【初陣】②
ズシンと重い音を立てて【ヴォルガー】の上半身が地面にズリ落ちた。
SVSで胴体を切断された【ヴォルガー】は活動を停止させた。
大小のケーブル類がバチバチと漏電する切断面からは、何かキレイな虹色の粒子が、キラキラと輝きながら空中に飛散し、やがて消えて行った。
なんだろう?
不思議だけど、すごく綺麗だ。
初めて見るその光景に、俺は少しだけ儚さを感じていた。
な、なんとか上手くいったな……。
「……な、なんなの、その技はっ?」
前席から呆けたように彼女がそう言った。
肩と声が震えていて、白い頸に一筋の汗が滴った。
普段しない挙動をしたから怖かったのか?
俺より前の席に居るんだ、迫る恐怖で混乱しているのかな。
「あんなの技の内にはいらねぇよ」
「で、でも、あんな機動見た事ないわっ」
彼女はやや興奮気味で、猫のような大きなつり目を輝かせて詰め寄ってきた。
うっ……い、良い匂いが……。
っていうか、こんなの技でも何でもない。
白兵戦の時に覚えておくと便利だとされている戦闘機動だ。
慣れるまでには時間はかかるが、さほど難しい技術ではない。
「こんなの一日十二時間やってりゃ誰だって出来るようになる」
「じゅ、十二時間って……」
「そんな事より次っ!」
コイツを倒して喜んでいる場合じゃない。
こちらを狙っている【ヴォルガー】があと二体いる筈なんだ。
俺は機体の頭を低くし、廃墟同然のビルの陰に身を隠した。
ほんの一息だけつくと俺は、正面モニターの端に表示されている中近距離用レーダーマップに目をやった。
グレイの円の中心に黄色い光点、それは俺たちの機体。その他に時計で言うと十一時の所の外径に近い場所に赤い光点があるのが確認できた。
それがもう一体の【ヴォルガー】だろう。
「まだ距離はあるな……」
こちらのレーダーマップに表示されているって事は、向こうにもこちらは捕捉されていると考えていいだろう。
というか、仲間が撃破されたんだ。
憤怒して真っ先に俺たちを殺しにくるかもしれない。
こちらはズタボロの機体なんだ、距離が離れている内に対策を練らなきゃならない。
正面モニターの端に表示された現在使用可能の装備を見やる。
出来れば離れた所から頭部を狙撃して目を奪いたい。
確か【パトリオット・オンライン】の設定だと【パトリオット】の頭部にはいろんなセンサーが集まっているって話だったし。
それで、装備は……。
SVSのナイフが二本と、ソードが一本。
それと拳銃とショットガン。
これらは比較的近距離でなければ効果を発揮しにくい武器だな。
拳銃は砲身が短くて射程が短い。目標との距離が伸びると、命中率がぐんと下がるし、ショットガンは細かく小さな弾丸を飛散させる。素早くて装甲の薄い標的には効果的だけど、射程は短めかな。
どちらも頭部を破壊すると言う目的のために使うなら、ある程度近づかなければならなさそうだな。
あとは……。
「アサルトライフルか」
中遠距離で効果を発揮するのがこの【アサルトライフル】。
弾丸を連射できる上に、照準が定めやすい。
でも残弾は三〇パーセント未満と表示されていた。
……多分この子が無駄に乱射したせいで弾数は心許ない。
「距離三〇〇。……ど、どうするのっ?」
「三〇〇? もうそんなに?」
三〇〇?
不安そうな彼女の声に一旦戦略を練るのを止めてレーダーマップを見た。
すると赤色の光点は円の外周と黄色の光点との丁度中間にまで到達していた。
それと別に新たな赤い光点も出現していた。
遠距離で待機してたやつか。
この二機が合流したら厄介だけど……するだろうな、多分。
〝中のヤツ〟がどんな奴か知らないけど、俺だったらそうする。
随分と近づくのが早いな。
やっぱり味方機がやられて怒ってるのか?
気持ちは分かるが、俺だっていきなりこんな訳の分からない状況の所にぶち込まれて腹が立っているんだ。
さっさと終わらせてこの子に一から十まで説明してもらわなきゃ気が済まない。
……というか、この女の子に対してさっきから気になっている事がある。
【パトリオット】の戦い方においてすごく重要な事だ。
彼女が〝そう〟なのか〝そうじゃない〟のかでは今後の戦い方が大きく変わってくる。
普通、女の子にこんな事を聞くのは憚られるけど……聞かなきゃ始まらないか。
俺は彼女の背中に思い切って問いかけた。
「なぁ、お前って、〝魔女〟なのか?」
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続きは今日の夜更新。
少しだけストックが有りますので、しばらくは毎日複数話更新の予定です。




