【新生活】①
ご覧頂き、ありがとうございます♪
デートより数日後。
お話が少し動き出しそうです。
俺は夏の太陽が照りつける中、それを避けるように木陰を選びながらスーパー袋を持って歩いていた。
袋の中身は主に日用品と温めれば食べられるレトルト食品が多い。
今日から俺は一人暮らしを始める。
前の世界ではいち早く家を出て自立するのが、何よりの願いだった俺の細やかな願いがひとつ叶った事になる。
この世界に召喚されてから十日程は経ったわけだけど、その間は基地に泊まったり、佐倉の家に泊まったりさせて貰っていた。
佐倉の家はみんなが良くしてくれるし、居心地がすごく良かった。明るくて、何より佐倉お母さんの料理は絶品。
かと言って、居心地の良さに甘えてずっと居候するわけにもいかない。
トウヤ基地に兵士用の寮がある。しかも空室もあるとの事だったので、中を見せてもらおうと寮の前まで行って……中を見ずに帰ってきた。
トウヤ基地のオンボロさから想像すれば良かったんだけど、中を見るまでも無い程に寮もオンボロだったのだ。
俺は佐倉に相談、同行の上、その足でシャッターが半分降りた不動産屋さんへ直行。
今日明日にでも入れる物件はないかと探してみたら、賃貸マンションやアパートはもちろん、空き家だらけの選び放題だった。トウヤ市は疎開が進み、住人が減る一方だったらしい。
けどシュヴァリエ率いるこの地区のルゴール軍を退ける事が出来たわけだから、これから徐々に戻ってくるだろうとの事だった。
よりどりみどりだった中古マンションや賃貸アパートで俺が選んだのは、戸建て賃貸。
空き家を一軒まるまる貸してくれるらしいその物件は俺の琴線に触れた。
マンションやアパートだと周囲に気を遣わなければならないだろうけど、戸建てならそういう心配も要らない。
かと言って広すぎると掃除など面倒くさそうだったけど、それほど広い家では無かったので、半ば即決したわけだ。
それが昨日。その翌日の今日入居という事になる。
俺がスーパー袋を持って家に着くと、軍用のトラックが家の前に停車しており、野戦服姿の兵士二人が荷台から大きな荷物を下ろしている所だった。
そこへ小走りに駆け寄り、声をかける。
「お疲れ様です。すみません、仕事中に」
彼らは基地に余っていた家電を運んできてくれている。
要らぬ仕事をさせてしまっている訳だし、俺は二人に頭を下げた。
「あっ、有馬特尉、お疲れ様でございます!」
「お疲れ様です!」
すると俺の姿を見るや否や、兵士の二人は作業の手を止めて俺に敬礼してくれた。足先から指先までビシリと伸ばしていて非常に美しい敬礼なのは素人目にも分かった。分かったんだけど……。
「もう、特尉はやめて下さいってば」
「いえ、そんな訳にはいきませんっ!」
「うぇ……」
ハキハキと言う兵士さんの言葉を受けた俺は、ガックリとうなだれた。
トウヤ基地の……いや、【帝国軍】の傭兵になった俺だけど、その時に【特尉】という階級も与えられてしまった。
トウヤ基地の責任者でもある『のじゃロリ』ことアンナ曰く、大尉と同等だとかなんとか。そもそも俺にできる事は操縦だけだし、そういう契約だ。変な責任を伴っても困るので辞退しようとしたが名前だけでも、と言う話だったので、仕方なく引き下がった。
会う人会う人に階級で呼ばないでくれと頼んではいるんだけど、なかなか浸透しない。
「あ、特尉殿! ご帰還でございますか、サー!」
「だからやめれって言ってんだよ!」
トラックの荷台から現れたのは、ジャージ姿の佐倉だった。例の如くビシリとキレイな敬礼をしてきやがる。
「はっ! ご命令とあらば!」
「ったく、佐倉まで俺をいじるのかよ。勘弁してくれ」
しかし口元は緩み、ニヤけているのを見ると明らかにイジって来ているのがバレバレだった。
「あはは、ごめんごめんっ」
敬礼を解いて赤い舌をペロと出して戯ける佐倉。いちいち可愛いなおい。
