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28・【ロゼ視点】儘ならない気持ち

  

 わたくし達は、森の中を幾つかの拠点に絞り採取して行く事にした。手には、採取物のリストと小型図鑑、それから森の地図を握る。採取物は、薬草の他に鉱石や小粒の魔晶石なども含まれていた。今日採取出来た物は、全てわたくし達の物にして良いとの事。麓の街で換金すれば、現金に変えられる。そうして、お金を稼げるという事も知って置いて欲しいとレオ様は言っていた。


 自分でお金を稼ぐ事が出来るなんて、とても得難い経験。勿論、わたくしにとっても初めての事。なのに、中々集中できない。心の中は、反省の嵐が吹き荒れてる。


 先程のわたくしは、レオ様にご挨拶もせず酷い態度を取ってしまった気がする。全てはわたくしの心の内の問題で、レオ様も、イリーナ様も、何も悪くないのに。最低だわ。これでは、いつか本当に嫌われてしまう。わたくしって、こんなにもどうしようもない子だったかしら? 思わず、溜息が零れる。


 

 それでも、頭を振って、なんとか気持ちを切り替える。まずは、目の前の事を頑張らないと! 不真面目な生徒とまで思われてしまっては、それこそ救いようがない。

 手に入れた薬草を、腰に下げた布袋に入れる。大体取り終えたところで、次の拠点へと全員で移動する。道すがら、隣を歩いていたノーマン卿に声を掛けられた。


「フォンテーヌ侯爵令嬢は、森歩きは慣れていらっしゃるんですか? 足取りがとても軽やかですね」


 ノーマン卿は、とても不思議そうな表情をして首を傾げている。わたくしは、ふっと笑って、歩きながらその問いに答えた。

 

「はい。護衛騎士を伴って時々。あとは、実はほんの少しズルもしていますの」

「ズル?」


 すぐ側にいたイリーナ様も首を傾げる。わたくしは、にこっと笑って指で自分の足元を指し示す。イリーナ様とノーマン卿が合わせてわたくしの足元を見て、目を見開く。


「あ! 草が分かれてる!」

「足場が出来ています!」


 わたくしは、お二人に見えやすいように、少し歩みを緩めトントンッと跳ねる様に歩きながらその仕組みを伝える。

 

「わたくしは、花がメインではありますが一応植物属性を持っていますので、種類に寄っては簡単な操作も出来るのです。草木を分けて予め足場を作りながら歩いているので、みなさまよりも歩きやすいのです」

「でも、そんなに断続的に魔力を放出していたら疲れませんか?」

「魔力量は人の数倍多いそうで、このくらいでしたら呼吸をしているのと変わりませんわ」


 イリーナ様とノーマン卿がほおっと感心するように溜息を零す。わたくしも、ノーマン卿に関して気になっていた事を聞く。


「ノーマン卿は、北部のご出身でいらっしゃいますか?」

「あ、はい、そうです。北部のフロストヘイブンと呼ばれる街の出です」


 ノーマンという名は、北部に多い名だ。特に、フロストヘイブンはレオ様のスノウウルフの一件でお世話になった街。わたくしは、予想が当たり嬉しくて、両掌を合わせて喜びを伝える。

 

「! やっぱり! わたくし、そちらに伺ったことがあるのです。もしかすると、木彫り職人のノーマン様とご縁がございますか?」

「ええ!? ち、父だと思います。う、うちにいらっしゃった事があるんですか!?」

「ご両親とお話させていただきました。帰り際に、フクロウの形をした木彫りのランタンをいただいたのですが、今も夜、ベッドで本を読むときには使用しておりますわ。お気に入りです」

「親父……侯爵家のご令嬢に何てものを……」


 わたくしが、懐かしい記憶を思い出しながら話すと、ノーマン様は顔を赤らめて両手に顔を埋めてしまう。わたくしが頂いたそれは、フクロウがランタンを持っているような形状で、ランタンの部分に光の魔晶石を入れる事が出来るようになっている。光が拡散するようにランタン部分にはゴールドとホワイトのステンドグラスも使われており、それがきらきらと輝いてとても美しく、素晴らしい出来だった。少しすると、ノーマン様は両手から顔を上げて言う。

 

