44話 「完璧な一撃」
ツキノは、仲間が戦っている様子を高台である岩場から伺って居た。
幸い中央は、開けておりよく見える。まだ何も手出ししていないため、狩人という自分の気配が薄くなる職業も相まり存在を気づかれてはいない。
気づかれる前の最初の奇襲が肝心なのだがどう手を出したものか、そのタイミングに悩んでいた。
「状況はあんまり良くないみたいですね‥‥」
見下ろす先で行われている戦闘に、そう焦りの声を漏らした。
まず、はてなさんとクロ先輩。この二人は、良くやっているとは思うが相手が悪い。はてなさんはまだ戦えているのだが、クロ先輩があの戦場では全体に比べ一歩劣る。
エトと切り結んでいるが実力の差でじわじわと押されている。
そこをはてなさんがカバーして何とか現状維持にとどめている状況だ。はてなさんとて、リョーマの相手という役目をこなしている。いつ瓦解してもおかしくない。
あのリョーマとエトとかいう二人。かなりの実力者だ。単体だけで見れば、まだはてなさんの方が動きのキレはあるが連携力という点で大きく差をつけられている。
私が援護してもいいが、いかんせん動きが早い。
この距離で偏差を意識して確実に初弾を当てるとなると、相当な難易度になるし、恐らくあのリョーマという男。狙撃もちゃんと後悔していることだろう。
無闇に仕掛けるのは得策でない。
ならば、もう一方の戦場。こちらも状況はよろしくない。
大盾を構えたタンク。見た目の割には俊敏な動きで、銀髪の剣士と連動する動きをしている。
サヤさんと彦丸さんも才能があって相当に強いのは間違いないのだが、それでも年季の差がある。守るだけなら大丈夫かもしれないがあの盾を突破するには火力不足のようだ。
何とか凌いでいるようだがジリ貧だ。
援護するならこっちだな。いくらか手を出しやすい。
『彦丸、サヤ。聞こえる?私から狙いやすい位置にどっちか足止めしてくれる?最初の一発が勝負だから、確実に当てたい。』
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『彦丸、サヤ。聞こえる?私から狙いやすい位置にどっちか足止めしてくれる?最初の一発が勝負だから、確実に当てたい。』
時間稼ぎに限界を感じていた信彦の脳内に救いの手とも言えるツキノの声が差し伸べられた。
そうだ、こっちにはツキノもいるんだ。どうやって攻撃を当てたらいいか、思案していたが状況を変える一手になるかもしれない。
『『聞こえてます!』』
信彦と伽耶の返事が重なる。
『助かる!俺達だけじゃどうしたらいいか分からなかった。ツキノが援護しやすい位置に連れてく!』
そう言ってマップを開き、位置関係を把握する。ツキノの位置は俺達の左斜め後ろか。
そちらの方向に背を向かせて固定するのが1番の理想。口でいうのは簡単だが、それも簡単ではない。
どちらの方が連れて行きやすいだろうか。
『彦丸、私の魔法でトオルさんの位置は調整するからラストのその場に縛る役目はお願いできる?シオンさんを狙うよりは簡単だと思うんだけど。』
確かに言う通りかもな。シオンは身軽だ。ぴょんぴょんとトオルの周りを飛び回っているのを狙うよりはその方が楽だろう。
『了解、合わせる!』
無言で言葉を交わし、作戦を実行する。
サヤの詠唱に合わせ無数の水刃が虚空に出現する。一つ一つの威力は大した事はないが複数当たれば充分な致命傷。
それが牙を剥き一斉に襲い掛かる。
信彦は頭をフル回転させていた。
トオルの位置を誘導する簡単な方法。ただ純粋に攻撃してもその場で器用に盾を使われて終わりだ。ならばどうするか。
防御能力の低いシオンを攻撃し、そのカバーに入らせる!
予想通り、迫る水刃をシオンの前に立ち塞がる事によって代わりに受け止める。だが、その位置はまだツキノから狙いやすい方向とは言えない。盾の向きを変えさせる!
水刃と入れ替わるように信彦が飛び込み、回り込むように裏を取る。
タンクとして一番されて嫌な事を考えた。
俺が今まで辛いと思った場面。それは冥王ハデスとの戦闘で俺一人では受けられなかったあの3本の巨大な氷柱による攻撃。
あの時は俺一人では受けきれずに結果としてみんなの手を借りる事になってしまった。タンクとして恥ずかしいことだ。
あの場面、単純な物量もそうだがそれ以上にきつかったのは―――複数射線。いくら優れた人間でも同時に複数の方向を対処する事はできない。その状況を作り出せればこの人の圧倒的防御力でも対応出来ないだろ!
横をとり斬りかかるが、そうはさせまいとシオンが信彦に反撃を仕掛ける。
「させないっ!」
が、光線が二人の間を駆け抜けシオンを後退させる。
ナイス木南さん!完璧だ。
その援護も相まり、ようやくトオルへと剣が届くがその一撃は金属音とともに大盾に受けられる。
だが、全ては予定通り。位置の調整は完璧。ツキノに背中を向ける形を作れた!
『どーん。』
囁くようなやる気のないツキノの掛け声。
そんな声と共にツキノの弓から限界まで引き絞られた矢が流星の如くトオル目掛け真っ直ぐに放たれる。
それは風を切り完璧な軌道で綺麗な放物線を描く。そのままトオルの背中へと突き刺さる―――否、その半ばで敵側の森から放たれた炎龍に飲み込まれ焼け落ちる。
信彦は何が起きたのか、理解できていなかった。
作戦はこれ以上ないほど完璧に決まった。こちらに向け矢が飛んで来ていたのも見えたはずなのに一体何が――。
「危なかったね、私に感謝してよ?それと――みっけ。」
そう言って、敵側の森から姿を現したのは、桃髪のショートカットの魔術師。彼女はその視線をツキノのいる高台へと向ける。
ツキノは彼女と目が合った瞬間、自分が釣られた事を完全に理解した。
彼女は、ずっと私が動くタイミングを伺っていたのだ。魔術師にとって一番怖いのは詠唱中を狙われる事。だから私の場所が分かるまで身を隠していたのか。
奇襲が失敗した以上前の状況は芳しくない。すぐに立て直さないと。
『後ろに撤退してください!これ以上は無理です!』
そう信彦と伽耶に指示を出し、くっと歯を食いしばった。