「ったく……ほれ」
別に悪気がある訳じゃないだろうし、何より特尉なのは事実。不本意だけどまぁ慣れるしかない。
俺はスーパー袋の中に入れておいたペットボトルのお茶を取り出し、二人の兵士と佐倉に渡した。
佐倉には俺が買い物へ行っている間、留守番をしてもらっていたんだけど、そのタイミングで軍からの物資が届いてしまっていたみたいだ。
佐倉に力仕事をさせてしまったかと思ったが、荷下ろしは男手二人で進めてくれたらしい。それからついでに家電を設置し、それが丁度終わったらしかった。
目の前に置いてある一メートル四方位の金属製のコンテナが気になるけど、なんだコレ。
よくわからなかったけど、必要なものなのだろう。後で確認する事にして、俺は手伝ってくれた兵士さんに向き直った。
「ありがとうございました」
「いえ、任務ですので」
お礼を言うと、兵士の二人は敬礼でそれを制した。
やべぇカッコいい。俺もいつか言おうっと。
「それと、アンナ様より伝言です」
「伝言? なんです?」
アンナからの伝言? 何のことだろう。
「はっ。『契約は間違いなく結ばれておる。安心して使え』との事です」
「……使え? 何のことだ?」
佐倉に目配せするが、肩を竦めて首を傾げた。佐倉も何のことか分かっていないようだ。
身に覚えがあるとすれば、傭兵としての契約のことか?
それと安心して使えっていうのは、普通に考えてこの家電の事か。中古品だし、ちゃんと使えるよって意味だろう。
「それとコレと、コレを」
そして最後に手紙らしき封筒と、何かのカギを渡して兵士さんはトラックに乗って帰って行った。
左手には封筒、右手にカギを持った俺はそれらを見る。佐倉も近寄って来てマジマジとそれらを見る。
「カギと、手紙? とりあえず読んでみたら?」
「……いや、メンドイ」
「えぇ……?」
雑に手紙をポケットに突っ込む俺を佐倉は半目になって見てきた。
仕方ないだろ。俺はゲーマーだけど説明書は読まないタイプなんだよ。最初はな。そのゲームにハマったら穴が開くほど読む。ハマったゲームの事は全部知りたい。オタクだから。
「それよりこのカギはなんだ?」
「何だろうね……あ、コレのカギかな?」
佐倉の言う『コレ』とはこの鉄製のコンテナの事だ。
見ると鍵穴が確かにある。南京錠みたいなものじゃなくて本当に鍵穴だけ。どちらかと言うと鍵を入れて捻るタイプのスイッチだと言った方がいいかもしれない。
それこそ手紙に書いてあるんじゃない? と佐倉は付け足した。
俺はそのカギを鍵穴に突っ込む。やはり何の抵抗もなくその穴に入っていく。
右に回すが回らない。「左じゃない?」と言う佐倉の言葉通り左に回すとすんなり鍵が回転した。
ピッ。という電子音の後に、排気音。機械仕掛けのそのコンテナが自動で開いていく。
濛々とした白煙がコンテナから立ち上る。その様はまるで浦島太郎の話に出てくる玉手箱のようだった。
俺と佐倉は蓋の空いたコンテナを覗き込む。
そして同時に息を呑み、言葉を失ってしまう。
「……え、ちょっと、これって……」
何故ならコンテナの中には……。
眠るように目を閉じ、膝を抱いた女性が入っていたからだ。
白雪を思わせる白い肌。絹のように滑らかな黄金色の長髪の美しい女性。
一瞬だけ死体かと思ってしまったけど、肌の血色が良いし、何よりすぅすぅと寝息をたてている。
驚きつつもひとまず胸を撫で下ろした。
お読みいただき、ありがとうございました。
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続きは近日中に投稿予定ですので、楽しみにして頂けるとありがたいです。
優介が『特尉』という階級に就きましたが、作者なりの解釈をしております。
実際の階級とはにて非なる物ですので、やんわり認識して頂けると助かります(^^)




