赤みがかった栗色の長い髪を二つに纏め、紺色のワンピースに白いエプロンを身に着けた、清楚でいてそこはかとなく大人の艶やかさを持つ女性が驚いた表情で立っていた。

 

「は? え? は?」

「……」


 レオ様は、目をまん丸くしてわたくしと女性とを交互に見る。わたくしは、もう何も言えず、ただ俯くしかなかった。




 ああ……ご無沙汰しております、愛と豊穣の神様。やっぱり、計画とは、そう上手くはいかないものですわね……。

 


貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。

読んでくださった皆様に、素敵な事が沢山ありますように(。>ㅅ<)✩⡱


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