【パトリオット・オンライン】
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第二話です。
前列で奮闘する黒髪長髪の彼女は、操縦桿を必死で握り、正面モニターから目を離す事なく叫ぶ。
「キミっ! 有馬優介くん!!」
「へ!? は、はいっ!?」
いきなり目の前の女の子にフルネームを呼ばれて俺は訳もわからず返事をした。
ていうかこの女の子、なんで俺の名前を知ってるんだぁ!?
「操縦桿を握って!」
「え? えっ?」
女の子に指示をされて、俺は言われるがままに操縦桿……ってコレか? コレでいいんだよなっ!? 握ったぞ!
「ほ、ほら、握ったぞ……そ、それでっ!?」
「は、はぁ!? それで? じゃなくて!! ふざけてないで、まじめに! 得意なんでしょ、操縦っ!」
「は、はぁ!?」
操縦が得意ってなんだよ!?
「俺が!? 一体何の操縦をするっていうんだよ!?」
「あのね! こんな状況でくだらない事言ってないで空気読みなさいな!! この機体に決まってるでしょ!?」
「は、はああああああああああ!?」
え、いや、マジで何言ってんのコイツっ!?
そもそも俺は運転免許すら持ってないんだぞっ!?
なのにこんな得体のしれない乗り物なんか、無理に決まってんだろ!?
「いやいやいやムリムリムリ、マジでムーリー!!」
「だからこんな時にふざけないで!!」
「意味わかんねーよ! 無理なもんは無理!」
「はあ!? 無理なわけないでしょう!……って、きゃあ!?」
「うわっ!?」
女の子は前席の操縦桿を握って必死に操縦しようとしているが、その、何というか非常に辿々しい。
ひょっとして……この女の子も操縦した事がないのか?
すると、
「キミが! この【パトリオット】を操縦した事がないなんてあり得ないのよっ!」
「っ!?」
前列に座った彼女が、不意に振り向き、一気に鼻と鼻が触れ合う距離まで顔を近づけると、その猫のように大きく、まるで宝石のように輝く瞳で、俺の目をじっと見つめてきた。
……その瞳から、俺は目が離せなかった。
彼女の瞳を見つめながら俺は、彼女の口から出た聴き慣れた単語を頭の中で反芻していた。
――【パトリオット】
それは世界的に大人気のロボット操縦シミュレーションアーケードゲーム、【パトリオット・オンライン】に登場する、人型機動兵器……つまりはロボットの総称。
そして俺は【パトリオット・オンライン】の中に数多く存在する様々な【パトリオット】を駆使して、他のプレイヤーを薙ぎ払い、叩き潰し、世界ランキング一位にまで上り詰めたんだ。
改めて見回すと……確かに俺はこのコクピットを知っている。
何度もこのシートに腰を下ろし、数多のプレイヤーと対戦し、勝利してきた、座り慣れたシートだった。
間違いない。これは数ある【パトリオット】の中の一つの機種、【ワルキューレ】のシートだ。
だけど、これって……っ!?
『警告、敵機照準波検知』
「ヤバっ!?」
突然の警報で意識と会話が遮断され、女の子は慌てて操縦桿を掴む。
そして半ば強引に機体を動かし、モニターに映るロボットから撃ち込まれる弾丸を必死で回避する。
だけど。
「きゃあ!?」
「うわっ!?」
『右脚部に被弾。自動姿勢制御装置に大きな問題発生』
無感情に重大な報告を告げる機械の声。これもよくよき聞き返せば、何度も聞いた【パトリオット】のAIの声だった。
さらには正面モニターに『←』の表示。
これは、対戦中のロボットがいる方向を指している。
女の子は俺たちが乗る【パトリオット】を即座に左、つまり敵機がいる方向へと向けつつ、AIにアサルトライフルの装備を命じた。
『アサルトライフル装備』
「当たれっ!!」
腰に構えたアサルトライフルから弾丸が次々と射出される。それによりシートが小刻みに震える。
だが、無数の弾丸は敵ロボットに当たらず、その周りに立つビルのコンクリートをえぐっただけだった。
「あー、もうっ! なんで当たらないのよっ!」
女の子は大声で悪態をつくと、操縦桿を前に倒して【ワルキューレ】を突撃させる。
先程と同じ要領でAIに高速振動する刃を持つ接近専用の武器、【SVS】の装備を命じた。
「SVS、装備っ!」
『了解、SVS、装備』
さっきのアサルトライフルの時も思ったが、やはりこれも【パトリオット・オンライン】のシステムと同じだ。
右の側面モニターの端に【SVS】の表示が出た。右腕に装備したのがわかる。
【ワルキューレ】はそのSVSを一閃させるが、敵ロボットにアッサリとかわされてしまう。
それどころか、前のめりになったところを狙われてしまい、首根っこを押さえつけられ簡単に倒されてしまった。
すると敵ロボットは後方に跳躍し距離を取ると、ビルの陰に身を隠してしまった。
「いったぁ……」
「いてててて……」
俺は強打した顔面を押さえて身を起こして前を見ると、女の子はオデコを押さえながら悶絶している。
俺はさっきの彼女の操縦を見て確信した。
……この子、めちゃくちゃ操縦がヘタだ!!
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続きは明日の夜更新。
少しだけストックが有りますので、しばらくは毎日複数話更新の予定です。