第29話 「5人目」
「はてなさん、まだかな。」
サヤがそわそわとした様子で、椅子に座ってキョロキョロと周りを見回す。
「そろそろ来るんじゃね?向こうも待ち合わせしてるんだろうし気長に待ってようぜ。」
彦丸がなだめるように言い聞かせる。それを聞き、それもそうかと落ち着きを取り戻すサヤ。
俺たちは、5人目を紹介する、というはてな先輩によって集められていた。そういえばはてな先輩はこういう集まり時の時は、大体最後に来ている気がする。
はてな先輩はいつも時間通りだしこっちが早いだけなんだけどな。
「それにしても、どんな人なんだろうな。遠距離職がいいって話だったからそっち系の人だとは思うんだけど、全く何も聞いてないや。クロは何か知らねーの?」
信彦が5人目の情報を訪ねてくるがあいにく俺も何も聞かされていない。
「いや、全く?5人目の候補を見つけたってぐらい。」
「手がかりなしって事か。変な人じゃないといいな。」
信彦は手を頭の後ろで組み、空を見上げる。俺も全く同意見だ。変な人じゃなければ、それでいい。仲良くもなれるだろう。
「私達、今前衛3人に後衛の私が1人でしょ?それに加えてかなり脳筋な構成だからね。はてなさんとクロはとにかく突っ込んで荒らすって感じだし。信彦は私のカバーもしてくれるけど中々の戦闘狂でしょ?もう1人ぐらいバランスを取ってくれる人が来てくれるといいな。」
サヤ、かなりしっかり考えてるんだな。確かに今ははてな先輩が破壊してくれるって感じで、かなり頼っている感は否めない。これに加えてもう1人もアタッカーをするってなったらもうアタッカーは飽和状態だ。
おっしゃる通りで、もう1人ぐらい遠距離の人がいればかなり助かるんだろうな。素人ながらにそう思う。ラストの1人が楽しみだ。
5分ほど待っただろうか。ようやくはてな先輩が姿を見せた。
「ごめんねみんな!ちょっと遅くなっちゃった!」
若干息を切らしているのがわかる。急いで来たんだろう。
「そんな焦らなくても大丈夫ですよ。こっちは揃ってます。」
安心したように胸を撫で下ろすはてな先輩。
「良かった。迎えに行ってたんだけど思ったより時間がギリギリになっちゃってね。」
「じゃあ、今日は言ってた通り5人目を紹介するね。こっちおいで。」
そう言って、はてな先輩はちょいちょいと木陰に手招きする。その木陰から出てきたのは、小柄な女の子。
緑色の髪にはてな先輩よりもさらに小柄な体。でも、そんな小さな体に似合わず目ははっきりと強い意志を宿している。第一印象は、そんなところだろうか。本当にこの子をはてな先輩が誘ってきたのだろうか?
「紹介するね。こちら、弓使いのツキノちゃん!元々は「秋月の狼」ってパーティーにいたらしいんだけど訳あって解散するらしいからスカウトしてきました!みんな仲良くね!」
なるほど。紹介の通りその背中には弓と矢筒が背負われている。こんなに細く小さな体で弓が引けるのか心配になる。
ツキノさんね。どこかでそんな名前を聞いた気もするが、どこだったか。思い出せない。
「あれ?秋月の狼って俺なんか知ってるような‥?確か‥‥半周年イベント出てなかった?」
彦丸が頭をひねる。それに対し、ようやくツキノが口を開く。
「出てましたよ。結果はベスト16でしたけど。あとはてなさん、入るって決めた訳じゃないですから。話だけでもって言うから来たんです。強くない所には入る気ありません。」
初めて聞いたツキノの声は想像していた通り子供のような声ではあったが、その口調には棘があった。気が強いタイプなのか?
すかさずはてな先輩が間に入る。
「うんうん、ごめんね。彦丸君の言ったとおり、ツキノちゃんはこう見えて、元々上位パーティーの1人だったの。だから、実力とかは心配しないで大丈夫!凄く頑張って話だけでもって事で来てもらったんだ。」
「こう見えてってなんですか‥」
はてな先輩の説明にツキノが小さくぼやく。自分の容姿にはちょっと思うところがあるのかもしれない。ギリギリ聞こえるかと言った程度だ。
にしても、上位パーティーの人を連れて来れるとは思ってなかった。俺達のパーティーは、はてな先輩以外、このゲームに関する知識が薄いと言っていい。彦丸は大会を見たりしてるようだから俺よりはマシだろうけど、サヤはまだこの間始めたばかり。
そんな俺達のパーティーに経験者が来てくれるなんて心強い事この上ない。入ってくれるかどうかはまた一悶着ありそうな雰囲気ではあるが。
「ベスト16って言っても本戦出てるだけ超凄いじゃないですか!俺は彦丸って言います!よろしくツキノちゃん!」
「よ、よろしく‥」
テンション高く褒めたてる彦丸に少し引き気味な様子で挨拶を返す。褒められた事自体は満更でもなさそうだがこんなグイグイ来られるのは慣れていないんだろうな。
「俺はクロ。クロって呼んで下さい。短剣使いのアタッカーで‥好きな事は、なんだろう。ゲームかな。よろしくお願いします。」
頭を下げる。その後に、サヤも続く。
「私はサヤって言います。一応、魔術師でみんなのサポート的な事をしたりもしてます!同じ女の子同士よろしくね!」
「よろしくお願いします。」
ツキノはしっかりと頭を下げてくれる。あんまり来るのに乗り気じゃなかったのかなとも思ったがそう言うわけじゃないんだな。口数は少ないがちゃんとコミュニケーションを取ろうとしてくれているのが伝わってくる。
「じゃあ、私も改めて!このパーティーの一応リーダー的な役割やらせてもらってます!」
はてな先輩が締めるようにこちらの自己紹介を終える。
「ツキノちゃんからも何かどうぞ!」
それを聞き、ツキノは落ち着くように一息つき話し始める。
「初めまして。ツキノと言います。さっき説明して頂いた通り、前は秋月の狼というパーティーで狙撃手を務めていました。よろしくお願いします。」
最低限の内容だが、はっきりとそう言い切って見せたツキノ。堂々としてて物怖じしている様子がない。何歳なんだろうか。歳下に見えるが中の人は結構大人なんだろうか。
なにはともあれ、これで一通りお互いの情報が分かった。この人が5人目になってくれるのかどうか分からないが、時間をかければ仲良くなれるんだろうか。今は必要以上にこちらを寄せ付ける気のない壁のようなものも感じる。
優しい人がいいなと思っていたがそんな都合よく行かないもんだな。




