【出撃前の儀式】
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「……結局言えなかったな」
夕食を終えた俺は一人夜風に当たるために格納庫から外に出た。
“ジャンヌダルク”との戦いを明日に控えた俺たちは、機体との調整や軍の偉い人の話、その後作戦会議などに参加させられて、午後九時を過ぎた所でようやく夕食にありつけた所だった。
夕食とはいっても昨日の温かいカレーライスなどとは違って、レーションとか言う非常食じみた食べ物だった。
まぁそう言うのを食べた事がなかった訳だから、逆に新鮮ではあったけど、連日毎食あれでは気が参ってしまいそうだ。
パイロットスーツ姿の俺はトコトコと歩き、胸ほどの高さの鉄製の柵に寄りかかった。
目の前には名前は分からないが、湖が広がっていて、水面には大きな月が写っている。
なんとも美しい光景に、俺は柄もなく少しセンチな気分になる。
……。
言えなかったと言うのはもちろん『食べかけのおにぎりをくれ』という事ではなく、あの『王冠の【パトリオット】』こと“ジャンヌダルク”の事だ。
昨日ヤツとエンカウントした時はあまりの事で気が付かなかったけど、俺はアイツの機体データを全て把握している。
この世界の【パトリオット】は俺が知ってる【パトリオット・オンライン】の設定とリンクしてると考えていいはず。
俺は、俺が持っている情報を佐倉に、この基地の人たちに話して良いものか悩んでいた。
理由は簡単。
もし万が一俺の情報が間違えていた時に、ある程度以上の損害が出ると思ったからだ。
それが例えばゲームだったら『ゴメン』で済むだろうが、この世界ではそうは行かない。
俺の情報を信じて、それを頼りに戦った兵士の命に関わる事故になりかねない。
結局言えなかった、そう言ったけど、やっぱり言わない方がいいよな……?
たまたまここまでは情報に間違い無いけど、いつイレギュラーが発生するか分からない。
これは俺自身が責任を取れる範囲でのみ使うべき知識だな。
明日は昨日戦った廃墟、旧市街地って言ってた所で“ジャンヌダルク”と決戦か……。
なんでも、相手国の【ルゴール王国】とやらはやたらめったら虐殺や略奪とかをする卑劣なヤツらではないらしい。
でも侵略国家なのは間違いないらしく、領地を広げようと攻めてきているって話だ。
もし負けでもしたら……?
佐倉達軍人はどうなる、その家族達は?
家を追われるだけで済むんだろうか。
俺達が負けてしまったら……。
いや、大丈夫。負けなければいいんだ。
俺には【パトリオット・オンライン】で磨いた腕とそれに伴った知識がある。
それを駆使してなんとかやってやるさ。
そう自分に言い聞かせるしか無かった。
◇
出撃当日の朝、格納庫は意外にも落ち着いた物だった。
ロボットが出撃する時のイメージは、整備兵の人とかが走り回って、しっちゃかめっちゃかになっている物と思っていたけど。必ずしもそうではないらしい。
今いるのは最終的なチェックをしているであろう、数人のクルーと、コクピットの端末にノートパソコンを繋いで何かを入力しているオヤジさん。それに、パイロットである俺と佐倉だ。
最終調整を終えた“ワルキューレ・ブレイズ”はハンガーに直立で固定されており、喉元に位置するコクピットハッチが解放された状態だ。
純白のパイロットスーツに着替えた俺と佐倉は、コクピットへ続く足場の上でオヤジさんの作業が終わるのを待っていた。
もっとも待っているのは俺だけで、佐倉はと言うとオヤジさんとあーだこうだと打ち合わせじみた話をしている。
パイロットスーツっていうのは何と言うのか、ピッタリしていて気持ちが悪そうだなって思っていたけど、そんな事は無かった。
ゴムともシリコンとも言い難い素材で、防御力が無さそうなのにこれで防弾までこなすって言うんだから驚きだ。
それと戦闘機のパイロットが被りそうなヘルメット。
戦闘中には可動式のゴーグルに様々な戦闘データが表示されるらしい、これもハイテクの限りを尽くされた精密機器。
そんなヘルメットをいじりながら待っているとオヤジさんが、これで終わりだと言わんばかりの勢いでエンターキーをパチンと叩いて、大きく息を吐いた。
「よし、これでやれる事はやったぞっ! よし、寝るぞ俺はっ!」
「ふふっ、ありがとう、お父さん。後は私達に任せてね」
「おう、頼んだっ。今から俺は仮眠室に行って寝るからよっ。だから起こすんじゃねぇぞ? あー、もう目も開けてらねぇ……照明が徹夜明けの目に刺さるぜっ、眩し過ぎて目が開けてらんねぇ……」
足場の上で仰向けに倒れ込んだオヤジさんは被っていた帽子をグイッと深く被り、目を隠した。
徹夜明けと言っていたが、確か昨日の夜……一昨日の夜になるのか、その日から寝てないようだったから丸々二晩寝てないことになる。
疲労困憊だろう、仕事だとは言え、俺たちの機体を整備してくれたんだから頭は上がらない。
そんなオヤジさんを気遣ってか、佐倉はしゃがみ込み、オヤジさんの手を握って、もう一度「ありがとう」といった。
オヤジさんの手は脂で黒々と汚れていた。
整備士らしい、働き者の手ってヤツかな。
「ありがとう、お父さん」
「おう、わかった。わかったから乗ってくれ。俺はもう動けねぇ……」
帽子を深く被ったまま、佐倉が握っている手とは逆の手をヒラヒラと振って見せた。
それを見た佐倉はふっと優しく笑った。
長いまつ毛の奥の瞳がすごく儚げに見えた。
「……ふふ、分かったよ。じゃあ、コレ、ここに入れとくね……」
そう言って佐倉はヘルメットの中から封筒のようなものを取り出し、それをオヤジさんのツナギのポケットに突っ込んだ。
「ご、ごめん、有馬くん……」
「えっ……?」
少しだけ時間ちょうだい。そういって佐倉は足場を駆けて行ってしまった。
その声は消え去りそうで、そしてうわずった声だった。
「……?」
残された俺は首を傾げるしかなかったが、オヤジさんがむくりと起き上がり、佐倉が入れた封筒を手に取る。
自然にそれに目が向く。
そしてその封筒に書かれた文字に、俺は言葉を失った。
それは、『遺書』だった。
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続きは今日の夜更新。
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