「いや~……なんともお恥ずかしい。けど嬉しいです。ありがとうございます。僕は4年ほど前から王都で暮らしているので、それよりは最近でいらっしゃいますか?」

「2年前です。スノウウルフの件で……現場を見てみたくて」

「ああ……あれは、本当に同郷の身として、情けない限りです。その……真相はご存じですか?」


 ノーマン卿も、スノウウルフの件は結局のところ人間の方に非があったと考えているのだろう。わたくしは、何も言わず数度頷いた。ノーマン卿は、眉根を寄せて、少し落ち込んだ様子で話す。


「僕が幼かった頃は、()()()()はしていなかったんです。スノウウルフは恐れの対象ではあったけど、どこか敬われていたと言うか……。でも、武具がどんどん改良され、人は強くなりました。それに、雪深く閉ざされていた北部が、交通の便が発展し人口も増えて……。古き良き慣習や伝統は廃れ、恐らく金の為だけに、子供のスノウウルフの乱獲という悲しい結果になっていったのだと思います。スノウウルフの持つ魔晶石は、南方の国で高く売れますから」

「……ええ。ご両親も、嘆いていらっしゃいました。若い衆を止める事が出来なかったと」

「本当に……人間の方が、よほど言葉が通じません。でも、その事があって僕はバレナ参事官の事を知ったのです」

「レ……バレナ先生を?」


 ノーマン卿は、どこか切なげな表情で、柔らかく微笑んで頷く。


「はい。村の人間の中には、参事官を恐れる者もいたそうなんです。守って貰っておきながら、山の守り神に何てことをと……。でも、彼は出来る限りの力を尽くし、そして決断しました。人の暮らしや国を守る為に。僕はその決断を、寸分も早くなく、寸分も遅くなく、本当にベストなタイミングだったと思っています」


 わたくしは、黙ってその話を聞く。ノーマン卿は、ぐっと顔を上げて前を見据える。


「もし、彼のように賢く、強い人間が始めからあの街にいたら……恐らく、今回の様な事にはならなかったでしょう。だから僕は、いつか彼のように強くなって、再び街に戻ると決めたんです」


 その瞳に、彼の決意が伝わってくる。わたくしが、「そうですか」と微笑んで答えると、ノーマン卿は少し気恥しそうに首の後ろを掻く。


「実は、その一件以来、参事官にかなり憧れていまして。ずっと王都の城下町の巡回騎士をしていたのですが、参事官が特別講師として高等学院に行かれると聞いて、急いで昇進試験を受けて高等学院専属騎士隊への異動申請を出したんです。参事官なんて、普通なら雲の上の人ですから。実際にお会いして共に働けるなんて、夢みたいで」

「まあ……お気持ちわかります。わたくしも、ずっとバレナ先生に憧れていたのです」


 わたくしが、感嘆の声を漏らすと、ノーマン卿もぱぁっと表情を明るくする。

 

「そうなんですね! 個人的な繋がりがあったのですか?」

「ええ、そのお話はいずれまたゆっくりと。同じ思いの方がいてくださって嬉しいです。……あ、でも憧れていた歴に関しては、わたくしの方がずっと先輩ですわ。その事は、忘れないでくださいませね?」


 わたくしが、ほんの少し心に積もってしまった焦燥を密かに冗談に込めて言えば、ノーマン卿は、ははっと笑い「かしこまりました。お手柔らかにお願いします、先輩」と調子を合わせてくれた。イリーナ様もそれを受け、ノーマン卿に軽く足を掛け「調子に乗るなよ、おい」と、お二人で仲良く……掛け合い? をしている。


 わたくしは、密かにふぅと息を吐く。

 レオ様は、とても素敵な方。この世界に、彼に憧れる人は何人いるのだろう。わたくしは、その何番目なのだろう。そうは思っても、ノーマン卿のように、レオ様の決断は間違っていなかったと言ってくれる人が増えるのは、本当にとても嬉しいの。


 自分の心も儘ならない。レオ様が側にいて、初めて知った気持ち。

 片想いって、想像よりもずっと難しいものね。

 

 そんな事を話している内に、話しは騎士隊の内部の事になっていった。

貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。

読んでくださった皆様に、素敵な事が沢山ありますように(。>ㅅ<)✩⡱


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