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11・【ロゼ視点】諦めきれない気持ち


 その後、わたくしは本当に熱を出してしまい、翌日は学院を休んだ。丁度、週末2日はお休みだったので、正味3日間休むことが出来た。ブランドンからお父様に報告が行き、お父様にご心配をおかけしてしまったけれど、通信具で話している内にそれも落ち着いたようだった。学院の事は、結局何も話さなかった。何と話してよいのかわからないし、自分で何とかしなければいけない事だと思ったから。


 一見、変わったものは何もなかった。穏やかな日常がそこにあるだけ。鍛錬も、勉強も、熱が下がったら遅れを取り戻すようにすぐに再開した。ただ変わったことと言えば、わたくしの机の上に、レオ様の手帳がある事。どんな状態で持っていたのか、ページとページはくっついて、紙はボロボロになって、ひしゃげてしまっている。花のページだけが無事だったのは、もしかしたらわたくしの魔力がほんの少し残っていたからかもしれない。


 ――……1年も何も、振られてしまったわ。そういう対象に、見れそうもない、か。

 

 手帳に触れ、レオ様の事を思う。けれど、以前の様なワクワクではなく、何と言うか……空虚。もっとこうしていたらとか、やっぱり出だしが悪かったんだわとか、色々と思いつくこともあるけれど……それでも、レオ様の言葉を思い出すと、なるようにしかならなかったのかなと最後は思い至る。食欲も湧かない。笑顔は作れるけれど、何かを語る気持ちにはなれない。そんな風にぼんやりとしたまま、わたくしは新しい週を迎え、学院に出向いた。


 

 昼食の時間、久しぶりにゆっくりとグレースとイスと食事が取れる事になった。今日はお天気も良いから外を眺めながら食べようと、構内のカフェテリアのテラス席に3人で座る。パラソルが日差しからわたくし達を守ってくれる。通り抜ける風が気持ちいい。

 わたくしは、2人の楽しいお話を聞きながらも、どこかでまたぼんやりとしてしまう。その事に気が付いたようで、グレースが心配そうに眉を顰める。


「……ロゼ。大丈夫か?」

「え? ええ。もちろん。ごめんなさい。わたくしは、全然大丈夫。ごめんね、グレース。いつも心配掛けて。イスも……ごめんなさい。先週は、ご迷惑をお掛けしてしまって」


 イスが、ふんっと鼻を鳴らす。拗ねたようにそっぽを向いて、それでも多分わたくしを気遣って、揶揄うように笑いながら言う。


「本当だよ! 君が伯父上に連れていかれた後、僕の所に一気に人が集まったんだから!」

「そうよね。本当にごめんなさい」


 そのイスの少しおどけた様子に、ふふっと(ようや)く笑みが零れる。本当に、素敵な友人達。

 

「まあ、でも、『フォンテーヌ侯爵令嬢の事情を、皇太子(ぼく)に聞いているの?』って笑って言っただけでみんな押し黙ったから、そう大変な事でもなかったよ」


 頭に絶対零度のイスの笑顔が思い浮かび、背筋に冷たい風を感じる。

 

「さ、さすがね。荷物とかは、グレースが纏めてくれたの? あの日気がついたら救護室に置かれていて……挨拶も出来ずに帰ってしまったから」


 ありがとうと言うと、グレースとイスは2人で顔を見合わせる。その事を不思議に思い、首を傾げると、今更ながらもう1つ不思議なことに気がつく。先週まで、ゆっくりと休憩を取ることが出来ない程、人が訪ねて来て声を掛けられていたのに、今日は何だかとても静か。思えば、朝から人の動きがいつもとは違った。何と言うか、無遠慮に話しかけてくるような人がいない。わたくしが首を傾げていると、イスとグレースが疑問に答えてくれる。


「伯父上だよ」

「え?」

「ロゼが倒れたって話を聞いて、私も急いでロゼのクラスに向かったんだ。それで何があったのかイスに詳しく聞いていたら、バレナ公爵閣下がいらっしゃって、ロゼが帰ることになりそうだから荷物を纏めてくれって言われたんだ」

「レオ様が……」


 わたくしは、その様子を思い浮かべる。話によると、わたくしが教室を出てから時間はあまり経っていなかったようだ。なら、レオ様はわたくしと話をした後、すぐに教室に向かわれた事になる。そして、鞄を持って帰ってきてくれていた。鞄は、救護室のベッドサイドのイスに置かれていた。丁度、レオ様が座っていた場所に……。

 

 え! じゃあ、寝顔を見られたという事!? 寝不足でくーくー眠ってしまっていた顔を!? ううん。もしかしたら、養護教諭の先生に渡してくださったのかもしれないわ。それなら良いのだけど……ど、どっちかしら? わたくしは、思わず自分の頬に両手を添え見悶える。きっと顔色は、赤かったり青かったりしていると思う。暫くそうしていると、イスがはぁと溜息を零してさらに真実を教えてくれる。

 

「ついでに、『()()()()()()()()を詳しく聞きたかったら、まずは俺の所に来い。正式に、教諭室に入る手続きを取ってな。間違っても、病人を問い詰めるようなことはするなよ』って言って教室を出て行ったんだ。もちろん。その場にいる全員が聞こえる声量でね」

「……それって」


 自分に興味を惹き付け、隠れ蓑になるように言ってくれたのだろう。何かはわからなくとも、王族の次に爵位の高い現公爵閣下と()()()()()()があるわたくしに、安易に声を掛けられなくなったのだ。『侯爵家の娘』というだけで後継にもまだ選ばれていないわたくしの声とは、比較にならない程の力を持つだろう。

イスは続ける。


「まあ、直前にロゼ自身が伯父上を擁護する事を言っていたし……みんな現公爵を相手に、さすがにまずいと思ったんだろう。暫くは静かになるんじゃないかな」

 

 わたくしが巻き起こしてしまった騒動を、レオ様が半分持ってくれた。ううん。半分以上、自分の話題に挿げ替えることで、持って行ってくれたんだ。そんな義理はないのに。グレースが、どこか嬉しそうに話す。


「本当に、お強い方なんだな。ロゼが言っていたことが、やっと理解できたよ。正直、遠くから見ても傷だらけで、微笑みもしないし、噂通りの貴族らしくない振る舞いをしているように見えて、ちょっと疑問に思っていたけど……今は違う見方ができる。心のある人なんだな」


 グレースの言葉に、思いが込み上げてくる。ズルいわ。()()()()()()に見れないなんて、あんなに冷たい声で酷い事を言っておいて、そんな風に優しくするなんて。これでは、諦めきれないじゃない。レオ様の素敵な所を垣間見て、ますます好きになってしまったじゃない。

 本当に、もう終わってしまったの? 諦めなくてはいけない? 本当に、わたくしじゃ、ダメ?


 愛と豊穣の神様。好きな方に、好きになってもらうには、どうしたらいいのかしら? 


 

 

貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。

明日から、暫く朝7時のみの配信となります。

お待たせして申し訳ありません。

いいね、ブクマ、ご感想、ありがとうございます(*T^T)

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