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『青春はゲームじゃない』  作者: いろは菓子
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49話 「胸の内」

 一体あの人はどこに行ったんだ。

 はてな先輩が、あんなに暗くなり何も言わずに行ってしまうなんて初めての事だ。

 どんなことを考えていたのか。表情も何も読み取れないがただ事ではない。


 どこにいるのかと探して回ると、意外とすぐに見つけることができた。いつもの草原で腰を下ろしている後ろ姿を発見する。


「はてな先輩。」


 その姿に声をかける。


「‥‥‥」


 何の返事も返ってこない。

 仕方ないから近づき、俺も隣に腰を下ろす。


 はてな先輩は今どんな気持ちなんだろう。やっぱり怒っているだろうか。

 任された仕事すら満足にこなせない不出来な仲間に嫌気がさしている、とかだろうか。

 はてな先輩はずば抜けている。それは間違いない、のに負けたのだから悪いのは俺だ。


「ごめんなさい。」


 謝罪を口にする事しか出来ない。

 自分でも自分の動きに納得出来ていない。だと言うなら、はてな先輩なんてもっと言いたい事や思うことがあるだろう。

 この謝罪には色々な気持ちがこもっている。自分自身に向けた戒めとか。


「‥別に、謝られるような事は何もないよ。」


「――じゃあ、何でそんなに暗いんですか。」


「‥‥‥」


「やっぱり怒ってますか?」


 その質問に、はてな先輩はぎゅっと体を縮こまらせる。肌が隠れ完全に真っ黒な団子になったようだ。


「怒ってる訳じゃない‥‥‥いや、やっぱりちょっと嘘かも。自分にも皆にもちょっと当たりたくなってる。」


 その声にはいつもの元気さは感じられない。でも、当たりたくなっているという割には不機嫌さも感じない。どちらかと言うと――。


「やっぱり怒ってるじゃないですか。」


「私、このゲームで負けた事なかったんだ。自慢って訳じゃないんだけどそれで自信を持ってたっていう部分もあって。」


 本当に負けてなかったんだな。

 そうなんじゃないかとは思っていたが、本当に天才だった訳だ。


「でも、決勝では‥初めて負けた。一人で何でも出来ると思ってた自分に凄く嫌気がさす。手が届かない事がこんなに悔しいなんて思わなかった。」


 手が届かない。その言葉に、俺が死ぬ瞬間にこちらへと手を伸ばしていたはてな先輩の姿が思い出される。

 あの時、そんなことを感じていたのか。


 今まで大抵の事はセンスと努力でどうにかなってきたのだろう。


「でも、そんな事ないです。はてな先輩以外じゃあんなにいい勝負にすらならなかった。悪いのは俺で‥俺がもっと力があればきっと‥。」


「そんな事ない。私は一人で完結してると思っていたただの独りよがりなナルシストだよ。」


 どうしてそんなに自分を責めるんだ。あんなに苦しい状況であそこまで動ける人が他に誰がいるって言うんだ。

 そんな事ない、と声を大にして言いたいが、声に出せない。


「それにね、クロ君にも怒ってる。」


「はい。」


 当たり前だ。あんな無様だったのだから。

 でも、その内容は思っていたものとは少し違った。


「リョーマからあんな風に穴だって馬鹿にされて、悔しくなかったの?」


「‥‥っ!悔しいに決まってるじゃないですか。」


 どうしてそんな質問をするんだ。

 悔しい、悔しいに決まっている。少し回復してきていた所だったが試合後の無力さが思い出される。


「だったら、どうして負けたの。あんなに簡単に。」


「俺だって‥‥。」


 でも言葉が続かない。

 簡単に負けたなんて思っていない。頭に血が上ったのはあるが、それでも真剣にやった事は断言出来る。手なんて抜いていない。

 だが、それでも結果が全て。あっさりやられたと言えばその通りだ。


 でも、それをそんな言い方するなんて――。


「――クロ君が穴じゃないなんて事は私が良くわかってる。だって私のコンビなんだよ?私が一番最初に誘ったメンバーで、凄い才能がある。」


「はてな先輩‥。」


 俺は凡。そうはっきり言われたというのに、否定してくれるのか。

 嬉しいし、凡でありたくないというのは勿論思っている。だが、それなら。凡でないというのならもっと力があったんじゃないか。


「見返して欲しかった。私の認めた才能はこんなもんじゃないって伝えたかった。八つ当たりなのは分かってる!でも!」


「負けてほしくなかったっ‥‥‥!」


 胸が締め付けられる。

 ただ単純に俺が負けた、弱い事に怒っている訳じゃない。

 俺なんかに対して釣り合わないほどの信頼を寄せてくれていたのが、本当に心苦しい。

 そして、その信頼を裏切った事。それに胸が悲鳴をあげている。


 八つ当たりだと、そう言い捨てないでほしい。

 俺が強ければそれでよかっただけの話だ。


「ごめんなさい。俺が弱かったばかりに、あんな姿を見せてしまって。でも、もう負けたくない。―――そのために俺のことをもっと鍛えてはくれませんか?」


「鍛える?」


 はてな先輩が顔を上げる。


「そうです。あんな負け方はしたくない。はてな先輩みたく強くなりたい。」


 はてな先輩に甘えているだけじゃダメだと改めて気づいたんだ。














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