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『青春はゲームじゃない』  作者: いろは菓子
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第20話 「天才少女」

 中庭へと向かう人の流れと、すれ違うように校舎内へと入る。


「おい、行こうぜ!」


 走って行く男子生徒3人組が周りを全く気遣う事なく堂々と真ん中を駆け抜ける。当然、そんなことをすればどうなるかは明らかだ。案の定、気弱そうな眼鏡をかけた茶髪の女子生徒に肩をぶつけ、持っていた教科書類を地面へと落下させる。

 しかし、そんな様子には全く目もくれず、すでに男子生徒達は中庭へ走り去っていってしまった。気づいてすらいないんじゃないのかとすら思える。


 せめて謝罪ぐらいしていけよ‥。廊下に散らばったプリントが風で舞うのを女子生徒が必死でかき集めている。周りの生徒も気づいてはいるが遠巻きに見るだけで、誰も積極的に手を貸そうとはしない。しょうがないな。


 近くに飛んできたプリントから順に拾い始めると信彦も何も言わず手伝ってくれる。3人で拾えば散らばったプリントも一瞬で集まった。


「あ‥‥ありがとうございます‥‥」


 聞こえるか聞こえないかぐらいの音量で女子生徒が小さくお礼を口にする。でも、その顔はほとんど下を向いて、長い前髪も合わさりほとんど見えない。


「全然大丈夫だよ。はい、これ。」


 信彦が集めたプリントを手渡す。それをおどおどと挙動不審な様子で女子生徒が受け取る。


 俺も渡そうとして、何気なく集めた1番上のプリントを見る。その紙はテストだった。しかも点数は満点。うわっ、凄いな。こんなの落としちゃダメだろ。名前は、「立花 月乃」さんか。


 そこまで見て、ん?と頭の中に何かがひっかかる。何だ、この名前見たことあるような。それもついさっき。あれ、どこで見たんだっけ。


 必死に記憶を掘り起こす。すぐそこまで出かかってるんだけど最後が出てこない。‥100点?


 100点とさっきまでいた中庭での出来事で完全に思い出す。


「あ!」


 そうだ、この子!


「1年の学年1位の子だ!立花さん?だよね。全教科満点の。」


 突然大きな声を出したからか女子生徒はビクッと体を跳ねさせる。ごめんよ、驚かせるつもりはなかったんだ。


「なに?深夜、知り合いなの?」


 不思議そうに信彦が尋ねてくる。そりゃそうだ、俺に後輩の知り合なんているはずないもんな。


「信彦、さっき中庭で順位表見なかったか?1年の学年1位が全教科満点でぶっちぎりだったんだよ。その子と同じ名前だったから、あ!って思ってさ。」


「あ‥はい。そうです、私です。」


 相変わらずの消え入りそうな声で返事してくれる。なんとかギリギリ聞き取れる。


「全教科満点?全然見てなかったや。化け物じゃん。めちゃくちゃすごいね。」


 恥ずかしそうに顔を赤く染めているのが下を向いていてもわかる。


「だろ?さっき名前見たから覚えててさ。凄い偶然。」


 たまたま覚えてすぐの段階で、まさか接触することになるとは。これがまた明日とかだったら何も気づかなかったんだろうな。


「あの、それありがとうございました。」


 あ、まだ拾ったプリントを握ったままだった。慌てて立花さんに返す。手渡した時、もう一度あれ?と見覚えのある何かが目に止まる。


 立花さんの筆箱。そこについているストラップが、とても見慣れたものに見えたのだ。いや、実際よく知っているものだったのだ。ユートピアエデンの鳥籠に蛇が巻き付いたアイコン。あのロゴがプリントされたストラップなのだ。


「ユートピアエデン、やってるの?」


「え?」


 完全に予想外だったのだろう。聞き返す声が上擦って大きくなっている。


「ほんとだ。実は俺たちもやってるんだよね。立花さんもやってるの?」


信彦も覗き込み、よく知っているそのロゴを確認する。


「えぇっと‥やって‥ます。」


 戸惑うようにオロオロとした様子だったが、落ち着いたのかそう答えてくれる。


 こんな頭のいい子でもゲームなんてやってるもんなんだな。意外と言うか、俺のイメージとは違う感じだ。なんて言うかもっと機械的というか、全てを勉強に振り切っているような人を想像していた。

 ちょっと安心というか、ゲームしててもいいんだと肯定されているような気がする。


 と、ちょっと手伝っただけでここまで話し込んでしまった。向こうからすれば困惑しているだろう。気弱そうな感じだし悪いことしちゃったな。最初よりも少し警戒が解けたのか顔が上を向いている気がするが、それでも引っ込み気味なのに変わりはない。さっさと立ち去るのが吉だろう。


「じゃ!俺たちそろそろ行くから。引き止めてごめんね。」


「あ‥名前だけでも教えていってください。」


 ん、そうか。こっちからは名乗ってなかったな。向こうは名前を教えてくれたんだ。ちゃんと挨拶を返すのが筋ってもんだろう。


「俺は2年の黒川深夜。それで、こっちのイケメンが武田信彦。機会があったら何か頼ってくれていいから。またね。」


「バイバイ、天才ちゃん。」


 俺たちが離れていく後ろ姿にぺこりとお辞儀してくれている。人見知りみたいだったけど普通に良い子だったな。頭も天才的にいいみたいだし。


 そういえば初めての後輩との交流じゃないか?まじか、ついに俺も先輩になる時が来ちゃったか。ひひ、黒川先輩か。いい響きじゃないか。


 顔にニヤつきが出そうになるのを抑えながら教室へと帰った。















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