【カナザワの夜】
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居酒屋を出た御一行。
宴で火照った身体を潮風で冷まします。
夜も更けて、女将が暖簾を片付け始めたのを見た俺たちは、会計を終えてソメイヨシノへの帰路についていた。
初めての居酒屋体験は引きこもりだった俺にとって新鮮な経験で、一緒にいた仲間のおかげか、とても楽しいひと時だった。
……ただ。
「もういっけんいくわよ、もうん……っとと」
「ちょ、少佐! ちゃんと歩いて……ってうわ! てかこんなんでもう一軒行ったらどうなるんだよ」
日本酒をたらふく飲んだ上原少佐はヘベレケに酔っ払ってしまって、足取りが怪しい。いや、怪しくない。自力で歩けていないんだから怪しいも何もない。
俺は上原少佐に肩を貸して何とか歩かせながら、港近くのコンビニに向かっている。
上原少佐の身体は決して重くはないが成人女性なりの体重はあるので軽くもない。
普段から体など鍛えていない俺は、必死で支えながら歩くしかないんだけど……。
「あン……もう、介抱するフリして変なとこ触んないでヨ……」
「ンなことするかぁ! そんなことよりしっかり歩きやがれ!」
ったく、からかいやがって。
当然身体は密着するので、身体のあちこちに上原少佐の女の子な部分が当たるんだけど、足元もおぼつかないような酔っ払いと化した上原少佐に色気もクソもない。
とっくに日は沈んで、日付けが変わろうという時間になって日差しは無いとはいえまだ八月。
右肩から胸元まで大胆に開いたオーバーサイズTシャツにデニムのホットパンツというなんとも溢れそうな出立ちの上原少佐。側から見たら、もしかして羨ましがられる状況かも知れない。
だけど体力の無い俺にとってはワークアウトそのものでしかない。ひたすら必死に歩いているので、もう汗だくだ。
佐倉とシュヴァリエはと言うと、二人で一足先にコンビニへ行ってしまった。
手伝ってくれよと思ったけど、シュヴァリエがなんだかモジモジしていたので流石に鈍感な俺も察した。
コンビニなんて行った事の無いルゴール人のシュヴァリエを一人で行かせるのもアレなので、一応佐倉について行ってもらったところだ。
シュヴァリエも上原少佐と同じペースで飲んでいたのにスタスタ歩けるし、そこまで酔ってはいないようだった。確かにいつもより饒舌にはなっている。それでもしっかりしていた。どうやら酒には強いみたいだな。
沿岸道路をコンビニの明かりが照らす。それに少しずつ歩み寄り……やっとで俺たちも追いついた。
上原少佐に肩を貸したまま、自分も一緒に腰を下ろすようにベンチに座らせた。
座らせたけど、少佐はすぐにベンチにだらしなく肢体を預けてしまう。
横向きに寝そべった少佐は額に腕を当てて、苦しそうに息を荒げる。頬も紅潮して、グロスが塗られた形の良い唇から吐息が漏れる。
身じろぎした拍子に、Tシャツの胸元から下着に守られた胸が顔を覗かせた。マシュマロの様に柔らかそうなそれが地球の引力に引き寄せられ、大きく形を崩すもんだから……見える見える! てか見えてる。
「……ったく!」
俺は無心を装い、上原少佐の乱れた着衣を直した。
まったくもう。しっかりしろよ。白かよ、素晴らしいなまったくもう。
長いサイドポニーテールが地面に着いてしまってるし。これじゃさすがにかわいそうだな。
俺は上原少佐の髪をそっと持ち上げ、少佐の首元にかけてあげた。すると少佐は薄目を開けて俺を恨めしそうに見る。
「……うう、飲み過ぎたわ、完全に……」
「んー、まぁ良いんじゃないすか? 結構長い遠征だったんでしょ」
確かに飲み過ぎかも知れないな。そうは思ったけど、羽を伸ばしたりハメを外すのも大事な事だと思う。
聞けば上原少佐ら、ソメイヨシノは結構な長旅から帰ってきた所だと言う話だった。
なんでも、地球の裏側のブラジルで内戦が勃発しており、それの仲裁……正確には一方に加担して鎮圧任務に就いていたらしい。
しかし内戦ばかりに構ってもいられず、ルゴール軍に対応する為に特別遊撃分隊の隊員を現地に派遣して、自分たちは一時帰国し今に至るという事だった。
久しぶりのニホンなんだから、まぁ良いんじゃないかと思う。
「まぁねー……ああ。きもちわる」
「水買ってきますよ……ってどうしたんすか」
水を買いに席を立とうとするとシャツの裾を少佐が摘んだので立てなくなった俺は、再び少佐が横たわるベンチに腰掛けた。
コンビニの明かりが少佐の長いまつ毛に反射していた。
その奥の潤んだ瞳も同じく、街灯の光を写してキラキラと輝いて見えた。
頬が紅葉し、泥酔状態の少佐は普段のガサツさは感じられず、随分としおらしく見えた。
「優介は、どうしてパトリオットに乗るの」
「え、どうしてって……」
急に真面目なトーンでそんな事を言うもんだから、一瞬だけ思考が鈍くなる。
けどすぐに持ち直して、自分の考えを整理しながら口を開いた。ふざける雰囲気でも無いので割と真面目に。
「自分に、出来る事だから……ですか?」
「ははっ、私が聞いてるんだけど」
ちゃんと考えたつもりだったんだけど、心に迷いがあるからか疑問系になってしまった。
俺は少し考えを整理しながら上原少佐に話した。
「今まで誰かに何かを頼まれた事なんて無くて。単純に頼られたのが嬉しかったすね、正直」
「……」
「戦争とか意味わかんなくて、どっちが悪か正義かとかまだ全然わかんないですけど、佐倉が必死になって大切なものを守ろうとしてて。それの手伝いが出来れば良いなって、今はそう思ってます」
トウヤ基地で佐倉が背負っていた期待や不安、責任。その負担が少なくなったらと思い、俺は操縦桿を握った。
そして俺が戦えばもしかしたら多くの人が救えるかも知れないなら、それが俺の戦う理由……なんじゃ無いかと思った。
「ふぅん、そっか。じゃあ優介は莉子の為に戦ってんのね」
上原少佐のその言葉に俺は思わず少佐の顔を見る。
「え、なんでそうなるんすか」
「ふふっ、そう言ってたわよ?」
上原少佐は俺の答えを聞くと可笑しそうに目を細めた。
酔っ払って横になったからか、目が少し眠そうにトロンとしてきてる。
そうかなぁ……?
自分では、【パトリオット・オンライン】で得たこの能力で人が救えるならと思ってるだけなんだけどなぁ。
もちろんその中に佐倉やシュヴァリエも居るんだから否定は出来ないけど。
「優介、一つ聞くわよ」
上原少佐は体制を変える事なく、けれど俺の心に語りかけた。
「あなた、その理由でもしもの時に動けるの?」
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次回もお楽しみに。




