【上原飛鳥少佐】
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戦闘を終えた優介たち。ソメイヨシノに収容されます。
フロートモジュール(浮き輪)で着水した俺たちは、“雷桜参式”にワイヤーガンのケーブルで牽引され、ソメイヨシノに到着した。
大きな船だとは思ったけど、近づいてみるとその巨大さをなお実感出来た。
パトリオットや戦闘機などを何機も格納出来るんだろうし、自身の戦闘力を維持するためにもそれなりの大きさが必要なんだろうな。
初めて目の当たりにする戦艦の大きさに俺は圧倒されてしまった。
ソメイヨシノの後部の回収用ハッチから俺たちは船内に入り、パトリオット整備用ハンガーに機体を固定させるとコクピットハッチを開けた。
その格納庫はパトリオットが直立してもなお余裕があるくらいの天井の高さ。何機ものクレーンが吊り下げられていて、LED照明のおかげで船内だというのに非常に明るかった。
真新しいペンキの匂いもしてくるし、この艦が出来たのももしかしたら最近なのかな? トウヤのボロ基地とは大違いだな。
先に降りた佐倉が俺に手を差し出してくれた。少し恥ずかしかったけど、変に断るのもおかしいと思ったので遠慮なく手を取る。
金属の足場の上を歩く足音が近づいてくるのに気づき、そちらに目を向ける。
俺たちとは違う、赤いパイロットスーツに身を包んだ女性が俺たちの所に歩いてきていた。
その姿に、俺は一瞬だけ見惚れてしまった。
黒髪のロングヘアを側頭部で一つ縛りにしてる。あれはサイドポニーテールってやつか。腰までありそうな長い髪を振って歩いてくる。猫を思わせる大きなつり目。肌はきめ細かく、鼻筋が通っている。
身長は俺と同じくらいだから、一六〇センチ半ばくらいかな。よく鍛えられ、それでいて女性らしい魅力的なボディラインをしていた。それとシュヴァリエほどでは無いけど、なかなか豊満だ。何がとは言わないが。
年は二十代前半くらいかな。非常に快活そうな美人さんだ。肩に黒猫を乗せてる。ペットかな?
「援護、ありがと! 噂に聞いてたけど、いい腕してんのね、アンタ」
「いてっ!」
いきなり肘で二の腕をグリグリされた。入ったぞ、肩パンの痛いところ!
患部をさすってジロリと美人さんを睨む……心の中で。別にビビったわけじゃないぞ、本当だぞ。
佐倉は直立し、その美人さんに向き直って敬礼をした。珍しく緊張しているように見えるけど。
「トウヤ基地第一分隊所属、佐倉莉子少尉でありましゅ!」
「……噛んだ」
そして自分の失態に気がついて顔赤くして俯いたぞ。いちいち可愛いなおい。
佐倉の小さい失敗には突っ込まず、今度は美人さんが敬礼を返した。
「特別遊撃分隊の隊長、上原飛鳥少佐よ、よろしくね新人達」
敬礼を解いてパチンとウインクをしてみせる上原少佐。
少佐でなんとかっていうやつの隊長なんだろうけど、結構砕けた人みたいだな。
「お会いできて光栄です、少佐。あの、良かったら握手を……」
「え? ああ、もちろんいいわよ」
「あ、ありがとうございます! わぁ、恐縮です!」
上原少佐が差し出した右手を佐倉がおずおずと、けれどしっかりと握っている。
なんで? と思いながら見ていると俺の視線に気づいた佐倉が説明してくれた。
「上原少佐は帝国軍のトップパイロットなんだよ。〝アキバ事変〟と〝アラスカ事件〟とかで活躍した人で、帝国のエースと言ってもいいくらい」
「へぇ、帝国のエースねぇ」
「まあ、アキバの時は命令違反で牢屋にぶち込まれたけど。はははっ」
そうか、この人は軍では有名なんだな。佐倉もパイロットなんだし、この人のファンって感じなのか。
そんな事を思いながら、まだ自己紹介していない事に気がついた。俺は上原少佐に向き直る。
「有馬っす。おなしゃす」
「はいはい、おなしゃす。へぇ……君が異世界から来た勇者様? 男がルゴールの一個小隊に無傷で勝ったって聞いてたからどんな大男かと思ったら。可愛い顔してんのね」
顎に手を当てて俺を上から下までじろじろ見てくる。勇者様はやめてくれ。なんかやだ。
「肌きれーねぇ。おわ、まつ毛なっがぁ、ほぉー?」
興味を湛えたつり瞳が俺の顔を覗き込む。
猫……いや、なんだか女豹に見えてきたぞ。
ち、近い近いっ……。
上原少佐の吐息が俺の頬に当たる。そして佐倉とはまた違う甘い女性の香りが漂ってきてドキリとしてしまう。
「今時の男の子はスキンケアとかしてんの?」
「い、いや、してねーっすけど……」
「へぇ、若さかなぁ? この美肌はチートね、チート」
チートは少佐が乗ってる機体でしょうが。
いや、それはそれとして。そういう上原少佐もこうして近づいて見ると本当に綺麗な人だ。形の良い眉毛、きめ細かくて色艶の良い肌。ぷっくりとした唇。もちろん化粧もしているんだろうけど、それでも素がいいんだろうな。
「……てか、本当に男の子?」
「え、そーすケド?」
さらに顔を覗き込まれて、俺は目線を逸らす。だって至近距離なんだよ。恥ずかしいじゃないか。
「あわわわ……」
佐倉がなんだかソワソワしてるぞ。あわわわ言ってるし。
訝しげに俺を見つめる上原少佐。本当に俺を男か疑ってんのか? 確かに小学生の頃はよく女の子に間違えられたけど、中学生に上がった頃からはさすがに少なくなったぞ。
「ふーん?…………………………(むに)」
「え」
次の瞬間、両脚の付け根。足の分かれ目。股の間、つまり股間に衝撃が走った。
「〜〜〜ッッ!!??」
不意に『俺の俺たる俺(意味不)』を握られて俺は声にならない悲鳴を上げていた。
「ふむふむ。これは、なるほど」
「しょ、少佐殿っ!?」
慌てて佐倉が上原少佐の右腕を引き剥がす。
「あははは、本当に男の子だった! いやー、疑ってごめんごめん」
「俺の肌が綺麗で何が悪いんだ! 俺は男だよぉぉぉぉッ!!」
ケラケラ笑って頭をかく少佐。
こいつマジか! こんな奴が軍を代表するエースパイロットなのか!? 帝国軍半端ねえな!
思いつく悪態を上原少佐に浴びせかけてやる。
「あはは、ごめんごめん」と半笑いで謝ってくる態度を見ると全然反省してないなコイツ! いや、上官だけど! 俺より佐倉の方が上原少佐に怒ってくれていた。頼もしい限りだ。いいぞ佐倉もっとやれ。
のちに上原少佐は、佐倉の『報告』とは名ばかりの『チクリ』を受けた川島大佐にこっ酷く注意を受けたのだった。
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