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『青春はゲームじゃない』  作者: いろは菓子
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40話 「準決勝」

 鋼の打ち合う剣戟の音が森に響く。

 穏やかな森からは到底聞こえなそうな物騒な音。カンキン、と硬いものを叩いたような音も混じっている。

 それも、一つでない。複数の人間が戦っているのだ。


「やっぱり‥!結構やりますね。」


 そのうちの戦場の一つ。

 深夜は見合っていた眼鏡の男にそう、素直な感想を送った。


 戦い初めてしばらく経ったが、守りに徹する男を未だに崩せないでいたのだ。

 この動きは、相手もマジシャンにバフを貰ってるんだろう。攻める気がなく時間稼ぎに徹されているとは言え、人数で押せば崩せるかと思っていたのだ。


 かと思っていたのに、こうも見事に凌がれるとは。思わず称賛の言葉を送りたくなる。


 信彦の方もこちらと大差ない様子のようだ。長身の美男子に苦戦しているらしい。


「そう言われると嬉しいよ。でも、君たちも相当強い。気は抜いていられないな。」


 眼鏡の男は、クイッと眼鏡をあげ、でも油断なくこちらを観察している。

 大した事ないと侮ってくれれば、付け入る隙もあったかも知れないのに。つくづくやりにくいな。


 さぁ、ここからだ。どうやって突破しようか。俺だけの力じゃこの人の守りを崩すのはしんどい。斬り込んでも後ろに下がっていなされるし捉えきれない。変化をつけていかないとな。


 こちらの有利はやっぱりこの場での人数有利だ。伽耶をうまく活かせればこの状況も好転するはず。


『伽耶。』


『クロ?どうしたの?』


『協力して欲しい。二人で一緒にこの人を突破しよう。』


『こっちは大丈夫だから、そっちをさっさと終わらせてくれ!』


 信彦も会話に参加してきた。

 今、伽耶は俺と信彦の戦場両方に干渉してどちらでも有利を作ってくれていた。ただその分活躍も半分だったし、集中してくれればこの現状も変わるはずだ。


『分かった。彦丸、頑張ってね。ただクロ。あんまり張り付いてると魔法に当たっちゃう。何か作戦はあるの?』


 確かに今までの伽耶のカバーは俺たちのバフか一息ついたタイミングでの攻撃魔法だった。


 後ろからカバーする伽耶からすれば俺に当たらないよう狙いをつけるのも一苦労なのだろう。作戦、作戦か。



 あれをやるか。


『ちょっと試したい事があるんだけど―――」


『――なるほどね。分かった、やってみる。』


 よし、作戦開始だ。

 剣を構え直した深夜に、一層警戒を強めるように敵が腰を落とす。


 スタートの合図は何もない。ただの感覚。何をきっかけにすることもなく流れに乗って斬りかかる。


 だが、そんな突発的な突撃もしっかりと警戒されていたのだろう。反応され、受け止められる。でも、それぐらいで諦めてられない。


 受け止められた短剣を勢いよく引き戻し、防御の空いた脇腹へと突き出す。が、そんな攻撃も剣が割り込み直撃に至らぬよううけながされる。


 でも止まらない。どんどんスピードと鋭さを上げていき、それに伴い鳴り響く金属音も激しくなっていく。

 次々に追撃を仕掛けるが全てに上手いこと対応される。この人との実力は大して違わない。

 だというのに攻めきれないこの差は、単純に守りに専念していることの差だろう。


 だが、ここまではさっきと同じ。このタイミングで!


『スイッチ!』


 脳内でそう叫んだ瞬間、真後ろから殺気を感じる。でも、まだ。

 引きつけて引きつけて注意を俺へと向けさせる。


 出来る限り引き伸ばし、ギリギリ限界かという直感で真横に飛ぶ。

 ベストタイミング!それと入れ替わりのように細かい氷柱が敵に突き刺さる。


「うわっ!」


 よし!上手くハマった!

