12・【ロゼ視点】好きな人を振り向かせる方法①
わたくしは、今一度気持ちを入れ替えることに。レオ様に再会し、彼を側に感じて改めて好きだと思えたから。まだ、諦めたくない。恋をする経験も、レオ様が初めてなんだもの。最初から、上手くいくなんて思ってはダメよね。ただ、ぶつかって砕け散るような、同じ方法は取りたくない。
まずは、侍女長のマーサに、持ち歩くのに手ごろなサイズの小さなノートを用意して貰った。マーサは、薔薇の意匠の施された上品なノートを用立ててくれた。そして、1ページ目に『好きな人を振り向かせるためにはどうしたら良いか?』と書き記す。まずは学ぼう。とにかく、身近な人に相談していくことにした。
『侍女談』。
朝の身支度を進めて貰いながら、わたくしは侍女のエマ、エルサ、マーサに表題の件について尋ねた。
「わ、わたくしだったら、どうするかですか!?」
「ええ。どんな意見でも良いの。好きな殿方がいたとして、エマならどうする?」
侍女のエマは、我が家きってのお洒落番長――番長って何かしら?――を、名乗るプラチナブロンドを今日はツインテールにしている可愛らしい女性。
エマと鏡越しに話す。エマは、わたくしの髪を櫛りながら答えてくれる。
「え~と、う~~~ん、そうですね。まずは、それとなく、好きな物や趣味などを探りますね」
「……なるほど。共通の話題も出来るし、良いかもしれないわね」
「はい。あと、出来れば好みのタイプなどでしょうか?」
「好みのタイプ……」
それは、重要かもしれない……。でも、好みではないと言われてしまったらどうしたらいいのかしら? わたくしが、う~んと首を捻っていると、側でエルサがふっと笑う。
「二流ね。好きな男の好みを聞いたところで、どうするのよ。相手の好みに合わせて自分を変えるなんて、ナンセンスだわ」
エルサは、赤い燃えるような髪を一つに纏めた、大人の色香抜群の女性。普段から、色々とご指南して貰っている。エマが、ぷりぷりと怒り出す。
「へ~へ~、どうせ二流ですよ~だ。でも、じゃあ、エルサさんはどうするんですか?」
わたくしは、ドキドキしながら目を輝かせてコクコクと頷く。
エルサが、履いていく靴などを用意してくれながら言う。
「もちろん。まずは自分を知ってもらえるよう努めますわ。良いところも悪い所も。心も身体も込々で」
フィ、フィ、フィジカ……色々と想像してしまい、エマと二人でぼっと赤くなる。
エルサが当然ですと言わんばかりの落ち着きで重ねて言う。
「恋は駆け引きではありますが、その後の未来に繋がる入り口でもあります。あまり下手な工作をするよりも、どれ程二人が歩み寄れるのかを見るべきですわ。だから、無理して彼の好みに合わせるのではなく、恐れず素直な自分を伝えることもとても大切な事なのですのよ?」
素直な自分……。なるほど。目から鱗だわ。そして、エルサは思い出したように言う。
「ただ、周辺に女がいないかだけは徹底的に洗い出しますわ。それによって、戦略が変わってまいりますもの」
素直な自分はどこへ……でも、そう、これは戦なのね。状況に応じて、使い分けなくてはいけないという事ね? さすが、エルサ。経験値がわたくしとは違いますわ。
結局、わたくしが入学初日に見たのは養護教諭の先生だったわけだけど、お二人の関係がどんなものかもまだ探れていない。彼女は、わたくしとレオ様が2人きりになる事も、まるで厭うていなかった。普通なら、平静でいられない気がするのだけど。それとも、二人にはそれだけ信頼感があるという事かしら。そう考えると、ズキッと胸が痛む。いざそうなってしまったら、わたくしはどうもできないような気がする……。
思い出して悲しい気持ちになっていると、そこに、侍女長のマーサがトレーの上にハンドクリームの入った瓶を乗せてやって来る。
「まあ、まあ。ほほ。二人とも、その辺になさい」
「マーサ……あなたなら、どうする? 好きな方を振り向かせるために、どんな事をすればいいと思う?」
「そうですね……まずは、二人の時間を重ねていく為に、それとなく、二人で出かけられないか誘ったりするかもしれません」
「二人の時間……」
「ええ。エルサの言う通り、恋は始まりですもの。その後、愛情を深めていく為にも、二人の時間は欠かせませんわ。……お嬢様は、バレナ公爵閣下のどのようなお関係になりたいのですか?」
「え! それは……」
わたくしは、レオ様を思い出す。具体的な事は、あまり考えていなかったかもしれない。胸がドキドキして、頬が少しずつ熱を帯びる。
「い、一緒に、美しいものを見て、声を掛け合ったり、美味しいものを食べたり……て、手を繋いで歩いたり」
また、カーっと熱があがる。折角治ったのに、ぶり返してしまいそう。
マーサがほほっと笑い、側に跪いてスパチュラでわたくしの手にクリームを落とし、入念に刷り込んでくれる。優しい花の香りと温もりで、気持ちが和らいでいく。マーサが、森の奥の湖の水面のように凪いだ水色の瞳でわたくしを見つめる。
「未来を見据えなさいませ。そして、まずはそのご縁を信じなさいませ」
「ご縁を信じる?」
「ええ。わたくしは、全ての出会いに、何かしらの意味があるものだと考えております。もし、公爵閣下とお嬢様の縁が必然ならば、お嬢様が何をなさろうと、その縁は続いていく筈です」
「……そうかしら?」
思わず、首を傾げてしまう。でも、だって、どうしようもなく嫌な事をされたら?
わたくしだったら、……嫌いになってしまうかもしれない。自分で考えて、またズンッと心が落ち込む。その意を汲むように、マーサはふふっと笑う。
「信じれば、心に明かりが灯ります。何事も、成就の可能性はその明かりにこそ宿ります。……それから、もしチャンスを得たなら、愛は出来るだけ小出しにゆっくりとお伝えくださいませ」
「小出しにゆっくりと?」
「ええ。できるだけ、ゆ~っくりと。それこそ、添い遂げて最期の最期に残りの一粒をお渡しするくらいのおつもりで。最初から全部与えてしまっては、面白みに欠けるでしょう?」
なるほど。これは、また深い。好きな気持ちを、ただ好きと、言葉に変えるだけではダメという事よね? わかるような、わからないような。理解するまでには、もう少し時間がかかりそう。そして、ふっと気が付いた事を尋ねる。
「あ! でも、お付き合いもしていない妙齢の男女が二人きりでお出掛けするのは、いけないわよね? 外聞が悪いのではなくて?」
マーサはふふっと笑う。もうお父様よりもずっとお年は上と聞いているけれど、本当に何歳なのか分からないほど、エレガントで洗練された美しさだ。
「そういう時こそ、我ら使用人の出番ではないですか。対外的には二人きりではないのに、お二人で気兼ねなくお話しできる空間を、幾らでも演出して差し上げますわ」
マーサ、すごい。心強すぎる。わたくしは、ハンドクリームが乾いた後、ペンを持って手帳に書き加える。
『好きな相手の事を知る』『素直な自分を伝える』『恋ははじまり』『未来を見据える』『ご縁を信じる』『愛は小出しに』『二人でお出掛け?』。
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