第7話 「塩対応」
一晩たち、またいつも通りの日常が始まる。
俺の席は窓際の1番端。日の光が心地よく差し込み、肌寒い体を優しく温めてくれる。席に着くなり、すぐに気づいた信彦が椅子を持って寄ってくる。
「おはよう!なぁなぁ、見て今日の俺の髪!めっちゃ調子良くない?」
上機嫌で頭を指差しているがあいにく俺は違いがわからない。
いつも通りのさっぱりした髪型だなとしか思えない。
「変わんねーよ。髪なんていつも同じだろ。」
「冷て。深夜はもう少し、自分とか他の人のこと気にしていいんじゃないの?」
お洒落やファッションなんて最低限しか知らない。そんな俺に髪がどうだなんて聞いたってそれは相手が悪いってもんだ。
もちろん、そんなことは信彦も分かってて言っているから気にもしていないんだろうが。
「そういえば深夜って今レベルいくつだっけ?13?」
「こないだ14なったよ。もうちょいで15行きそう。」
「うげ、はえー‥」
そう言うが、俺に言わせれば信彦の方がかなり早い。
俺は2ヶ月でようやくレベル14。ユートピアエデンは本当にレベルが上げにくいのだ。
だと言うのに、信彦は手伝っているとはいえ1ヶ月でレベル11。充分すぎるだろう。先輩としてまだまだ抜かれる訳にはいかない。
「そういえば昨日話した「???」さん。あの後、やっぱり負けたのがめちゃくちゃ悔しくなってきてさ。同じ片手剣使いにあそこまでやられて、それで話っていうのが何なのかめちゃくちゃ気になるんだよね。」
「さあ?俺はやっぱり一目惚れなんじゃないかって思うけどね。」
「真面目に答えてくれ。」
「至って真剣、大真面目だよ。他何もないだろ?」
ダメだ、他人事だと思ってふざけてる。そこまで興味ないって言うのが実際の所なんだろう。可愛い人だといいな、なんて冷やかしてくる始末。
思わず、ため息をつく。
「2人で何の話してるの?」
唐突に横から声をかけられる。凛としているが棘のある女声。
そこに立っていたのは伽耶だった。心なしか不機嫌そうな顔に見えるが気のせいだろうか。
そういえば昨日の放課後も、何故か声をかけてきたんだっけ。すっかり忘れてた。
「あー、えっと。木南さんだったよね。まともに話すのは初めてかな。」
一瞬、戸惑ったような表情を見せるが、すぐにいつもの明るい好青年フェイスで信彦が応対する。
「武田くん、だったよね。よろしく。」
やや素っ気なくはあるが、簡単な挨拶を交わす。
信彦と伽耶はまだ慣れていない。ここは俺が場を繋がないと。
「今は、『ユートピアエデン』ってゲームの話を‥してたんだよ。2人でハマっててさ、名前ぐらい伽耶も聞いた事あるだろ?」
若干たじたじになってしまったが何とか平静を装って会話する事が出来た。
しかし、それを聞いた伽耶は、明らかに嫌そうに顔をしかめる。
「ゲーム?またそんなものやってるの?そんなだからどんどん暗くなっていくのよ。」
やっぱりそうなるか。たまに会話するとなるといつもこんな調子だ。ニコニコ笑っている所なんてもう中学生以来見せてくれていない。
「‥いや、これがホント面白くてさ。毎日やっちゃっててーーー」
「興味ない。」
ばっさりと切り捨てられた。取り付く島もないって感じだ。気まずすぎる。
「まぁまぁ、その辺にしといてよ。木南さんもやってみたら?案外楽しいかもよ。」
空気が悪くなってきたのを察した信彦が、さっと間に入り自慢の爽やかな笑顔で話しかける。
「ふんっ。」
しかし、そんなフォローには目もくれず自分の席へと帰って行ってしまう。流石の信彦でもあそこまで会話する気がない伽耶を相手にするのは難しかっただろう。
席につくところまでを見送り、口を開く。
「ごめんな。本当ずっとあんな感じなんだよ。」
申し訳ない、と頭を下げるが信彦はいやいやと手を振る。
「あれはしゃーない。木南さん、顔可愛いのに結構性格キツいんだな。聞いてた印象通りって感じだ。」
「たまに話しかけてきたと思ったらあんな感じでさ‥俺なんかしたか?って感じなんだけど。」
昔はこんな感じじゃなかったんだけどなぁと頭を掻く。
もう少し会話がちゃんと成立してたはずなのに、上手くいかないもんだ。なんか怒ってるっぽいし。
「でも話しかけてきてくれてるって事は本当はそこまで嫌われてないんじゃねーの?さっきだって向こうから来てたし。」
遠くに座っている伽耶の肩が、ビクンッと跳ねる。
「まさか。さっきの見ただろ?ありえないって。」
嫌ってもない相手にまさかあんな態度は取らないだろう。話しかけてきたのだって鬱憤が溜まってたとかそんな当てつけのような理由だろう。
でもないと、そんな人付き合いを悪くするような不器用なやり方。する人なんていないはずなのだから。
そうか〜?とまだ納得が行ききっていない信彦を横目に伽耶を眺める。
綺麗な金髪ショートカット。机に頬杖をつき黒板を眺めている。いつか怒っている理由はちゃんと聞けるのだろうか。




