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『青春はゲームじゃない』  作者: いろは菓子
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36話 「フランダル」

 耳元で風を切る音がうるさい。スピードに乗った体で、足元の草を踏みつけながら、どんどんと奥へと進んでいく。


『あーあー。聞こえますか?』


 頭の中に直接響くような声。これ、立花さんの声か?

 パーティーボイスで連絡を取るって言ってたが、なるほど。離れた距離で相手に聞かれず会話出来るのは便利だな。


 使い方を教えられたわけでは無いが何となく使い方が分かる。頭の中で伝えたい言葉を念じるのだ。それで会話ができる。


『聞こえてるよ。』


『良かった。それじゃ、私から見えてる情報共有しますね。敵の拠点に残ってるのは3人。装備から見て1人が魔術師。他2人はアタッカーってとこですかね。恐らく相手も2人で中央を取りに来てます。敵が見えた瞬間破壊しちゃって大丈夫です。』


 破壊して大丈夫って‥。指示が物騒だなおい。でも良かった。2対2なら互角の戦いができるな。


『『了解!!』』


 俺とはてな先輩の返事が重なる。


 そのまま走る事少し。森一色だった視界が開け明らかに人工物である無気質な塔が姿を表す。


 先が尖っており、大きさは3メートルほどの何の変哲もない塔。


 これがバフ拠点か。結構分かりやすいようになってるんだな。


 その塔を挟むように反対側に、2人の人影が見える。

 こちらが気づいたのと同時に向こうも気づいたらしい。すぐに臨戦体制へと入るが、動きが遅い。剣を構えると同時にはてな先輩の剣が走る。


「かっ‥‥!!」


 声を発することも出来ず、1人が喉元を掻き切られる。

 相方の女性魔術師は味方が瞬殺されたのを目を見開いて一瞬遅れて理解する。

 すぐにはてな先輩に向けて杖を構えるが、それは俺がさせない。杖を構えた手を斬り裂き、ガラ空きの胴に剣を這わせる。派手にヒットエフェクトが飛び出し、あっという間に二人撃破。中央の戦闘が終了する。

 相手チームは、きっと混乱していることだろう。


 あまりにも一瞬。戦闘時間は5秒ほどだろうか。

 その僅かな時間で殲滅してみせた。


 すると、タイミングよくまた頭の中に声が響く。


『バフを確保したら、彦丸達も向かわせてますが、2人でそのまま敵拠点まで制圧しちゃってください。きっと大丈夫です。』


 きっとどこかで見ているんだろうな。


 バフ拠点である塔に目をやれば確かに、下の部分が吹き抜けになっており、その中には透明なクリスタルが同じようにふわふわと浮かんでいる。


 これを確保すればいいのか。


 手をかざせば、拠点のものと同じく赤い輝きを放ち始めた。どうやらこれで確保できたということらしい。


 そこからは本当に一瞬だった。はてな先輩が拠点に残った敵を一瞬で皆殺しにしてしまったのだ。

 いや、強い強いとは思っていたけどここまで差があるとは。


 決着までわずか数分足らず。スピード感が半端なかった。


 合流した信彦達も若干引いていた。


「うわぁ‥‥こりゃひどい。」


 2人だけで相手を壊滅させたのだ。そんな感想を言われるのも仕方ないか。


 相手拠点にふわふわと浮かんでいる青いクリスタルへとはてな先輩が手をかざす。

 すると、画面が切り替わりWIN!!と大きく表示される。

 これで初戦突破ってことか。あっけなかったな。




 元いた広場へと全員戻ってくる。

 会場は相変わらずざわざわと騒がしく、心なしか俺たちを見ている視線が多い気がする。気のせいか?


「みんなナイス!!超気持ちよかった!」


「俺達何もしてないですよ‥。速攻二人で終わらせてるんだから。次は仕事くださいよ?」


 満足気な美雨に信彦が冗談混じりに皮肉を言う。初戦があれじゃ、消化不良もいいとこなんだろうな。伽耶も立花さんも何もしていない。俺達だけで完結していた。


 いや、情報は出してもらっていたか。


「このチームは相当強いので、自信持っていいです。私が保証します。」


 立花さんからも太鼓判を押された。今どの辺りなんだろうと思っていたが、経験者からそう言われるのなら悪く無いんじゃ無いだろうか。

 正直この先も今みたいな試合なら負ける気がしない。


 これは本気で優勝も狙えるんじゃないか?


 そんな自信も湧いてきた時――。


「――よぉ、さっきの試合見てたぜ。ふざけた名前のくせに結構やるじゃないか。」


 全く知らない、男の声が突然背後からかけられビクッと反応してしまう。

 誰だ?初めて聞く声だ。


 振り返るとそこに立っていたのは俺たちよりも一回りほど年齢層が高そうな5人組が立っていた。

 大学生、だろうか?顔立ちからそんな気がする。


 声をかけてきたのは、その真ん中の赤髪の男。恐らくリーダー的な存在何だろうと直感する。


「誰、ですか?」


 そう問うとおっと、といった風に驚きを見せる。


「俺の名前は、リョーマ。俺達のチームはフランダルって言うんだけど聞いたことねーかな?一応本戦にも出てたりするんだけど、まだまだ知名度が足りないか。」


 あいにくだが俺は聞いた事がない。知ってるかもしれないと思い、みんなに視線で確認を取るが誰も知らないというように首を振る。

 本戦といえば、恐らく半周年記念の事だろう。それで本戦まで進んだチームってことはかなりの強豪なんだな。


「そんなチームの人が私達に何の用ですか?」


 そのはてな先輩の問いに、なんてことは無いと返す。


「言ったろ?さっきの試合を見てたって。あんな一方的に蹂躙するような腕を持った奴がこの大会に出てるんだなと思って声をかけてみただけだよ。会場も凄い盛り上がってたんだぜ?」


「そんな事が‥」


 リョーマがいうように、確かに俺たちを見る目が多いのは気のせいじゃないようだ。あの動きで目立ってるのか。

 確かにあり得ない話じゃない。鮮やかすぎる手並だった。


「そろそろ行こう、リョーマ。私達も試合が始まる。」


「あぁ、そうだなエト。それじゃ、どこかで当たるのを楽しみにしてるぜ。」


 エトと呼ばれた青髪の女性に言われ、リョーマは手を振って去っていった。敵情視察って事だったのか?


 突然来てすぐ去っていったが、そんな風に注目される程って事か。


 本戦出場経験があるというのなら滅多な相手には負けないだろう。勝ち続けていればそのうち当たるかもしれない。

 フランダル。覚えておくか。


「私達、ちょっと目立ってるみたいだね。」


 周りの目を気にし、少し恥ずかしそうに伽耶がそう言う。


「堂々としてたらいいんだよ。印象は強烈に越した事ない。」


 それに比べ、ツキノの態度は堂々としたものだ。本当はあんな恥ずかしがりやだっていうのに、ここまでギャップがあるなんて誰も思っていないだろう。


「えへへ、次も楽しみだね。」


 そう言って笑うはてな先輩はきっと物凄くいい笑顔なんだろうな。そのフードの奥をもう一度見てみたくなった。











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