第4話 「対人戦」
視界に、対戦相手が見つかりました。とのシステム通知が流れ、カウントダウンが5、4と進んでいく。
このゲームの人口はおよそ国内で300万人規模。これだけの人数がいることもあり、全くストレスのないマッチング速度だ。
カウントダウンが0になった瞬間、転送が始まり視界が切り替わる。
『 クロ vs ユーリ 』
プレイヤー名と、相手の武器アイコンが表示された画面が映し出される。
俺の武器は腰につけた短剣。スピード重視の接近戦タイプだ。
相手の武器も剣。ただし、少し長い。どちらかといえば刀とかそっち寄りなのかな。
そんな事を考えているうちに転送が完了する。
今回の1v1の闘技場ステージは至ってシンプル。
所々、丘になって凸凹としているが、基本何もない岩場のステージ。
木や草がない分、隠れてやり過ごすような事は難しいだろう。
広さも2人だけと言うこともあってそれほど広くない。大体、陸上トラック1個分程度だろうか。
『まもなく開始されます。』
そう告げる機械アナウンスの声と同時にまたカウントダウンが始まる。
毎回のスタート位置はランダムだが、一定の距離を置いてスポーンすることになっている。
今回は既に、目線の先の丘上に対戦相手と思われる女性プレイヤーが立っているのが見える。
3、2、1、0!!
0と流れ終わった瞬間に、体を縛っていた拘束感がなくなり、新たに10分のタイマーがスタートする。
勝利条件は、この10分の間に相手のHPを0にするか、10分経過時点で残っているHP%の多い方が勝利となる。
つまり、ただ逃げ回っているだけじゃ勝てないってことだ。
目線は相手のプレイヤーから外さぬまま、体をポキポキと鳴らす。
「よし、やるか!」
今回は、相手の武器が遠距離攻撃じゃないってのはもうわかってる。
だとすると、やはり接近戦しかない!
相手も考えていることは一緒らしく丘を下り、こちらに真っ直ぐ走ってきている。
深夜も、足にグッと力を込め、一気に解放しいきなりトップスピードで飛び出す。
お互いの距離がぐんぐんと近まり、そのままステージ中央の更地で剣同士が高い金属音を立てぶつかる。
相手の武器はやはり長剣。こちらと同じく、初期装備で配布された武器の一つだろう。
遠目からでは分からなかったが胴には鉄のチェストプレートを装備している。
このまま組み合っているだけでは、埒が開かないと、お互いに後ろに飛び距離を取る。
落ち着いて呼吸を整え、相手を観察する。
相手が防具をつけているのに対し、俺は何もつけていない。
当たったら、大ダメージは免れないがその分こっちには身軽さのアドバンテージがある。
加えて、俺の職業。盗賊は移動速度6%上昇のバフがある。
素早さでは分があると思っていいだろう。
大丈夫。落ち着いて見切れば怖くない。
相手は自分から動いてくる気はなさそうだ。突っ込んで来た所を返り討ちにするつもりだろう。
でも、それが分かっていても俺なら正面から突破できる!
唐突に相手に向かって突進する。距離が空いているため少し気を緩めていたのだろう。
相手が、うっと少し怯むような表情を見せたのがわかる。しかし、すぐに気を取り戻し突進する俺に合わせてドンピシャで刀を振ってくる。
でも、そんなの予想済みなんだよ!
刀の間合い、一歩手前で急ブレーキ。わずか目の前を刀が通り抜ける。
初撃をかわした。体勢を崩したところに一気に踏み込む。
ただ、相手も黙って見ている訳はない。
しっかり下から切り上げで合わせてこようとする。
でも、そんな体勢から出した半端な攻撃に当たるほど、俺も鈍くはない。
少し体をひねるだけで簡単にかわせる。
今度こそ本当に目の前。
手に持った短剣を流れるように相手の喉元へと突き出す。
ザクッッ!
確かな手応えと共に、相手の力が抜けるのがわかる。だが、まだ終わりじゃない。
油断することなく押し込む。
すると、相手の頭上に表示されたHPバーが一気に減っていき、緑から黄色。赤へと変化しついには何も残らなくなった。
「ふぅ‥」
剣を抜くと相手が崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
と、同時に視界にWin!!と大きく表示される。
パッパラパーという軽快な音楽と共に体から力を抜く。
これだよこれ!!この手に汗握る臨場感!
一発でも相手の攻撃を喰らっていればこんなに上手くいきはしなかっただろう。
圧倒的反射と間合い管理。この二つがあったからこそ勝てたのだ。
やっぱりめっちゃ面白い、このゲーム!!
この調子でもっと練習しようか。
「再戦、再戦っと!」
コンソールを操作し、操作を進める。
ホント、最高に楽しい神ゲーだ!