【言葉の値段】
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前回に引き続き、飛鳥と優介との会話回です。
「優介、一つ聞くわよ」
上原少佐は体制を変える事なく、けれど俺の心に語りかけた。
「あなた、その理由でもしもの時に動けるの?」
「……どういう意味っすか」
俺は自分の声が無意識に低くなってしまっていたことに気がついて、内心ではハッとしてしまった。
まるで「そんな薄い理由で命を張れるのか」と言われているみたいだったからだ。
けれど上原少佐はそんな俺に怖気づく事など一切なく、むしろ少し微笑んでから上体を起こし、俺の隣に座り直してから続ける。
「ふふっ、そんな怖い顔しないでよ、そのままの意味。莉子の為に……じゃないわね、その、優介を必要としてくれる誰かの為に、命を張れるのかって事よ」
「……」
「異世界から召喚されて、いきなりパトリオットにぶち込まれて。けど見事に戦って、勝った。それで戦う意味を見出して、今は自分の意思でここにいる」
泥酔しているはずの上原少佐の言葉のひとつひとつが真っ直ぐに俺に飛んでくる。
「今までの戦いでも感じただろうけど、これからはもっと〝命のやりとり〟をしていかなければならなくなる。絶対に」
「〝命のやりとり〟……すか」
「そうよ。……はっきり言うわ。私は人殺しよ」
「……」
突然の上原少佐のその言葉に俺は言葉を失った。
しかし上原少佐は声の調子も変わることなく一つ一つ言葉を紡いでいく。
「人を殺して人を救う仕事。それがパイロットよ。……優介、もし私がルゴール兵に殺されそうになっていたら、そのルゴール人を殺してでも私を救ってくれる?」
「……そ、それは」
パイロットという仕事はそういう仕事のはずだ。もちろん頭では分かっている。
けど、俺は果たしてその覚悟は出来ていただろうか。心のどこかで、ゲームと同じ。【パトリオット・オンライン】と同じだと錯覚していたんじゃないのか。
“ヴォルガー”と対峙した時、コクピットを外せばいいと思っていた。命を奪うことはない、だから安心だと。
けどそんな事は絶対にない。いつ手元が狂って命を奪うかも知れない。
逆に命を奪われるかも知れない。その覚悟をしていたと言えるのか、俺は。
相手を殺してでも私を助けてくれるかと少佐は聞いた。
もちろんそうするべきなのは分かっている。
少佐は味方。ルゴール人……いや、ルゴール兵は敵なんだから……。
だけど、そのルゴール人を殺す。そんな事が俺に出来るのか?
ふとシュヴァリエの顔が脳裏を過ぎる。つい先日まで剣を交えていた彼女とは確かに戦った。もちろんシュヴァリエも俺の命を奪う覚悟はしていただろう。
でも俺はどうだった? 極力コクピットを外して照準して……甘いとは思っていたし、無意味に殺す必要なんてもちろんない。
けど仲間が殺されそうになっている時、人を殺してでも助けられるのか……。改めてそう問われるとすぐに頷く事が出来なかった。
「ふふ、ちょっと意地悪な質問だったわね」
「もちろん敵を殺して助けます」そう言うべきなんだろうけど、言葉が口から出て来なかった。
その時、夏の夜風が吹き、上原少佐の黒髪を優しく撫でた。
気持ち良さそうに身を捩って意地悪く笑った。
「もし優介が殺されそうになっていたら絶対に助けてあげる。私の命に変えてもね」
「……」
そう言い切る上原少佐は確かに酔っ払っているはずなのに、その言葉に軽さなど一切無く、心底本当にそう思っているのが伝わってきた。
兵士の責任なのか、エースのプライドなのか。それは分からないけど、確かに上原少佐のその言葉は俺の胸に刺さった。
「……なんでそんな事、言い切れるんすか」
俺と上原少佐はついさっき会ったばかりだ。
飲み会を通じて親睦を深めたとは言え、そんな相手に命を賭けられると言った上原少佐に俺は思った疑問を投げかけた。
けれどそんな俺を尻目に、上原少佐はあっさりと断言した。
「私が優介の上官で、優介は私の部下だからよ。仲間は死んでも守る。絶対死なせない」
帝国の英雄と云われる上原少佐のその言葉は、俺が佐倉に言った『全部守ってやる』なんて言葉よりずっと説得力があって。
俺の心には、最強の上官を持ったのだと言う心強さと同時に、自分の言葉が如何に空虚だったかと言うことを思い知らされたのだった。
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次回もお楽しみに。