 タイミングをボイスでうまく合わせてのスイッチだったがバッチリだったようだ。


 だが、まだ仕留め切れる所までは行けていない。HPを大きく削っただけだ。畳み掛ける!


 突然の攻撃に驚き、体勢を崩しているところにさらに追撃をかける。体重をかけるような踏み込んだ一撃。崩れた体勢をさらに押し込む。


「くっ‥!」


 仰向けに倒れ込むような形で沈めこめる。

 その体勢からじゃ避けられないだろ!


 胸に向かって、半ば投げるような形で短剣を突き立てる。


 ザクっという手応えで何か大事なものを破壊した感触が手に伝わる。たまらず、眼鏡の男はうめき声をあげる。でももう遅い。既に決着はついたのだ。


 HPが0となり、その体から力が抜ける。

 よし、連携が上手くハマった。スイッチして攻撃。単純ではあるが、脳内でタイミングを取れば相手からは読みようがなかっただろう。

 人数有利を上手く活かせた形になった。狙い通りだ。


『ナイスサヤ!完璧なタイミング!』


『当たるかとヒヤヒヤしたわよ。でもナイス。』


 さて、ここは終わった。どこを助けに行くか。


 信彦のカバーに向かってもいいが、ただそれだと、はてな先輩がやばいよな。いい加減時間が経ち過ぎている気もする。

 今どんな状況なんだ。


「早くはてな先輩を助けないと――――!」


 ようやく足止めを突破し、フリーになれた。カバーに向かい――、予想外の光景に足が止まる。


 あれ??


 ‥見間違い、か?


 俺の目が正しければ2対1だったはずなんだけど、どうしてはてな先輩だけが立っているんだ??

 何かの間違いかと思ったが、その足元には敵らしき人が二人転がっている。


 どうなってるんだこの人。2対1をまさか返したのか?

 俺達は人数を使って勝ったっていうのにはてな先輩は個人技だけでそれを覆したっていうのか。


 もう、呆れしか出てこない。


「あれ、クロ君じゃん。やっ!」


 こちらに気づき、よっと手をあげてくれる。いや、やっじゃないが?自分の異常性に気づいてくれ。


「―――クッソ。バケモンが。」


 どうやらまだ息があったらしい。地面に転がっていた大柄な男が恨み言を口にする。だが、起きあがろうとする様子はない。

 もうそんな力も残っていないのだろう。


「だから言ったでしょ?あなたたち二人じゃ役不足だって。私は主人公体質なんだ。ドンマイ!」


 主人公体質だなんて、煽るような口調ではあるが、圧倒的有利な状況で負けたのだ。大柄な男は何も言い返す事が出来ずただ下唇を噛むことしか出来ない。


 会話が終わったのを確認し、背中に剣を突き立て今度こそHPを0にする。


 可哀想にと同情するがこれは相手が悪過ぎた。自信を喪失したりしていないといいが。


「ふふ、ちょっと張り切りすぎちゃった。クロ君達は助けに来てくれたんだよね?ありがとう、でももう大丈夫だよ。」


「はてなさん、一人で充分じゃないですか‥」


 伽耶も愕然とした様子でそう呟く。俺も全く同じ気持ちだ。バケモンという表現もあながち間違いでないかもしれない。


 対策して人数をかけてきたのにこれでダメならもうどうしたらいいんだ。蓋を開けてみれば余裕勝ちって所だったんだな。


『こっちも終わりました。合流します。』


 短い報告。完全に任せっきりだったが立花さんもどうやら勝ったらしい。


 しっかりと勝ってきてくれるあたり、やっぱり安定感が素晴らしい。これで総合四人撃破。ラスト一人は信彦の相手だ。


 長身の美男子は自分の状況を完全に理解したらしい。

 諦めたように吐息し、降参というように武器を捨て手を上げる。


『これにて準決勝、決着!降参により「???と愉快な仲間達」チームの勝利です!』


 そう宣言され、準決勝は幕を降ろした。







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