【マリオン・シュヴァリエ】①
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莉子の因縁の相手登場です。
近距離に居た敵機はとりあえず撃破した。
次に来るのは距離にして三〇〇から五〇〇にいるヤツらだな。
俺は残量が少しになったアサルトライフルのマガジンをパージすると素早く新しいマガジンを装填し、遊底をスライドさせた。
あと何機だ。
俺は中距離に居る何機かの“ヴォルガー”と戦おうと、距離を詰める。
その時、コクピットのスピーカーに声が響いた。
『そこまでですわっ!』
「……?」
次の手を考えている時、オープンチャンネルで無線が入ってきた。
聞き覚えのある声、お嬢様キャラ的な話し方!
「……“ジャンヌ・ダルク”っ!」
目線を上げると、俺たちとは対角のビルの屋上に一機のパトリオットが佇んでいた。
群青色と白の鎧を身に纏った騎士のような装甲。所々に黄金色の装飾が施され、頭には王冠を思わせる機関。その様はまさに王のようだ。
ヴァリスセイバーのような大型のSVSを杖のように突き立てている。
『そのご様子ですと、大人しく基地を明け渡すつもりはない様ですわね』
「……」
『再三に渡り撤退の機会を与えて差し上げましたのに。寛大な私の配慮に感謝しつつ、それを無視した愚かさを悔いなさい』
佐倉は“ジャンヌ・ダルク”を睨みつけ、ギリと奥歯を噛み締め強く拳を握った。
“ジャンヌ・ダルク”はビルの上で俺たちを見下す様に仁王立ちしながら、偉そうな口上を述べ続けた。
『選びなさい! 我が軍門に下り、女王陛下に恐れ多くも寵愛賜るか、ここで一族共々朽ち果てるかをっ!』
本当の戦争の理由なんてわからない。
分からないけど、少なくとも佐倉は家族や仲間を守るために必死に戦って来た。
それを支えるために佐倉の家族は、並々ならぬ覚悟を常日頃からしてきて、佐倉が出撃して行く度に心を削り取られ、帰ってくる度に安堵し涙を流してきた。
単に平和に暮らしたいだけなのに。
こいつらさえ来なければ。
異世界からの侵略者、ルゴール王国の奴らさえ来なければ今頃、佐倉達は戦いに身を投じる事なく幸せに暮らしていた筈だ。
それを、一方的に攻めてきたくせに!
大好きな家族と永遠に別れる事を何回も覚悟して来た佐倉。
その覚悟を何度も踏み躙られ、何度も敗北し、不甲斐なさに涙を流した。
それでも何度も立ち上がり、街を守ろうとしてきた。
その度に佐倉の前に立ちはだかり、ジリジリと追い込んで行ったのがコイツ、“ジャンヌ・ダルク”だ。
もう我慢出来ない。
『ルゴール王国騎士団シュヴァリエ隊隊長、マリオン・シュヴァリエ。女王陛下より賜りしこの“ジャンヌ・ダルク”で決闘を申し込みますわっ!』
“ジャンヌ・ダルク”のパイロット、シュヴァリエっていったか。そいつが突き立てていた大剣を鞘から引き抜き、切先をこちらに向けてそう宣言してきた。
一騎打ち。願ってもない事だった。
ザコの“ヴォルガー”相手とは言え、コクピットから外して照準し続けるのはそれなりに神経を使う。
一対一で戦って、勝ったらこの戦闘が終わるって事でいいんだよな?
「佐倉、この一騎打ちは受けてもいいんだよな?」
簡単においそれと受けてしまって良いのかわからなかった俺は、佐倉に判断を仰ぐ事にした。
って言っても受ける以外の選択肢は無いだろうけど。
案の定佐倉は頷いた。
「……うん。出来れば受けて欲しい。そして――」
「勝てば良いんだろ」
「う、うん……ははっ、でも簡単に言うね。私がかなり苦戦した相手なのに」
ワイプ越しに目線を合わせると、佐倉は眉端を下げて気まずそうに苦笑し「でも有馬くんなら勝てるよ、絶対」と付け加えた。
苦戦とは言ったけど聞いた話じゃ、佐倉はヤツに負け続けているみたいだ。
その度に打ちひしがれ、プライドは傷ついて……けれど心を折る事なく何度も立ち上がった。
それも今日で終わりにしてやる。
「それは任せろ」
「うんっ。頑張って、有馬くん。私も一緒に戦うから」
俺は力強く返事をして、“ジャンヌ・ダルク”のパイロット、シュヴァリエに返事をする為にオープン回線を開いた。
「あー、あー、テステス。その勝負? 受けなくもないぞ」
『っ!? お、男っ!? そんなバカなっ!?』
ああ、そうか。【パトリオット】に男が乗ってるのが珍しいんだったな。
俺の声を聞いて驚いたのか、シュヴァリエとかいう奴が驚いた様な声をあげた。つかバカじゃねぇし。
「男だから何だってんだよ。男相手じゃ戦えないってか?」
『こほん……いえ、パトリオットに男性が乗っているという事に驚いただけですわ。どういうカラクリかは分かりませんが、やる事は変わりませんの。手加減は出来ませんがよろしくて?』
俺の挑発を軽くあしらい、冷静さを取り戻したシュヴァリエは落ち着いた声色で話す。
「それはこっちのセリフだ。やるからには全力でやらせてもらう」
自分の中に芽生えた高揚感を押さえ込む。
俺は戦いを楽しむつもりなんてない。それでも心の奥底で燃える【パトリオット・オンライン】のプレイヤーとしての闘争心。
俺の後ろには、正確には佐倉の後ろには守るべきものがあるというのにこの戦いを楽しみにしてしまっている自分に驚いた。
『結構。男性に負けたとあっては騎士シュヴァリエ家の名折れ。もし私が負ける様な事があったら貴方の召使いになって差し上げますわっ』
召使い……? いや要らんけど。
……あ、いや超絶美人か美少女。さらに言えばケモミミもふもふの召使いもといメイドさんなら是非ともお願いしたいけどな。
ロボに匹敵する漢の浪漫だろ。
そこで俺は自分の口元がニヤけている事に気づく。
もちろんケモミミもふもふメイドさんの姿を想像したからでは無く、自分の力で誰かを救えるかも知れないと今更ながら実感したからだ。
俺は、無駄だと言われてきた【パトリオット・オンライン】の能力を最大限に活かすチャンスに恵まれて、それを実行できる喜びを感じているのだと。
『ですが私が勝てば一生私の小間使いですわ!』
仕事、仕事で俺を見てくれなかった両親。
世界一になっても『たかがゲームだ』と切り捨てられたこの能力を使って、もしかしたら何百人という人を救えるかもしれない。
俺のこの能力で救える命があるんだ。
そう思うと、嬉しくて堪らなかった。
『貴方、名は?』
「俺は有馬優介。パトリオットで世界一になった男だっ」
『ルゴール王国騎士の前で世界最強を謳うか、有馬優介っ!』
「仕方ねぇだろ、事実なんだから」
俺は“ワルキューレ・ブレイズ”の操縦桿を握って、言った。
「……さぁ、胸を貸してやるよ。かかって来いッ!」
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続きは明日の朝更新します。




