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『青春はゲームじゃない』  作者: いろは菓子
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第27話 「川崎美雨」

 川崎美雨(かわさきみう)さんって言うんだな。川崎先輩とでも呼べばいいんだろうか。


「伽耶ちゃんに信彦くん。それに深夜くんね。うん、覚えた!」


 美雨さんは無邪気というのがぴったりだろう。その子供っぽい雰囲気の通りコロコロとした印象を感じる。


「それで、深夜くん達は結構近所なんだよね?遠くなかった?」


「全然大丈夫でしたよ。ホントに全然近いんで。学校行くのとそんな変わんないです。」


 俺の家から学校までが大体20分ぐらい。ここ立野木に来るのもほとんど同じぐらいの時間だ。全く苦になる距離じゃない。


「あ、ホントにそんな近いんだ。高校どこなの?」


 ここまで開示していいものなのだろうか。でも、名前も顔も公開してるんだ。今更でもあるか。


緑仙(りょくせん)高校です。」


 そう答えると、美雨さんは驚いたような顔をする。困惑しているというか事実を受け止めきれていないような感じだ。


「え‥緑仙だったの?私と一緒じゃん。」


「「「え?」」」


俺、信彦、伽耶の声が重なる。


「冗談‥ですよね?」


 偶然なんてレベルじゃないだろ。たまたまゲーム内で出会った人が同じ高校の先輩でたまたまチームを組んで会うことになるなんて奇跡に等しい確率だ。


「その反応からしても、嘘じゃないみたいだね。私は正真正銘、緑仙の3年生だよ。」


 嘘だろ。ありうるのかそんな事。喜びとかっていうよりただただ驚いている。


「でも、俺先輩を学校で見たこと一回もないですよ?」


 と、信彦が言う。その言葉に俺と伽耶も確かにと頷く。そうだ、少なくともこんなに可愛いくて目立つ人なら何かしら印象に残っていそうなものだ。それがないって事は全く知らないって事になる。そんな疑問に答えるように美雨さんは口を開いた。


「それは確かにそうかもね。私あんまり学校行ってないから。見た事なくてもしょうがないよ。」


 茶化しているような様子もない。本当に驚いているような様子だ。学校にあんまり来ていないなら見てなくても不思議じゃないのか?本当に同じ学校なんだな。こんなに可愛くてゲームの上手い先輩がいたなんて、まだにわかには信じがたいがようやく飲み込めてきた。


「あんなに謎だらけだったはてなさんがこんなに近い存在だったなんて、なんか凄いびっくりです。」


「確かに、凄い偶然だね。私も信じられないよ。」


「もっと色んな話聞かせてください。例えば‥なんでいつも顔を隠して真っ黒の格好をしてるのかとか!」


 伽耶はすっかり切り替えて美雨さんに興味深々だ。俺も確かに聞きたいことは沢山あるし、顔を隠してる理由も気になる。


「うーん。あんまり深い理由はないんだよ?元々黒が好きだったって言うのはあるんだけど、顔を隠してるのは何となく自分の顔が恥ずかしかったからかな。何かと目立つみたいで男の人が沢山寄ってきてめんどくさくなっちゃった。」


 なるほどな。確かに、この顔なら変な男も沢山寄ってくるだろう。それで、あのフードを被っていればみんな不気味がって、よほどの物好きでなければ近づかなくなると。結構ちゃんと納得出来る理由だな。


「だってはてなさん可愛いですもん。私が男だったらメロメロです!」


 伽耶が熱弁する。俺から見ても凄く整った顔だと思う。お人形さんか何かかと思うぐらいだ。


「私はそういうのあんまり興味ないからなぁ‥。せめて最低限ゲームの上手い人じゃないと話が合わないかも。」


 全く興味なさげにそう言い、届いていたメロンソーダのストローを咥える。


「先輩ってなんであんなにゲーム上手いんですか?只者じゃないというか、正直異常だと思うんですけど。」


 信彦の言葉に、美雨さんはぷっと吹き出す。


「そんな風に思ってたんだ。別にチートなんてしてないよ?子供の頃からゲームだけは凄く得意だったの。」


 そこまで言うと、美雨さんは深く息を吐き言葉を切った。


「私の家ね、そこそこお金持ちで言えば何でも買ってもらえるような恵まれた環境だったの。茶道に花道。弓道にテニス、色んな習い事をさせてもらったんだけど、どれもてんでダメでね。本当に何の才能もないんだなって落ち込んでたの。でも、そんな私にもゲームだけは才能があったの。」


 美雨さんにゲームの才能がある事は何の疑いの余地もない。身をもって何度も体験してるしあれがただの才能のごり押しじゃないこともわかる。ちゃんと考えて練習してその極地まで至ったんだなという事ぐらいは俺でもわかる。


「だからね、何も出来ない私にとって、ゲームは私の唯一の誇りっていうか。絶対勝ちたいっていう意地があるの。これだけは負ける訳にはいかない。そのために一緒に最強を目指せる人達を探してたんだ。それがまさか、同じ学校の後輩達だなんては思ってもなかったんだけどね。」


 言い終わって照れ臭そうに微笑み、こんな熱く語っちゃってごめんね、とメロンソーダで喉を潤す。


 美雨さんにとって、ゲームはゲームでもただの遊びじゃないんだな。自分のアイデンティティというか譲れないものなんだろう。


「大丈夫ですよ。俺達なら絶対勝てます!なんていってもはてな先輩がいるんです!それに俺達だって、はてな先輩から認められて今ここにいるんだから負ける理由が全くないです!」


思わず俺まで熱くなってしまった。


「うん!私がいて負けるなんて事ないから安心していいよ!最初に誘ったメンバーが深夜くんでよかったよ。こんなにすぐメンバーが集まると思ってなかった!」


「誘ってよかったかどうかっていうのはまだ早いですけど‥。でも!出来る限りを尽くして頑張ります!」


 この期待を裏切る事は出来ない。きっとその気持ちは信彦も伽耶も同じだろう。この人に頼られると嬉しいんだよな、何でも出来る気持ちになれる。


「さ!昼ご飯皆んなまだでしょ?私が奢るから何でも好きなもの頼んで!」


 両手を広げ、美雨さんがメニューを示す。


「いいんですか?自分の分ぐらいなら全然――」


 そう言う伽耶の声を上から押しつぶすように美雨さんが声を被せる。


「気にしないでいいの!今日は私から、皆んなを呼んだんだし、それに私ちょっとお金多めに持ってるの。ほらほら、遠慮しないで。」


 強引にメニューを勧めてくる。ここまで言ってくれてるならお言葉に甘えよう。


「じゃあ、お言葉に甘えて。」


 その言葉を聞き美雨さんは満足気に頷く。


 結局、本当に3人分全て出してくれた。太っ腹というか性格も本当にいい人だな。それだけ信頼してきてもらえてきたっていうのもあるんだろうか。


「じゃあまた遊ぼうね!」


 そう言って、美雨さんは手を振り帰って行ってしまった。


 俺も今日のこのオフ会は大満足だ。美雨さんにも会えたし、こんな可愛くて優しい人だとわかった。今まで謎だらけだったはてな先輩がどんな人か分かった気がする。













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