【また今度】
ご覧頂き、ありがとうございます♪
バイクデートの続きです。
二人のやりとりをどうぞお楽しみくださいませ♪
トウヤの湖を囲うように走る道をバイクが行く。
森を切り開くように作られたその道の両脇には針葉樹が立ち並び、夏の日差しから俺たちを守ってくれている。
……が、そんな事どうでもいい。
「おおおおっ!! こ、怖い怖いコワイぃぃ!! 速い速い速いィィィィィィィ!!」
腹にくる排気音と、小刻みに体を揺するエンジン音。
ヘルメットの隙間から入ってくる風切り音。
そして何より流れる景色の速さに俺は絶叫していた。
風景が流れる!
アスファルトの上を滑るように走るバイク。
次々に白線を追い越し、等間隔で並ぶ街灯が次々に通り過ぎる。
ハンドルをしっかりと握った佐倉が風に負けない大きな声で俺に話しかける。その声は弾んでおり、すごく楽しそうだ。
「あははははっ! 有馬くん、こういうの苦手? まだ五十キロしか出てないよー?」
「〝まだ〟じゃねぇよ、もう出すな怖い怖い怖いぃ!!」
「あはははっ、大丈夫大丈夫ぅ」
風に、過ぎる景色にビビりまくっている俺を嘲笑うかのように佐倉は更にアクセルを捻る。
マフラーが唸り、更に加速するバイク。後ろに飛んでいきそうになり、無意識に佐倉にしがみついた。
「うおおおおおおっ!?」
しかし色気などなく、生命の危険しか感じない。
さっきまでのドキドキは何だったのか。今の俺は何の遠慮も配慮も無く佐倉の身体に必死に張り付いている。
照れ? 色気? んなもんねぇよ!!
死ぬ死ぬ死ぬ、絶対死ぬぅ!!!
「こんなスピード、“ワルキューレ・ブレイズ”に比べたら全然だよ?」
「いや、生身だから! 死ぬから普通にっ!!」
“ワルキューレ・ブレイズ”の自走最高速度は何キロくらいだったか、いや、そんな事どうでもいい!
死ぬ死ぬ死ぬ、絶対死ぬぅ!!!
「……あ、有馬くん、しっかり掴まっててね?」
「おう、絶対離さない! 絶対にだぁ!」
更に加速するつもりなのか佐倉はそんな事を言ってくるが、俺は離すつもりなどさらさら無い。
佐倉の引き締まったウエストに回した俺の両腕は、お互いをガッチリとホールド。意地でも離さん! 死んでたまるか!
「う、うん。絶対に離さないでね。もっとギュッて……」
「おうっ!」
ぎゅ。
「ひゃうっ!?」
佐倉に抱きつく力を更に込めると、佐倉は短く悲鳴を上げた。
けれど俺にそれに対してリアクションする余裕など一切なく、又、佐倉が頸まで真っ赤になっている事など気付くはずは無かった。
◇
「あははは、まさか有馬くんがこういうの苦手だったなんてね」
「う、うるさいっ」
九死に一生を終えた俺は芝生と長ベンチがあるだけの簡単な展望台にいた。
トウヤ湖が見渡せるその展望台は簡素な作りではあったが、湖が一望でき、それは素晴らしい眺めだった。
長ベンチがちょうど木陰になっていたので、俺はそこに腰掛けてうなだれていた。
「ごめんごめん。はい、これで機嫌直して」
「……?」
顔を上げると佐倉が清涼飲料水のペットボトルを差し出していた。容器の周りには水滴が付着しており、なんとも美味しそうだった。
「俺は子供かっ」
と言いながら素直にお礼をして貰っておく。
そんな俺を見て目を細めた佐倉も、ペットボトルの蓋を開けてよく冷えたドリンクを喉に流し込む。
細くて少しだけ汗ばんだ白い喉がコクコクと動く。
それが何となく色っぽく見えて、俺はペットボトルを口に当てつつも飲まずに見惚れてしまっていた。
ドリンクを三分の一程飲んでから佐倉が快活に言った。
「くぅーっ! しみるぅ!」
「あははっ、おっさんか」
「あはは、よく言われる」
「マジか」
確かにセリフや仕草はおじさんぽかったけど、当の佐倉のルックスはそれとは程遠い。
左右非対称に分けた前髪は少しだけ汗に濡れて艶やかに輝き、片方だけ覗いた左耳は非常に愛らしい。
大胆にダメージ加工されたデニムパンツからは白く透明感のある太腿が部分的に露出しており、俺の男心をくすぐった。
「どうだった? 初めてだったんだよね、気持ち良かった?」
「いや、言い方」
「私も初めてだったから……その、上手く、出来たかな?」
「だから言い方っ!」
白く透明感のある腕を後ろで組んで、上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる佐倉。セリフがなんとも、その……非常にアレだ。わざとやってんじゃないだろうな?……って、アレ?
「初めてだったのか? 人を乗せるの?」
「うん、そうだよ。免許を取ってから一年間は後ろに人を乗せたらダメなんだってぇ。だからついこの間解禁になったばかりだったんだよ」
ほう、そんな法律があるのか。俺の元いた世界でももしかしたらそんな決まりがあったのかもしれないな。全く知らんけど。
人生初のニケツの相手が俺っていうのは、何というか……何だか嬉しいと思えた。
「その、ホントにどうだった? バイク、嫌いになったり……」
今度は意味深な聞き方ではなく、直球で、しかしオズオズと遠慮がちに聞いてきた。
どうやら本当に感想が欲しいようだった。俺は少しだけ考えてから、素直な感想を述べた。
「楽しかった」
「え、ほ、本当?」
俺の答えを聞いた佐倉は顔を上げて少しだけ驚いたような顔をした。
「意外か?」
「う……うん。少しだけ浮かれちゃって、調子に乗って飛ばし過ぎちゃったかなって思ったから」
そう言うと佐倉はまた後ろ手に組んで目線を逸らした。
少しだけバツが悪そうに口を尖らせ、ちょっぴり頬が赤らんでいる。ちくせう。可愛いなおい。
確かに初めてのバイクは強烈な体験だった。
周りに何もない状態で何十キロものスピードが出るのはすごく怖かった。
怖かったけど、佐倉は無茶なスピードを出したり、カーブの時に無駄に身体を傾けたりしていたわけでは無い。
あくまでも初体験の俺を気遣った運転をしていたように思う。(所々タガが外れたりしていたけど)
「確かに初めてで怖かったけどな。けどそれよりも楽しかったよ」
「あは、あははっ……そ、それは良かったよっ」
俺の答えを聞いた佐倉は心底ホッとしたように笑った。
確かに運転中の佐倉は水を得た魚というか、すごくイキイキとしていたように思える。
風を感じ、陽を浴びて、すごく輝いていた。
それはきっとこの街、トウヤ市にひとときの平穏が訪れたからに他ならない。
一時的にとは言え、訪れた平穏からくる解放感。今までの重責から考えて、少しくらい浮かれたってバチはあたらない。
「また今度連れて来てくれよ」
そう言って佐倉に笑いかける。と、佐倉の頬を一筋の涙が伝った。
「……え、佐倉?」
この後俺はその涙の理由を知る事になる。
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続きは近日中に投稿予定ですので、楽しみにして頂けるとありがたいです。
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