グッピーってかわいいね
【この世で一番好きなのものは何か、その問いに迷わず応えられるものがある人は幸せな人だ。】
社会人になって5年が経ったころ、なんとなしにペットショップを訪れた。
少し寂れた小さな店、入り口に置かれた鳥籠は空で、騒がしい街中でそこだけやけに静かな印象だった。
店内を歩く俺の姿がよほどくたびれていたのだろう、年老いた店主は俺を一目見るやある一角を顎で刺した。
記されるがままにふらふらと進み、角を曲がるとそこにはたくさんの水槽が置かれていた。
水の泡をひるがえし漂うその魚群は、小さな四角い箱の中に納められたプラネタリウムのようで、俺の廃れた心は一瞬でそれの虜になった。
どれくらいの間見ていたのだろう、気づけば見知った街中で、手にはたくさんの荷物と一つの命があった。
帰りの道中、バスに揺られながら感じる水の冷たさに躍る心が少しだけ怠い。
これからの人生の彩りにでもなってくれるというのだろうか、手中にある生きた物の重さがあまりにも軽くて、それはまるで自分で決めた自分の価値のようだった。
バスに揺られながら泡を見ていたからだろうか、下車してから歩く道はどことなくふわふわしている。
まるで水の中にいるようだ。
そういえば肩も目も、痛みがあったはずなのになんだか感覚が朧げだ。
懐に抱いた命が熱い…
あれ?
「ピヤー?(ここはどこだ?)」
えっ、てかちょっとまって、知らない人にめっちゃ見られてるんですけど。




