【〝世界ランキング一位〟】
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第三話です。
「……つ、次こそはっ!」
そう言って彼女は操縦桿を握り直し、機体を立ち上がらせようとする。
夢の中の出来事みたいだけど、これは、この痛みは間違いなく【現実】だ。
俺はようやくこの状況を理解し始めた頭で思考を巡らせた。
まずは状況の整理だ。
そもそも何故俺が【パトリオット・オンライン】に登場する機体【ワルキューレ】に乗っているのかは考えるだけ無駄だ。そんな事はこの状況を何とかしてから考えればいい。
「索敵……いや、それより身を隠すっ? うあぁ……ど、どうしたらいいのっ!」
次に、この女の子。黒髪の……名前は分からないが、この子と戦っているあのロボット。
アレもこの【ワルキューレ】と同様、ゲーム内に出てきた機体だから見覚えがある。
機体名は【ヴォルガー】。ゲーム序盤から登場する敵国の量産機。しかもチュートリアルにも出てくるくらいだから、まぁザコだな。
その【ヴォルガー】が……ええと、二体……いや、遠距離にもう一体いるな。
つまり俺……じゃない、彼女はその三体と交戦してるって事か。
だけど俺達が乗ってるこの【ワルキューレ】は量産型とは言えプレイヤー用の機体。
ゲーム内だったら、【ヴォルガー】相手に苦戦するようなスペックじゃないはずなんだけど……それだけこの子の操縦がヘタだって事なのか!?
その時、警報が鳴り、正面モニターに赤い警告が表示された。
どうやら【ヴォルガー】がSVSを構えてコチラに向かってきている!?
「くっ! 【ワルキューレ】ももう限界だって言うのにぃ!!」
背面のスラスターを噴射して【ヴォルガー】が一気に距離を詰めてきた。
すかさずこちらもSVSで迎え撃つ。
「っ!!」
【ヴォルガー】の全体重が乗った斬撃を【ワルキューレ】は両脚を踏ん張り、受け止める。
コクピット内に物凄い衝撃が走り、鋼鉄の刃同士が高振動でぶつかり合う。
バチバチと大量の火花が押し込まれた【ワルキューレ】に降りかかる。
『ダメージ甚大。戦闘に深刻な影響』
「くっ……だ、ダメ、かっ……!!」
鳴り響く警報。
コクピット内のモニター全面が、無数の警告表示でいっぱいになり、室内を赤く染めた。
「………………っ!!」
必死に耐える【ワルキューレ】と女の子。
俺は、それをただ息を飲んで見守っていた。
彼女の必死な横顔。
頬はススで汚れ、美しい黒髪は脂汗で額に張り付いている。
「……ま、負けるわけにはいかないんだ、から……っ!」
気を抜くと押し込められそうになる操縦桿を、全体重をかけて押し返す彼女。
歯を食いしばり、全力を振り絞る。
「後ろには……私の後ろには、絶対に守らなきゃいけない人たちが、居るんだからっ!!」
「……守らなきゃいけない人達……」
俺はその言葉を反芻する。
守らなきゃいけない人たちって、一体……。
こんなに必死になって守るものがあるというのが、少しだけ羨ましいと思った。
すると、彼女は何かを諦めるように言った。
「……ごめん、ね……訳も分からず連れてきちゃってさ……っ」
「お、おい、急にどうしたんだよっ」
激しく火花が舞う正面モニター越しにみる彼女の肩が震えて、声がうわずっている。
金属が激しくぶつかる音が耳を刺し、それが焼ける匂いがコクピットにまで伝わってくる。
さらに警報。
いよいよ【ワルキューレ】の関節が軋み、ゾッとする悲鳴を上げ始めた。
彼女は今、必死で戦っている。
守るべきモノの為に、守りたいモノのために……。
……じゃあ俺は?
俺は何のためにここにいる?
目の前の光景は夢でも幻でもない。現実だ。
【ヴォルガー】のこの刃がコクピットに到達すれば俺は間違いなく死ぬだろう。もちろんこの子も。
俺にはこの子みたいに守りたいモノなんてない。
こんな意味のわからない状況で闘う理由なんて一つもない。
だけど……
「……こんな所で死んでたまるかよ」
「……え?」
俺の呟きに、彼女は呆けた声を漏らし振り向いた。
涙が頬を伝っていた。
綺麗だなと、単純にそう思った。
「……要は【パトリオット・オンライン】と同じって、そういうことだろ? だったら……」
俺は操縦桿をゆっくりと、しかし、しっかりと握りしめる。
慣れ親しんだ感覚が指先から全身に駆け巡る。
やれる。いつもと同じだ。
潤んだ瞳で見つめる彼女の視線を感じながら、俺は大きく息を吸って、
そして。
「〝世界ランキング一位〟の腕前、見せてやるよっ!!」
俺はそう叫ぶと、操縦桿を倒した。
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続きはこの後更新。
少しだけストックが有りますので、しばらくは毎日複数話更新の予定です。




